第6話 聖剣ニドヴォルグの秘密


 俺のユウハへの斬撃はまたも空を切った。

 聖剣ニドヴォルグが流体の剣先を動かし斬撃を逸らしたのだ。


 聖剣の剣先はぐにゃりと曲がり、つんつんと俺をつついてくる。


『けひゃ、けっひゃあ! ご主人~。このニンジャぁ、助けてあげましょうよぅ』


「お前が絆されているだけだろう。ニドヴォルグ」


『それもありますけどぉ。この娘、嘘はついてないですぜ。ニンジャなのに正直なんすよ』


 聖剣ニドヴォルグは触れた人の心が少しだけわかる剣だ。切っ先が掠めたときに、このニンジャ娘の真意を知ったのだろう。


「お前がいうなら嘘ではないってことか」

『それにご主人ぃん~。もう国境は越えてるので、いきなり殺人罪も頂けないですよぅ』


「それもそうだな。じゃあニンジャは縛っておこう」


 ユウハは口をあけている。『あ、え、ぇ』と声を漏らしながら、やっと一言。


「その剣しゃべるの?!」


 ニンジャかたなしの、間抜けな顔となって驚いていた。


「聖剣だからな」

『けひゃっひゃ! 偉いだろ』


「いやいや! 明らかに魔剣って感じでけひゃけひゃ笑ってるだけかと思ったのに。なんか優しくない?」


『ああ。ご主人には相手を恐がらせるように振るまえって言われているのさ』


「ニドヴォルグ。あまりネタばらしをするな。舐められる」

『すんません』


「まあ、こいつは俺が間違えそうなときはアドバイスもくれるからな。重宝してるよ」

『ご主人、褒めてくれるから好きっす! けひゃひゃひゃ!』


「なんなの、こいつら……」


 観念するニンジャユウハを、俺は縛り上げる。


「……罠はないようだな」

「罠まで見破れるんですか?」

「俺の『眼』は特殊でね。それより動機が知りたい。ああ嘘は無駄だからな」

「つかないっすよ」


「俺を襲ったのは金のためか。それとも何かの指令か?」


「お金のためです。聖騎士ヒイロが勇者アルネのパーティを抜けて賞金首になったって聞いたから、狙っただけ。だからバックは誰もいない。妹の薬草を買いたいから……」


『嘘は行ってないですぜぇ。ひゃっひゃぁ!』


 魔剣ニドヴォルグが刀身に笑みを浮かべ、はしゃいでいた。


「ふむ。組織的な動きなら抹殺したが……」

「まだ殺すつもりだったんすか?」


「……年頃もちょうどいいか。仕事を頼んでもいいか?」

「拒否権はないっすよ。何をする気ですか……?」


 ユウハが恐怖の表情となる。


「それはな……」

「な、なにを?!」


 俺は縛ったユウハを担ぎ上げ、道中を急いだ。

 俺の目的はリンゴブルム魔導学園なのだ。

 このニンジャを処分することに時間を使うよりは、利用してやろうと考えたのだ。



 ニンジャユウハを担ぎつつ、俺は道中で作戦を伝えた。

「俺はパーティーを追放され二十歳にして学園に入ることになった。だが裏があると思ってね。俺は今日学園に入り、入学手続きを行うから、諜報する暇がない」

「私をどうするつもり?」

「君にはこれから『俺を賞金首として手配』したのが誰なのか、バックに誰がいるかを調べて欲しい。もちろん金は出す」

「私はあんたを殺そうとした。なのに信用するっていうの?」

「利用するだけだ。お前は金が必要なだけのフリーニンジャなのだろう」

「心を読まれているのに、頼むも何も無いでしょ」

「ああ。済まなかったな。心を読めるのは、ニドヴォルグだけだ。俺には謎の能力はないよ」

『けひゃけひゃ』

 魔剣の特性を生かし、飼い慣らしているということだろう。

「ますます聖騎士なのか疑わしいわ」

「俺は利を取る人間だ。君を殺せばニンジャの里の恨みを買うかもしれないからな。お金で動いてくれるなら、願ったりだ」

「……お代は? 額によるわよ」

「これだけやる」

 俺は冒険者一ヶ月分の給料を提示した。

「30万ルピーも? 羽振りがいいのね」

「半分の15を前金でやる」

「前金まで……」

「俺は勇者アルネのパーティを追放された。だけど裏があると踏んでいるんだ。あいつらが俺を簡単に手放すはずがないからな。ニドヴォルグで嘘を見破ることも考えたが、仲間相手には、この剣は使えなかった」

『ご主人は以外と律儀なんですぜ〈嘘を見破れる〉力の情報まで仲間に開示してる』

「信頼は情報開示から始まるからな。君にこの剣の能力を開示したのも、仕事を頼めると考えたからだ。もちろん奥の手は教えないがな」

「残酷な奴かと思ったけど、誠実なとこもあるのね」

「やるのか、やらないのか?」

「やるわ。あんたを賞金首にした奴ら御ことを調べてみる。でも私は命は惜しいから。できる範囲でよ」

「……ありがとう、ニンジャユウハ」

「そろそろ降ろして。自分で歩けるわ」

 担いでいたユウハを降ろし、俺達は街へ向かって走り出す。

 街道の分かれ道で前金を渡し、二手にわかれた。

「頼んだぞ。俺はこれから入学式に向かう」

「本当に、前金まで」

「夜、酒場で落ち合おう」

「わかったわ。ご武運を」

「ああ。ご武運を」

 ユウハとは一旦別れ、俺はリンゴブルム魔導学園へと向かった。

 成り行きで出会ったニンジャのことなのですべて思い通りにとは行かないだろうが、こうした積み重ねが大事なのだ。



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