第2話 アノトキボクハワカカッタ

ボクは何かに手繰り寄せられていた。


 今回の事案は約款による免責期間を経過しているので、保険契約者及び保険金受取人の調査だけで事足りるが、何か手掛かりを掴む為、上司から送付されたメールの添付ファイルを開封した。


 最上部に記載された契約者を見た瞬間に言葉を失った。


 今朝の朝刊で改めて思い出したヨータさんその人であった。


 不意打ちを食らい津波のように荒れ狂う鼓動を抑える為、敢えて普段通りの手順に沿ってそれ以外の欄にも目を通し続けた。


 ヨータさんの入社から五年目が契約日となっており、予定利率は現在と異なり非常に高く、契約転換に応じず保持し続けたことが人の好いヨータさんにとっては奇跡と言っても過言ではなく、解約返戻金でさえも死亡補償金の約八割に達しており、この点からも自殺の可能性は低いと判断せざるを得なかった。


 基本契約が動かざること山の如しなのに対し、保険金受取人は疾きこと風の如くのようにヨータさんの母親と思われる女性が100%から、短過ぎた婚姻期間ではあったが、ヨータさんの元妻であった女性に引き継がれ、離婚から二年後に最初の女性に20%移行されたのを皮切りに概ね二年周期で新たな女性に20%ずつ移行され、最後の20%が半年前に五人目の女性に移行されていた。


 最後の女性こそ常識的に判断すれば最も怪しいことは動かしようのない事実であり、ボクにとっても唯一その存在を知っている女性であった。


手っ取り早く最後の女性に連絡することも考えたが、仮に事件性を孕んでいる場合、しかも単独犯ではなく周到に練り上げられた計画であったならば、尚更拙速は致命傷と上司の助言を思い返し、考え直した。




 ボクは不承不承ながら同期に連絡をした。


 朝一番の電話では不愉快なぐらい馴れ馴れしかった態度を一変させ、余所余所しく「退職して十五年も経つのにどういう風の吹き回しだ」と皮肉たっぷりに尋ねられたが、業務上の守秘義務もあり「実家に訪問させて貰ったこともあったので、ご両親にはご挨拶すると必要があると思う」とだけ答えると「妹さんに会ったら、お互いに嫌な思いをするだけだ」と揶揄され、押し黙ると更に被せるように「ヨータさんは死に様も死に様だったが、ここ数年は上司との衝突が原因で部署を盥回しにされていたので、家族葬と言っても実際は密葬になるそうだ、だから会社とは一切関係ない」と捲し立てて、一方的に電話を切った。


 その後は何度掛けても留守番電話になってしまったが、夕方になって漸く繋がると「休日に何度も掛けて迷惑だ、これ以上付き纏うならこっちとしても考えがある」と凄むので「考えってなんだ」と遣り返し「ダマテン(無断売買)マカサレ(一任売買)及び女性問題」を匂わせると「女房が疑っているので、ワンギリしてくれたらこちらから折り返すから」と泣き落としに豹変したので、近所の喫茶店に呼び出して話を聞くことにした。


 「遅くなってごめん、女房が一緒に来たので」と消え入りそうな声と反対に「ご無沙汰しています、お夜食に召し上がって下さい」とアルミホイルに包まれたサンドウィッチと思しき物体の入ったバスケットを手渡すと「また、自宅にも遊びに来て下さい」と言って名残惜しそうに自宅に帰った。


 呆気に取られていると「相変わらず、一度言い出したら聞かないから」と恥ずかしそうに答え「ヨータさんのことは会社から箝口令が敷かれていて」と口籠りながら、訥々と語り始めた。




 ボクは退職後のことを何も知らない。


 ヨータさんはIPO(新規公開)に絡み、現在半グレと呼ばれる勢力に便宜を図った疑いで営業を外され、本社部門を転々としているが業務態度も悪く、発達障害若しくは統合失調症の疑いで通院しているだけでなく、休日には骨董市に頻繁に通っているので、俗に「窃盗・強盗・骨董」と蔑まれる筋悪との交際も噂されていると同期は説明をしたが「情報源は秘匿扱い」と念押しして「出来る限り協力するけど厄介なことには、絶対に巻き込まないでくれよ」と懇願しながら逃げるように立ち去った。


