第7話 入学、そして暗黒魔導の発現


 国境を越えリンゴブルム市に入り、俺はリンゴブルム魔導学園に面接に向かう。


「お待ちしていましたヒイロ様。学長のノームと申します」

「はじめまして学長」


 丸眼鏡に白い髭を生やした学長が俺を迎える。俺は応接室のソファーに腰掛ける。


「わが校は若者を受け入れておりますが、社会人入学も受け入れておりましてな。魔力が大人になってから開花するものもいますゆえ。しかしながら……」

「なんでしょう?」


 何やらノーム学長は言い澱んでいた。


「ヒイロさんは、その。学園生というにお年を召しています。入学手続きというのは制度の範疇かと思いますが、ご不便をおかけするかと」

「構いませんよ」

「左様ですか。問題がないのならいいのですが……」


 俺がこの学園にきたのはアルネ達に案内されたからだ。

【追放】という形でパーティ追放され、若者のひしめく学園に送り込まれたが、俺はアルネ達が事情を抱えているのではと思い始めている。


「面接は以上です。これから魔力検査に入りたいと思いますぞ」

「魔力検査とは?」

「魔水晶に手を当てて判定を出すのです。こちらの間にどうぞ」


 ノール学長についていくと一階の石造りの神殿めいた部屋に入る。窓の外からは生徒らが俺を覗いていた。


「ほっほっ。新入生が来るというので、皆興味深いのですよ」


 学長はそういうものの、生徒らの噂は容赦がなかった。


『おっさん』『おっさんだぞ?』『この年で入学とか?』『ロリコンじゃねえのか?』『いまさら人生やりなおしか?』


などと散々なものいいである。


「始めても?」

「どうぞ」


 正直俺としては、聖騎士としての力があるので魔力測定はさっさと澄ませたいと思っていた。


「ふぅ。はぁぁ」


 俺は神殿中央の魔水晶に手をかざす。

 燭台にのった水晶に手を触れると、漆黒のオーラが俺の手から零れ出た。


 ごごごごご、と大気が揺れる。

 学長の眼鏡も同時にゆれる


「この揺れは?」


 学長が動揺しているが俺は構わず、水晶に魔力を流し込む。


(重要なのはアルネ達のことなんだよな)


 俺を追放したまではいいが、あのとき三人は様子がおかしかった。

 くねくねしてたし、眼がハートだったし、語尾にもハートが着いていた。


 今思い返せば追放の口実を述べるとき、アルネもウェンディもミアハも俺のいいところを言っていた気がする。


(言うままに学園に来てしまった。ここにくれば追放の真意がわかる気がしたが……。もしかしたら俺がするべきことは、あのときアルネ達を問い詰めることだったんじゃ……)


 いつも後になってから、『もっといい選択肢』がでてくるんだ。

 神殿めいた【測定室】の外では、生徒達〈ガキ共〉が方々に俺を指していた。


『なんで鎧着てんの?』『ここ魔導学校だよ』『聖騎士様だって』『すげえ普通じゃん』『聖騎士ってなりたくないクラスだよbな』『花形じゃないしな』『勇者にいいとことられるしな』『魔法も地味だし。補助魔法しかないもんな』


 全部聞こえてんだよな。


 俺を馬鹿にするのはいいが、聖騎士を馬鹿にされるのはちくりとくる。


「ったく。ガキ共が」


 俺は多少の怒りと共に、掌の光が増幅される。

 学園長の眼鏡がバリンと割れた。


「どうしました? 大丈夫ですか?」

「ヒイロ殿。今すぐ水晶から、手を……。いや。そのままでいい。私は、生きている間に見ることができるとは……」


「なんの話です?」


 ばりん、と水晶が割れ、漆黒のオーラが部部屋中に解放された。

 ごうんごうんと〈波〉が部屋中に舞う!


「これやばくないっすか?」

「そのままで。そのままで居てください。この魔力を測定しなければ」


 生徒達が悲鳴を上げながら逃げ出している。 漆黒の渦の中で俺は、自分がわからなくなる。


「これ、やっぱやばいっすよねぇ」

「そのまま。そのままで! うわああああ!」


 ノール学園長もまた、漆黒のオーラに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「大丈夫ですか? くっ。うおおおお!」

「やはりそうだ……。この暗黒渦〈ダークシュメイル〉はやはり……」


 眼鏡が割れたまま、ノール学園長は呟く。


「888年に一度現れる。暗黒魔導の化身。〈グランヴァルター〉の反応だった、のか……」


 学園長は全身を歓喜に震わせている。


「あの、もうやめていいっすか?」

「まだだ! まだ、闇魔導の深淵を私に見せ……」


 神殿の部屋は、すでに壁が崩れ始めている。 生徒が逃げ出し、外では先生が避難を叫んでいた。


 俺はさすがにまずいと思う。


「いや、やばいから止めますよ」


 ふきすさぶオーラを収束させ、掌に納めた。「えい」

 波動は球体となり、俺の掌で収束。やがて小さな粒となる。

 荒れ狂う黒いオーラは俺の手の中で消える。「もう安心ですよね」 


 半壊した神殿の部屋で周囲の教師、生徒らが俺を遠巻きにみていた。

 明らかに、奇異の者を見る目だ。

 なにか、やってしまったのだろうか……? 



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