第4話 証人
その後、藤原夫妻は話し合い、離婚を正式に決めた。そして、夫の藤原勝也は友人の河野純一と会っていた。勝也は離婚といっても、全面的に自分に非があると思っていたので、話しやすい独身の男性を選んでいた。
「妻と離婚する事になりました。そこで、証人になってもらえませんか」
と、切り出した。
「それは構わないです。でも、奥さんににらまれるようなのは嫌ですよ。奥さんやお子さんたちが、困らないように考えているのでしょうね」
と、尋ねた。
「河野さんは、優しい人だから、証人をお願いしたいんです。時々、河野さんの言われた事を妻に話すと、その度に良い人だと言うんです。妻も安心すると思いますよ。
河野さんぐらいなら、いくらでも愛人を囲えられるのに、結婚はしないんですか」
「私は、そんな事、しませんよ。でも、本当に愛する女性が現れたら、結婚しますよ。そして、良い夫でもって、良い父親にも成りたいと思っています」
と、微笑んだ。
「結婚って、大変ですよ。僕の愛人に子供ができたのが許せないと言って、子供たちも妻に付いて行くみたいです。
今まで育ててきた事が、まるで水の泡になってしまうのですから、男って損ですよね」
河野は藤原という男性の考え方に頷けなかった。愛と遊びは違うと思った。遊びを優先して愛を忘れてしまっているように思われて仕方なかった。
また、河野は女性側にもシンデレラ願望があり過ぎると思った。その点で、河野は自立する女性が好きだった。頼られる喜びよりも、対等に付き合う関係が良かった。
そんな考え方は木藤昭夫と似ていた。しかし、違っていることがあった。それは、愛する女性が出来た時の河野の考えが決まっていることであった。河野は愛する女性が出来たら仕事を譲って、結婚しょうとずっと考えていた。
河野は愛するなら、片時も離れられないと思っていた。また、そう思える夫婦でありたいと考えているのだ。
しかし、そのことは今まで誰にも話したことがなかった。話をしても、そんな女性が現れなかったらどうしょうもないと思ったからだ。河野は男性だったので、そんな夢をいつまでも見られるのかもしれない。
河野は藤原のように、親から受け継いだ財産はなかった。しかし、一代で今の貴金属店を持つに至った。経営の手腕もあり、年毎に業績を伸ばしてきた。河野は社長で、弟に専務を任せ、いつでも退ける体制だった。弟は兄の信頼に答えて確りと仕事をしていた。ただ、弟は兄が結婚しない事に、首を傾げている。
河野は、藤原の頼みで離婚の証人になり、藤原の妻の理恵の頼みで奈美も離婚の証人になっていた。奈美は離婚届の証人の欄に署名捺印するときに、河野純一の氏名を覚えていた。しかし、河野は奈美が証人になった事は知る由もない。
そうして、藤原夫婦は離婚した。娘たちは母親の理恵と一緒に暮らす事となった。夫の勝也は理恵に2億円を渡して離婚したのだった。
理恵は奈美の近くのマンションを買って引っ越してきた。二人の娘は大学を卒業したら三人で何か仕事をしようと話し合っている。一先ず、三人でのんびり将来を考えようと明るかった。
理恵は45歳で、二人の娘は姉が20歳で妹が18歳だった。二人娘は父親を見て来て、女性が男性に頼る関係がいやだった。理恵もまだ若いのでやり直しをしたいと思っているところに、娘たちの応援があって離婚を決心したのだった。
勝也は妻子が家を出た後、愛人と息子を家に入れた。勝也は、息子を可愛がる一方で、女遊びを止める気配がない。
愛人は分かり切っていることと、養ってもらっているだけありがたいという具合だった。勝也はますます、女性関係がルーズになっていった。
愛人は勝也の家に入ったが、息子の認知だけで、正妻にはなれなかった。この女性は息子のためと、囲われの身の道を選ぶのだった。前妻と全く違わない生活をしていながら、勝也の気紛れで、いつ追い出されるか分からない身の上だった。
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