 同期は大口を叩く割に小心であり、風見鶏のように立ち振る舞うので、情報収集の窓口としては期待できなかったが、消息を尋ねるには価値があるだろうと思い直した。


残されたバスケットは独り身のボクには夜食どころか明日の朝食でも食べ切れない量に思われ、ヨータさん、ボクそして対立関係にあった不倶戴天の好敵手にも得意のサンドウィッチを届ける嘗ては小動物のようであった彼女が貫録のある母親になっていることに時間の経過を感じて苦笑せざるを得なかった。




ボクはいつの間にか追憶に耽っていた。


当時、証券にはリクルーターやOB訪問の制度はなかったが、ゼミの教授に無理を言って、ゴールデンウィークを利用して名古屋から帰阪するヨータさんを訪ねたのが初対面であった。


背丈こそあまり高くないが、骨太でエネルギッシュな感じに圧倒されたが、物腰は柔らかく「給料こそ高いけど心身共に擦り減らされる過酷な業務であり、顧客の利益と対立する矛盾にも気が付いたので、一緒に闘ってくれるなら大歓迎だが、無理強いは出来ない」とだけ説明すると仕事の話には触れず、大学生活や趣味の話に終始していた。


二軒目はキャバクラで、キャバ嬢の瞳を食い入るように見詰めて「君の瞳の中にイケメンがいる」と急に真面目な顔をして言って、いきなり片手を掴んで手の甲にキスをすると思いきや自分の手の甲にキスして驚かせて喜んで燥いで「三大○○クイズ」と言って「世界三大スープのダウトを探せ、ボルシチ(巻き舌)ブイヤベース(大袈裟な破裂音)トムヤンクン(舌足らず気味)ミソスープ」とやり、「日本三大庭園のダウトを探せ、後楽園(普通)兼六園(普通)偕楽園(妖艶)金津園」(名古屋では最後が甲子園)とハイテンションで騒いだ挙句「ここから先はと言っても今までもだけど、就職活動に何の影響もないから帰ってもいいよ」と突き放された。


三軒目は「とてもお世話になった人だ」と再び神妙な顔をしていたが、ミナミにあるニューハーフのショーパブだったので、少し憤慨していたが、今では「言うよねぇ」でお馴染みのニューハーフに緊張感を漂わせながらも親しげに近況を報告していた。


帰り際に「どういう関係ですか」と尋ねると「昔、調子こいて口説くまでは良かったのだが、何かプレゼントすると伝えると親の脛齧りが偉そうな口叩くなと激怒されて」と恥ずかしそうに言うので「でも親密そうな感じでした」と伝えると「ショーの変わり目に学生らしく友達と遊ぶなら大歓迎と言われて、それに素直に従って今に至っている畏友」と表現して苦笑いを浮かべた。


証券を諦めさせる為、名物とも言える乱痴気騒ぎの一端を垣間見せてくれたのであろうが残念ながら思惑は外れて、同志と認めてくれたような気がしたボクはヨータさんに心酔してしまい就職先を一本に絞る結果となったのだった。




ボクは隘路に迷い込んでしまったようだ。


半年後、念願叶って入社して全体研修後、僥倖が重なり名古屋支店営業部の集中配属課(通称:新人課)に配属された。


唯一、残念であったことはヨータさんの時代は新人課の先駆けであり、新人課立ち上げ後に法人課の課長となったヨータさんの上司を筆頭に成績は勿論、人物本位で選抜されたが、毎年恒例のこととなり成績本位で粗製乱造され、その最たる典型例とも言える上司に仕えたことだった。


ヨータさんからも「最初の一年は人生を左右する大切な時間なので、飲みに行っている余裕はないし、新人課の一人として接するのでそのつもりで」と念押しされていた。


「殺人、強盗以外であれば何をやっても数字を出せ」や「数字こそ人格」等の前時代的な発破を掛け、上司や先輩には媚び諂いながら後輩には横柄な態度で接し、部下は奴隷扱いで「兎に角やれ、諦めずにやれ、死んでもやれ」が口癖であった。


