第3話 追放の真実


 聖騎士ヒイロが去った後。


 勇者アルネ、重騎士ウェンディ、僧侶ミアハは三人で肩を組み円陣をしていた。


「……行った、よね」


 アルネはヒイロのいった方角を見つめていた。ウェンディとミアハもほっと息を吐く。


「あーしははらはらしたぜ」

「名演技だったでしょ」

「おいミァハ。お前が一番デレてただろ。なんだよ『ありがとう♡』って」

「ウェンディだって似たようなものだったでょ! 顔真っ赤にして!」


 ウェンディとミァハが、小突き会う。

 アルネは、言い合いするウェンディとミアハを同時につねる。


「いだだだ!」

「いたい、いたいっ」

「顔が赤いのは全員でしょ!」


 アルネはヒイロの去った方角を、まだ見つめていた。


「まあいいわ。今のところは結果オーライ。ヒイロが追放の真意に気づいてないってことが大事なのよ」


「あいつ、鋭いからな」

「好意には鈍いけどね」


 ウェンディとミアハも、頷いた。


 ヒイロ以外の三人の女の子には、彼を追放しなければいけない事情があったのだ。


 事の発端は、ヌーメロン魔導教会から送られた【督促状】だった。



【聖騎士ヒイロに暗黒魔導師の疑いあり。至急投獄要請後、死刑を求刑する】



 出頭すれば間違いなくヒイロは処刑されるだろう。


 ヒイロがこのヌーメロン国にいる限り、手をこまねいてはいられないということだった。


 ヒイロはパーティを守るためなら死ねる男だ。

 だからアルネは理由を話さず、問答無用で追放するしかなかった。


「でも、いいのかな。ヒイロにはちょっと嘘ついちゃったよ」


 僧侶ミアハは不安げにアルネをみる。


「多少の嘘は仕方がないわ。あたし達がいえるのは【暗黒魔導師の疑惑】があるってことまで。【死刑を求刑】まで言ったらアウトだわ。嘘でもつかないとあいつは止められない」


 アルネの言葉に、ウェンディも同意する。


「あーしもアルネの判断が正しいと思うぜ。本当のことを……、【死刑宣告】と【恩赦】のことまで言っちまったら、あのお人好しの馬鹿は、あたしらの名誉のために大人しく捕まるだろう。たとえ死刑だろうとな」


 ウェンディは、拳を握った。


「あいつをむざむざ死刑になんかできるか。あーしにはあいつに守られてきたんだからな!」


 ウェンディは思い出を語り出す。

 重騎士のガントレットがぎりりと握られた。


「あれはゴブリンの巣穴に捕らわれたときだった。あーしは覇気でガンを付けてきて生き延びたが……。ゴブリンの中には覇気じゃどうにもならねえ〈ゴブリンオーク〉がいた。ヒイロが来なかったら、あーしは死んでいただろう」


 重騎士であっても、鎧を剥がれればただの女の子だ。

 強がってはいたが、ウェンディは本当にヒイロに感謝していた。


 アルネとミアハが続きを促す。


「「その話。詳しく」」


 ウェンディはしみじみとなった。


「ゴブリンオークの斧は鎧を砕いてきた。あーしは鎧を剥がされて、胸もこぼれちゃって絶対絶命だった。そこにヒイロは……。颯爽と現れたんだ!」


「「続けて!」」


「あいつは鎧を砕かれながら、ゴブリンオークに突っ込んでいった。聖騎士は王道職に見えるが、攻撃特化の相手に弱かったりする。だけどあいつは違った」


 ウェンディの眼は、美しい思い出を語る少女だった。


「ヒイロは鎧を砕かれても折れなかった。あいつは職業が聖騎士なんじゃあない。ねっからの心までが聖騎士なんだ。あーしはお姫様抱っこをされて、ゴブリンの巣穴から抜け出した。なのにさっきは【邪魔】だなんて。心にもないことを……」


 アルネはウェンディの肩をつかみ抱きしめた。


「仕方がないことだわ。馬鹿正直なあいつを生かすためには、こうするしかなかった」


「私もあるよ。ヒイロの自慢エピソード」


 今度は僧侶ミアハが手を挙げる。


「「聞かせて」」


 勇者と重騎士に促され、ミァハは語り出す。


「あれは暗黒魔導師ネグレガルとの闘いのとき。私は暗黒魔法ザッハークの威力を知るや絶望していた。ヒイロが結界を張ってなかったら、ザッハークの結界貫通で私の胸には穴が空いていた。思い出すだけでも震えが止まらないよ」


 ミアハは僧侶の杖をぎゅっと握りしめる。


「だけどね。ヒイロは『皆で生きるんだ』っていったんだ。私は孤児院で育って……。孤児院でもひとりだったから。【仲間】とかがわからなかった。でもヒイロといるとね。これが本当の仲間なんだって思ったんだ。自分の命を失う恐怖が、皆と一緒に生きる勇気に変わったんだよ」


 勇者アルネは、今度はミアハの肩を抱いた。


「わかるわ。あいつはぼんやり大人しい奴にみえて、さらっと格好いいことをいうのよ!」


 ここまでくればあとは残りひとりだった。


「「さて」」


 ウェンディとミアハが顔を見合わせ、アルネをみた。


「何よ。ふたりとも……」


「あーしらが話したんだ。こんどはアルネの番だぜ」

「エピソード、あるんでしょ?」


「あんた達……。もう、しょうがないわね。」


 勇者アルネは頬を染めつつ、ヒイロとの思い出を語り出す。





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