第2話 聖騎士の罪(愛)
「ヒイロってさあ。タンク役を買って出ることもあるよな。言いにくいんだがな……」
「言ってくれ。改善できることならする」
ウェンディは金髪に小麦色の肌で、頼れる姉御肌だった。着込んだ鎧には、筋肉と共に豊満な肉体が隠されている。
「じゃあ言うぜ。ぶっちゃけ、邪魔なんだよね♡」
ウェンディの重騎士の力は一流だった。
以前彼女がゴブリンに捕らわれたのを救出に向かったことがあったが、『殺してみろよ。おぉん?』とゴブリン共を圧倒していた。
ウェンディが単身時間稼ぎで粘ってくれたおかげで俺の救出が間に合ったのだ。
俺がいなくても、彼女は立派な重騎士なのである。
だが邪魔と言われるほど、俺は弱くは無かったはずだ。
「何が邪魔なのか教えてくれ。できるだけ改善する」
「いつもいつも、あーしがひとりでできる局面で、あんたが横に並んでくる。先日の邪炎竜討伐の時もそうだった」
「邪炎竜のブレスは魔法攻撃だ。ウェンディの重騎士クラスでは炎魔法などの魔力攻撃に弱い。聖騎士の俺が隣にいることで、魔法防御を上げなければ、君は消し炭になっていた」
「あーしは魔法防御もしっかり高い重騎士だぜ」
「それもわかっている。あのときは念のためだった」
「あんたのバフなんかなくたって耐えられたさ。だがあーしが言いたいのはそこじゃねえ。あたしに魔力を譲渡したおかげであんたの魔法防御が下がっていただろ?」
「俺のことはいいんだよ」
「よくねーだろ! 消し炭になるところだったのは、あーしじゃなくて、あんたの方だ!」
「たしかにあのときは、俺だけ少し火傷したな」
「ほら。怪我してただろ。だから足手まといだっつったんだよ! あたしに魔法防御の魔力を渡さなかったら、あんたは無事だった。余計なことしやがって!」
ウェンディは暑いのか、鎧をはだけてタンクトップを垣間見せる。タンクトップの隙間からは肉が惜しげも無く零れていた。
目のやり場に困りつつ、俺は考える。
(怒られているようだが、ウェンディは俺を心配してくれているような気もする。どういうことだ?)
彼女もまた、耳まで真っ赤だった。
語尾にハートが付いている気もするが、間違った解釈は危険だ。
やはり怒り心頭だからこそ、顔を赤くしているのだろう。
俺は反省しつつウェンディを諭す。
「わかった。君も俺を心配してくれていたならこれから善処する。だが俺は女の子に火傷をさせたくなかった。その小麦色の綺麗な肌に火傷が残っていたらと思うと……」
ウェンディはぼっと、さらに顔が赤くなった。
「ま、まあ。おかげで火傷せずに澄んだしお肌もまもられたがよぉ♡」
「君のお肌が守られたならよかった。気を遣っているのも知っているからな」
「う、うっせーしぃ! とにかくてめーは追放な♡」
いつもどおり仲がいいやりとりのはずだ。
何故か彼女達は俺の追放に拘っている。
裏に何かあるな。
俺は最後に、僧侶ミァハに視線を向ける。
ミァハもまた俺をジト眼でみていた。
「ウェンディは絆されたようですが、私には聞きませんよ。ヒイロさん。あなたは追放ですからね♡」
「ミアハまでか……。言ってみろ」
ミァハは肩のあたりで結った黒髪に、だぶだぶのローブを着込んでいる。
ローブの下は着痩せすることを俺は知っているし実際豊満だ。
「あれは邪神教団幹部ネグレガルとの闘いのときでした。魔法防御が強いはずの私にネグレガルの杖が向けられた。暗黒魔導師相手には僧侶である私が結界を張ることでタンク役となるはずでした」
「そうだ。役割の〈スイッチ〉を任せたんだ」
「なのにあなたは私と合わせて二重結界を張った。密着するような近い距離で……」
「あのときのネグレガルの攻撃は、君の結界では、防げないと思った」
「私のこと舐めてます?」
「舐めてはいないが、命が優先だと判断した。あのときネグレガルが放った暗黒魔法は【結界貫通魔法ザッハーク】だったからだ」
「存じています。暗黒魔法ザッハークは〈貫通〉、〈生命吸収〉など複数のパターンがあります。〈結界貫通〉のパターンならば、僧侶の結界一枚では即死しちゃう。だから、あのときは本当に……。助かったよ♡ ありがとう♡」
ミアハに至っては何故か感謝されていた。
「助かったなら何よりだ」
「はっ! じゃなかった! あなたはとにかく追放なんです♡」
ミアハからは追放はないだろうとふんだが、やはり俺を追放したいようだった。
「今のは問題ないんじゃないのか? 俺のどこが悪いんだ?」
「疑問がありました。何故、聖騎士のヒイロが、暗黒魔法を知っているかってことです」
「俺は暗黒魔法の分析も欠かさないからな」
「暗黒魔法は分析程度でわかるものじゃない。私でさえザッハークの判別はできなかったんだよ?」
「何が……。言いたい?」
雲行きが怪しくなってきた。
アルネがとどめを指すように口を開く。
「聖騎士ヒイロ。あんたには教会より暗黒魔導師の疑惑が駆けられているわ。だからパーティーからは追放するの♡」
ここで俺は三人の意図を始めて理解した。
「な、なんだって?!」
追放の理由は、俺に暗黒魔導師の疑惑がかかっていたからだった。
それはパーティの皆が俺の追放を望む、十分な理由になりえたのだ。
ウェンディが腕を組み、追撃をかけてくる。
「暗黒魔導師の疑惑がある奴がパーティにいたら、あーしらも迷惑ってことだぜ♡」
とどめはミァハの一言だった。
「いままでありがとうね。だから、さよなら♡ 元気でね♡」
三者三様に俺の追放を口にした。
言葉がでない俺に、アルネが一枚のチケットを渡す。
「第二の人生として魔法学園を紹介してあげるわ。まあ学園生からやり直せって事ね」
綺麗な指先が、俺の胸ポケットにチケットをねじ込んだ。
「お前らの言い分はよくわかった」
俺はアルネから魔法学園の生徒手帳を受け取る。
【リンゴブルム魔法学園】
それは国境を越えた隣国の学園だった。
聖騎士として身を立てている俺に、今更学園からやり直せなどとひどい仕打ちにもほどあるが……。
行けというならば行ってやろう。
「もう、会うことはないのか?」
「ええ。元気でね」
「皮肉か」
「……本心よ」
アルネはどこか寂しげに目を伏せていた。
わけがわからない。
これほど追放を望まれたなら、これ以上何もいえない。
俺はきびすを返すしかできなかった。
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