第二章:交差

 夜は深まり、実験室の静寂は厳かなまでに深刻な空気を帯びていた。

 ヴィクトールは、執念とも呼べる集中で最終調整を行っていた。

 彼の実験装置は、粒子加速器と量子コンピューター、そして彼自身が設計した特殊なセンサーで構成されており、これまでにない高エネルギー状態を作り出す能力を持っていた。

 彼の理論によれば、これらの装置を特定の配列に配置し、特定の条件下で作動させることによって、異なる宇宙間の障壁を一時的に薄めることができるとされていた。


 この夜、彼はその閾値を超える実験を行うべく、全てを備えていた。

 装置が起動すると、実験室は低い振動で震え、空気が輝く粒子で満たされた。

 壁に掛けられた時計の秒針の音が、異様なまでに響き渡る。

 そして、彼が計算した通りの瞬間が到来した。

 装置から放たれるエネルギーは、空間の布をねじるかのように、実験室を歪ませ始めた。


 突如、目の前の現実が裂け、そこから別のヴィクトールが現れた。

 このヴィクトールは、彼がいつも夢見ていた幸福そうな姿をしていた。

 彼は、別世界の自分が下した選択によって、彼の現実にも影響を与えていることを示唆し、ヴィクトール自身の後悔にも意味があると語りかけた。

「君の選択は、こちらの世界でも影響を及ぼしている。だが、君の後悔は無用だ。なぜなら……」

 しかし、その言葉が完結する前に、彼は消え去った。


 この出来事は、ヴィクトールの論理的な思考に大きな衝撃を与えた。

 彼は常に科学的な証明に重きを置いていたが、目の前の現象は、彼の理論の正しさを証明していると同時に、彼個人の存在と選択が宇宙の根本的な構造に影響を及ぼすという、哲学的な示唆を与えていた。

 彼は、ここでの彼の選択が、他の宇宙での彼の選択と何らかの形で結びついているのではないかという仮説を立てた。


 それは、彼の実験が単に科学的な探究を超え、彼自身の人生と宇宙の多層的な構造に関する深い洞察を提供していることを意味していた。

 彼は、存在の意味を探求する中で、科学と哲学を融合させることの重要性を再認識した。

 そして、彼はその瞬間、自らが宇宙の壮大なストーリーの一部であること、そして彼の選択が宇宙の織り成すパターンに組み込まれていることを感じ取った。


 ヴィクトールは、実験室の壁に映る自分の影を見つめながら、自分が宇宙という無限の舞台上で演じる役割について深く思索した。

 彼がとった選択が、彼自身だけでなく、無限に広がる宇宙にも影響を及ぼすという考えは、彼にとって極めて哲学的な洞察をもたらしたのである。

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