「売るもん売って、買うもん買え」と怒鳴り散らすので「具体的に売るもんと買うもんを教えて頂かないと何も出来ません」と言った瞬間に目から火花が飛び出すような鉄拳制裁を食らった。


鉄拳制裁は序の口であり、四季報や日経会社情報は角の固い部分で瘤が出来るほど殴られ、灰皿を投げ付けられ全身が灰だらけになることもあった。




ボクはどうやら課長に嫌われたようだ。


早朝に業界紙を各課と顧客閲覧用を振り分けて、先輩の前で朝のラジオ体操をするのも新人の役割であったが、朝寝坊や面倒臭がりの同期は何かと理由を付けて回避して殆どボクが押し付けられる有様だった。


名古屋市の中区だけをブロック制で割り振られ、飛び込み訪問と与えられた見込み客リストの電話でアプローチを延々と続け、飛び込み訪問の日以外はアポイントが入らなければ終日受話器を握り締めていなければならなかった。


同期はアポイントが入ったと言って外出するのを横目で見ながら「もう一軒だけ、あと一軒だけ」と歯を食い縛り続けた。


初めての夏季休暇で実家に帰省した時は、両親に退職の意向を何時伝えようか煩悶し続けていると課長から「毎週訪問している下町の商店街と財団法人の常務理事、労働組合の書記長から今週訪問がないことを心配して電話が入っているので、来週同行訪問するから田舎のお土産を出来るだけ買って来い、経費使っていいから」と上機嫌で電話があった。


現金なもので生意気だと目の敵にして、同期からの仕打ちも黙認していた課長も表面上は取り繕って、他の同期にも「一生懸命やっていたら新規開拓は誰にでも出来る」と訓示を垂れる始末であった。


その後、山一證券の自主廃業の際に店頭の喧噪を避けるように朝一番で一斉に外出する同期と一線を画して事務手続きを覚える一環と連日の長蛇の列に疲弊する投資相談課の応援をしていると、大口顧客をボクのコードである56に意図的に振り分けてくれたので、気が付いてみると全国の同期では頭一つ抜き出た存在になっていた。


ただ不倶戴天の好敵手だけには、こちらの手の内を見透かすように必ず僅差ながらも後塵を拝していたのが残念だった。


仕事帰りに社員寮の周辺は高級住宅街だったので、ポスティングをしていると五年前に同じようにポスティングをしていたヨータさんのお客様から「既存客だから、顧客にはなれませんが、陰ながら応援しています」と声を掛けられることも度々あった。




ボクはヨータさんと課長の差異を考えた。


約束の一年後にヨータさんに久しぶりに誘われると「よく一年間頑張った、見ていて歯痒かったけどよく我慢した」ヨータさんは見て見ぬ振りをしながらも同期が日中も屯して喫茶店でモーニングを貪り続け、夜も居酒屋の後にキャバクラに繰り出しているのを度々目撃していた。


その上、朝寝坊をして朝一の業務はボクに押し付けている為体なのに友好的な会社からの顧客紹介や持ち合い株の依頼等をボク以外に振り分け、最終的には不倶戴天の好敵手に一極集中させたことが原因となって、他の同期二人は身勝手な課長を早々に見切りを付けて、退職した内幕も教えてくれた。


課長は慰労をすることなく、食事会も経費が認められた時だけで、大業に「何も稼ぎのないお前等穀潰しでもお零れ貰えることに心から感謝しろ」と恩着せがましく感謝の押し売りをされた上、毎度毎度聞かされる自慢話(通称:俺歴史転じて汚歴史)を延々と聞かされ、自分だけ上司や先輩と合流して二次会に繰り出すのであった。


噂によるとキャバクラでは「お前、そのミニスカートは校則違反だ」とか「下着の色は白に決まっているだろ」と言って下品に触りまくるので「エロ教師」若しくは「ビンビン教師」と呼ばれていた。


