第4話 暗黒魔導の片鱗
「……ヒイロに一番救われたのは、子供の頃の話よ。今ではあたしはドラゴンスレイヤーなんて呼ばれてるけどさ。全部あいつのおかげなんだ」
アルネは5年前、14歳の頃を思い出す。
「始めて竜を殺したのは、あいつの付与魔術のおかげだった。あたしとヒイロは幼なじみで、一緒に冒険者の訓練をしていた。村では同じ剣術道場に通ってたからね」
アルネはしみじみと回想する。
「村の裏手の森を歩いてたんだ。ふたりで花畑に行きたくてさ。小さな冒険のはずだった。 だけどお花畑に入るところで、竜に遭遇したんだ。十年に一度の不運って言われたわ。村まで逃げようと思ったけど、竜は完全に私たちを標的にしていた。逃げられないって思ったときにはもうヒイロは立ち止まっていて『ここは俺に任せて先に行け』って……」
「子供の頃からタンク気質か。14歳ってレベルじゃねえな」
ウェンディが武闘派の見解を述べる。
「で、どうなったの?」
ミアハが目を輝かせて、詰め寄る。
「あたしも一緒に立ち止まった。置いていけるわけないじゃないって。ヒイロは『死んでも食い止める』って聞かなかった。でもね。駄目だったのはあたしの方なんだ。あのとき私は、判断ひとつできなかった。そしたらヒイロがね」
「「ごくり……」」
「『逃げないなら一緒に倒すぞ』って」
「いつもどおりのあいつだ」
「通常運転だね」
14歳のアルネとヒイロの物語に三人が陶酔の表情となる。
「不思議と力が湧いてきてね。あたしの周囲には【どす黒いオーラ】が纏っていた。無我夢中で闘ったら竜を倒してて……。竜殺しを覚えたあたしは、次々に竜を狩れるようになった。気づいたらドラゴンスレイヤーなんて呼ばれるようになってたんだ」
ウェンディとミアハが顔を見合わせる。
「いい話じゃないか」
「問題ないね」
「でもこの話には裏があるんだ。14歳のあのときヒイロの身体は爪で貫かれていた。目の錯覚だと思ったけど、今ならわかる。あれはきっと暗黒魔法の……」
ミアハがまっさきに訝しんだ。僧侶の勘だった。
「ねえ。それって暗黒魔導〈反転再生〉じゃないの?」
ウェンディも腕を組み頷く。
「じゃあよぉ。アルネが【どす黒いオーラ】で竜をひとりで倒したのも、あいつの魔力バフのおかげかもな」
「だと思う」
アルネも納得するところだった。
ドラゴンスレイヤーになったのはアルネの力だけではない。
ヒイロの秘めたる暗黒魔導が作用していた可能性があるのだ。
三人はヒイロが暗黒魔導の力を秘めていることに気づいていた。
「自分の力に気づいていないのはいあいつだけよ。ヌーメロン教会から【暗黒魔導師なので死刑にする】って聞いたときも、私はありえると思った」
「本人に鎌ぁかけたことはないのか?」
ウェンディが気にかける。ギャルめいているだけあり、心の機微を読める重騎士だ。
アルネは首を振る。
「あの生真面目な奴よ? 『聖騎士になって皆を守る』っていうような奴が『実は暗黒魔導師でした』って言われたら……。苦悩してしまうかもしれない。だからずっと【どす黒いオーラバフ】のことは秘密にしてたの」
「わかるぜ♡」
「わかりみ♡」
「それにあいつの力が知られたのは……。パーティーが有名になったから。巡り巡って、あたしのせいなんだ」
ヒイロの暗黒魔導の資質が漏れたことを、アルネは自分のせいだと言った。
ウェンディがアルネを抱き留める。
「お前のせいじゃねー。あたしら皆の問題だ」
「ウェンディ……」
ミアハも頷く。
「ヒイロなら、そういうよね。私達は仲間で家族なんだって」
「ミァハも…」
ウェンディに抱きしめられつつ、アルネは今後の展望を語る。
「ヌーメロン魔導教会とはすでに【恩赦の条件】を交渉しているわ。あたしら三人で、瘴気竜バハルドレイクを討伐する。恩赦を得れば、ヒイロは帰ってこれる」
アルネは勇者なだけあり、仕事が早かった。
重騎士と僧侶のふたりも展望がわかれば、見通しが立ってくる。
今後の目的はひとつ。
瘴気竜バハルドレイクを討伐し、ヒイロへの恩赦を得るのだ。
「問題はあなた達ふたりよ。瘴気竜バハルドレイクは強敵すぎる。もし嫌ならパーティーを抜けてくれても……」
アルネを遮るように、ウェンディが拳を鳴らした。
「馬鹿言うな。3人でやればいいだろ」
ミアハも当然のように頷いた。
「皆でがんばろ。いままでヒイロに何度も救って貰ったんだから」
「ふたりとも……。ありがとう」
円陣を解き、勇者アルネはヒイロが去って行った方角に呟く。
「待ってなさいヒイロ。すべてが終わったら、全部、教えるからね。あたしらの心はひとつ。救って貰った命への恩返しだ。あんたの死刑を回避する!」
女三人でヒイロの恩赦を得るために、瘴気竜バハルドレイクを討伐へ向かうことにする。
「恩赦を取るぜ!」
「がんばるぞ!」
追放はヒイロにショックを与えたが、守るための追放でもあったのだ。
そして【守るための追放】から三日後。
事情を知らない聖騎士ヒイロは、国境を越え〈リンゴブルム魔導学園〉に向かっていた。
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