学園転入(2)

 (突き当たりの職員室か……早く行かないと何言われるか分からない。)

 急ぎ足でハルトは学校の廊下を進む。職員室を目指し、歩いている中ですれ違う生徒は女子ばかりで物珍しさから視線の的になっていた。

 「あなた、まさか……。」

 後ろから話しかけられた少女は夢で見た少女であった。黒い髪、羽のような髪留め、リボンのように結ばれた髪、その姿は夢の中で言葉を交わしたあの子と似ていた。

 「え?」

 その姿を見た少女は驚きだけじゃなく、感動のあまり涙を抑えきれないほどであった。

 「ハルト君…!?なんでここに……!」

 (夢で見た子がここにいるのは、あの夢は昔の記憶だったってこと?)

 「ちょっと急いでる。ごめん先に行くよ。」

 その夢は間違いなく、ハルトの躰に刻まれた記憶の一欠片だった。その欠片が記憶の断片ならまだ完全に記憶が失われたわけじゃないということだけど、そんなことがあるならもしそうならこの少女にも話を聞かないといけない。もし同じクラスなら良いなと思ってそこから離れる。


 (ここが職員室か……。)

 そう思いながら、なかなかに重々しい空気が漂う職員室に入る。ハルトはこの空気に勇気を持って立ち向かうしかないだろうと思いながら。

 「失礼します。今日から貴校に転入して来ました久遠ハルトです。よろしくお願いします。」

 「あー、今日から転入する久遠くんね、私は1年A組担任、柊雪音よ。1年間よろしくお願いしますね。」

 凄い美人であることに驚く。正直悪い人でなさそうだったので、不安が少し薄れたように思える。ただ、問題はクラスに馴染めるかどうかであるのだがそれはまた別の話だろうし。


 「久遠くんは私のクラスで数少ない男子生徒よ。うちの学校元女子校で2年前に中等部が共学になったばかりでってのは知ってるわよね?」

 「ええ、勿論です。」

 「ちなみに私のクラスには生徒が40人いて、13人しか男子はいないわ。それにうちのクラスは所謂「特進」クラスよ。」

 その言葉を聞いて少し不安になった。勉強について行けるか不安なところがあったのだが難易度の高いクラスに何故か転入になって「は?」という感情が出てきてしまう。

 「着いたわね。」

 教室のドアを開けるとハルトへの視線と女子からの熱い歓声。女子ばかりで男子に飢えてる女子からは自分のような普通で地味な感じの男子であっても寧ろ+なのだと認識する。ただ2人を除いては。

 1人は有咲、良かったとホットしているような顔をしている。そしてもう1人は件の少女。その少女は先程も言った通り、ハルトのことを知っているようであった。だからどうにかしてこちらの事情を説明したいし、記憶のことについて知っているかもしれないので話を聞きたいと思っていたところだったので好都合であった。


 「今日は転校生が来てるわ。じゃあ自己紹介をどうぞ」

 「来海町から来ました久遠ハルトと申します。よろしくお願いします。」

 ハルトは自己紹介を済ませ、席に座る。これから授業が始まるのだから、皆は日常に戻る。今までのような非日常じゃなくて日常的な生活にはまだ記憶を失って初めてだから不慣れである。

 「じゃあ名瀬さんの隣の席に座って?」

 柊先生がそう言うとハルトは有咲の隣の席に座った。有咲は笑顔で左隣のハルトに振り向いた。

 (私から離れないでね)

 そう呟いたようにハルトには見えてしまう。ただ、これから起こることはその有咲の忠告が正しかった、と言うことにほかならない。そんな気がするのだった。


 (午前の授業、とりあえず予習しといてよかった。初っ端から2年の内容やらされるとは思わない。)

 午前中の授業は終わり、昼休みになるところだった。

 「ねぇ……空ちゃん。朝見た時からずっーと顔色が悪い気がするんだけど大丈夫?」

 「おい、空。しっかりしろ!」

 どうやら朝ばったり会ったあの子は刻原空という名前らしい。生徒会長であり、このクラス委員。空は顔色悪く、ハルトを迎え入れようという周りの空気とは違うように苦しそうな空気がある。

 オレンジ色の腰まで届く髪を白いリボンでまとめている芽瑠という少女はとりわけ心配そうであった。

 「ハルト、ご飯食べに行かない?」

 (いや、あの空って子、俺とあったせいで様子がおかしい。どうにかしないと……。)

 「空ちゃんはいつも、物思いにフケてるって言うか……だから大丈夫だと思うよ?芽瑠ちゃんが多分保健室に……」

 有咲はハルトの様子を訝しむ。朝、ハルトを見た時の空の様子がおかしかったのも、もしかしてハルトの「記憶」に関わる人物だからなのではないか、ということなのだろう、と。

 「ごめん、多分刻原さんが倒れたのは俺のせいだ。」

 ハルトはあの時にあんな扱いをした。先に急いでいるとはいえ、「無視」しているようなそんな扱いになったことがきっかけだと感じていた。

 その負い目からハルトは苦しい気持ちが襲ってきたのだった。

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