ヨータさんの飲み方は入社前と同様に「三大○○ゲーム」や「モノマネ早押しゲーム」(最初の二題は名前を連呼するモノマネで最後に)「おいっ、鬼太郎」と瞬発力で誤解答を招くようにしてご褒美とお仕置きと言って飴と鞭を使い分け、「ヨータが酔うた」とお決まりの科白で悪酔いする前に綺麗に閉めるので、いつも大盛況であった。


一番のお気に入りのネタは「おしどり夫婦と言えば仲の良い代名詞だけど、実際には孔雀と同様に見栄えの良い雄による一夫多妻制であり、本当に仲の良いのはアホウドリで短い期間しか一緒に過ごさないが、決して相手を変えない」であり、絶妙なタイミングで披露していた。


名古屋の夜は早いので、深夜営業はフィリピンパブだけであり、普段はヨータとヨータさん命名の綽名によって肩で風を切って飲み回っていたが、その時だけは何故かヨータさんは山ちゃんと名乗り、ボクも恥ずかしながらアカデミー賞を受賞した外国人俳優から拝借してケヴィンを名乗って連日連夜飲み明かした。


ヨータさんは横柄な態度は決して取らず、ウトウトしていると隣のソファで仮眠を取らせてくれたので、お蔭様で業務に支障を来すことはなかった。


課長には目の敵にされたが、全く気にせずにいたのは、ヨータさんはカラオケが玄人裸足の上、フィリピンの女の子が男性の歌ばかりなので、当時大流行していたアイドルユニットのミュージックビデオをプレゼントしてあげると女の子が早速「見よう、見まね」で振付までカバーしたので、一躍繁盛店となり所謂「上客扱い」となり、その後サングラスを掛けて一緒に映画を見たり、隣県の複合型温泉を備えた総合レジャー施設に連れて行ったり、弱者に対する労りが目に見えて、殺伐として心の荒んだ証券におけるオアシスのように感じていた。


ヨータさんとボク対課長と不倶戴天の好敵手の構図は矛盾に満ちた均衡をと持ち続け、冷戦構造を抱えたまま歪な利害得失だけで繋がる関係を守り続けていた。




ボクはヨータさんの忠告を無視した。


何とかして不倶戴天の好敵手に勝ちたかったボクはヨータさんに「東京の大学と違い、後輩への面倒見が良いので同窓会にアプローチしようと思う」と伝えると「俺もそれは考えたが、賛成出来ない」と難色を示した。


「人脈を構築して活かすという長期的な展望よりも目先の収益を優先する社風だから悲劇的な結末を迎える気がする」とヨータさんは理由も示してくれたが、若かったボクは耳を貸さずに重複する対象なので、棲み分けの提案若しくは牽制と軽く考え、ヨータさんの意に反して闇雲に前進してしまった。


予想通り同窓会の幹部を含めて、全面的に応援してくれたので、顧客紹介によって飛躍的な成果を実現したが、不倶戴天の好敵手には結局勝てなかった。


転機が訪れたのはITバブルであり、収益よりも新規開拓が重視された新人課でさえ、千載一遇の好機と手数料が重視されると課長に至っては回転売買の温床である信用取引をボクの顧客を勝手に訪問して自分で全部を取り仕切り「喜べ、お前にも付け玉(自分では何もせず管理職が対応する顧客)してやる、感謝しろ」と有無を言わさなかった。


案の定というか必然的に崩壊を迎えると同窓会の元会長のような太い客(資産家)は課長という看板を信じ切っていた為、追証(含み損の増加による担保割れ、正式には追加証拠金)が連日発生する心労により入院してしまう最悪の事態が発生した。


課長とボクはお見舞いのフルーツバスケットと花束を持って病院に駆け付けたが、個室の前で奥様に「こんなものいりません」と目の前でゴミ箱に捨てられ「課長の顔は見たくもないと主人が申していますので」とボクだけが個室に招き入れられた。


青春時代を関西で過ごした元会長は関西弁交じりの名古屋弁で「君が後輩やから良かれと思っていたのに、強面の課長が突然現れた挙句に好き勝手されてこの有様や、ほんまに罪な奴やで、年寄りは大切にしてちょうよ」と疲労困憊ながら冗談を言ってくれた。


