第2話 結婚観
奈美は、裕子や信枝が考えるような寂しい思いをしていなかった。45歳になるまでの人生は仕事と恋愛の日々であった。奈美の回りには独身貴族を謳歌している男性が何人もいた。妻帯者に興味がない。それだけ結婚というものを美化していた。
奈美は自分の心を偽ってまで結婚をしようとも思っていなかったので、他の人と結婚した真壁友典とは別れた。
「奈美が結婚してくれないから、僕は別の人と結婚する。でも、奈美とはずっと恋愛したいなぁ。男って女房がいないと駄目なんだよ。社会的な信用もあるし、忙しい僕には家事をしてくれる女性も欲しいし、子供も欲しいんだ。これは、未来永劫に変わらない男の習性だよ」
と、見事に言いにくい事を正直に披露した。
恋愛の対象者の中には、独身主義者もいた。その男性は、木藤昭夫という。奈美は昭夫にとって理想の女性像であった。それは、男性に対して依存心がなく自立していることだった。また、男性の価値を収入や容姿で推し量ることをしない。仕事と恋愛に対して潔かったことで、心置きなく付き合えた。
しかし、昭夫は頭で分かっていても奈美との交際が長くなるにつれ、独身主義に陰りがでてきた。
「奈美となら、上手くやっていけるような気がするよ。お互いを認め合い、あとは今まで通り自由にやれば問題はないのだから」
と、結婚を迫った。
「昭夫さんと上手くやっていけるかは分からないわ。まだ、私には妻の存在が分からないの」
と言って、昭夫の心変わりに驚いた。
奈美はこの時、昭夫との間に隙間風を感じていた。昭夫が奈美のために考えを改めるとしても、どれだけお互い負担であるかを考えると、まだ二人には実を結ぶきっかけを見出せなかった。
奈美の交際相手には、離婚を経験した中谷孝志がいる。若い時に離婚しているので子供はいない。孝志が言っていた。
「愛した人といつも一緒にいたいと思ったから結婚した。しかし、俺たちは25歳と22歳だったから、何年か働いて余裕が出来てから子供を産もうと、話し合っていた。
最初はお互い仕事が終わると真っ直ぐ家へ帰って来て楽しい毎日だった。でも、そのうちにお互い仕事から帰って来る時間が遅くなって、先に帰って来た方が待つ寂しさを味わうことになった。つまり、すれ違いだね。
それで、俺が子供を作ろうと言った。しかし、彼女はもう少し後にしょうと言う。それまで二人が家事を平等にやっていたことが、彼女にはとても気に入っていたらしい。子作りは受け入れられず、俺の方が不満を募らせ、離婚した」
と、淡々と語った。
孝志は今、貿易商で成功していた。しかし、結婚へのわだかまりがまだあるらしく、再婚はしていない。孝志は優しいが、女性は弱い者という考えがあり、そこが奈美は気がかりだった。
愛と生活って矛盾する。仕事をしなければ生活はできない。それで、仕事に熱中すると二人の愛に、隙間風が吹く。夫婦がお互い、家庭をそっちのけで仕事に向かいたくなる心理って何なのか。それは、家庭より社会に楽しみがいっぱいあるからなのか。愛にも勝るものが、あるのか。社会の建前と本音に振り回されている現状があるのか。だから、自由に生きる道が、独身でなければならないのか。
奈美が結婚するのなら、男女のこだわりを持たない男性を選び出すという至難のわざが必要だった。女性の自立が、男性の排除とは考えていなかった。むしろ、男性との交際の中でお互いの合致点を探っていた。
奈美は今まで自立という事を考えて45歳まで独身できた。しかし、これまでの人生で恋愛は沢山したが、結婚してもいいという男性に巡り逢う事が出来なかった。
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