帰り際に奥様から「主人は課長が悪いだけと言っていますが、私はあなたも決して許しません」と鬼夜叉の形相で迫られ、普段は優しくて大人しい奥様を豹変させてしまった罪の意識に苛まれた。


ヨータさんの助言を無視して見切り発車で暴走した結果、一番大切な信頼を失ってしまって「身から出た錆」で身を持って入社前にヨータさん顧客の利益と対立する矛盾と一緒に闘ってくれと言った科白の意味を改めて考えさせられた。




ボクは証券の特徴は何かと考えた。


都市伝説の域を決して出ないが、証券の採用にはS1、S2、A、Bがあり、昇順と思いきやS1=Soldier(戦士)S2=Special(特別枠)A=Assistant(補助者)B=Brain(頭脳)で現在は仕組債の販売先として採用先も拡大されているが、ボクの入社した頃はボクの卒業した関関同立は東京のMARCHと並んで最低ランクでS1、有力者との縁故採用組がS2、早慶上理と地方国立大学がA、最高学府を筆頭に旧帝大を頂点とするBと言われていたが、寧ろBの入社は隔年に数名であり、敢えて証券に就職する者も珍しく、配属で優遇されるかもしれないが、寧ろ最前線では「白い猫でも黒い猫でも鼠を捕る猫」が優遇されるので、後輩を直接助けることも出来ないから、結果的にと言うよりも必然的に学閥は一切お構いなしであった。


入社三年目までの離職率が他の業界と比較して著しく高いのは、旧態依然の慣習による面もあるが、経営者の後継者がS2として、武者修行と証券市場の裏側まで身を持って経験する意味で存在する腰掛入社組も嵩上げしていた。


後者は前途洋洋で職場を挙げて送別会が開催され、今後も関係性を大事にする会社の意向を代弁していたが、後者は逃げるように消えるように退社していくのだが、ヨータさんは寧ろ彼らの側に寄り添っていた。


ボクの思い出の中で生きるヨータさんは永遠に「正義の味方」であり、「落ちた英雄」に格下げされた同期の言葉を俄かに信じることは出来なかった。


確かにその筋の方と見受けられる人が「楽しそうだから兄ちゃん一緒に飲もう」と寄って来られることや愛知県警との馴れ合いで夏に津島市や海部郡に店舗自体が疎開する時など大名行列のように若手を連れ出し、複数のタクシーで繰り出すこともあったが、何よりも清廉潔白を重んじるヨータさんに限ってと言う気持ちの方が強かった。




ボクはヨータさんの口癖を反芻した。


「世界には二種類の人間がいる、使う人間と使われる人間、使う人間には頭を使う人間を筆頭に金を使う、身体、手足等があって最低が気を使う」と大上段に構えるので、口々に「自分はどれか」と尋ねるので一刀両断に切って捨て挙句の果てに「あっ、もう一種類だけいた、使えん人間が」と高らかに公言するので確かに敵は多かった。


囲碁のように定石を打つ上司(ヨータさんの最初の上司)将棋のように駒の特性によって使い分ける上司(ヨータさん及びボクの二番目の上司)麻雀のように配牌と運に頼り鳴いてばかりの上司(一般的な上司)人生ゲームのようにルーレット次第で何の戦略も持たない上司(敢えて説明せず)の発言も不用意に敵を作る要因になっていた。


「お客様より上司様で上司の顔色を窺い、お客様に冷や汗をかかせるのではなく「お客様は神様です」を常に心掛け、自らが汗をかけ」が口癖だったヨータさんのことを考えながら報告書を作成していると止めどなく頬を涙が濡らしていることに気付いた。


一瞬、最後の女性と不倶戴天の好敵手が頭の片隅に浮かんだが、私情を挟み色眼鏡で見ることを戒めるように涙を掌で拭った。


過去の経緯に惑わされて、現在の判断を誤ることは絶対にあってはならない。


気持ちを切り替えて明日は新聞社への聴き取りから仕切り直しだ。


参考文献


「保険犯罪調査官 人間の闇に迫る衝撃の手記」福島正人 PHP研究所


「じゃぱゆきさん」山谷哲夫 岩波現代文庫


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