刻原空
「ごめん、一緒に昼食食べれない。あの時に話を聞かなかった。だからそのせいで……。」
ハルトは有咲にこう告げる。有咲は芽瑠達が動いていると先程も言った。ただ、ハルトの決意は固く、空と芽瑠を追って保健室に向かっていった。
「失礼します。刻原さんって居ますか?」
ハルトはドアをノックして保健室に入っていった。そこには芽瑠がベッドの横に座っていて、ソラは眠りについていた。いつものことだと安堵しているように見えたのだが、ハルトには自分のせいのように思えた。
「ごめん、ハルトくんだっけ?」
芽瑠はハルトにまだ誰かわかっていないのでまずそこから聞いた。
「1年A組、久遠ハルトです。」
「私は天風芽瑠。よろしくお願いしますね。」
自己紹介を交わしたあと、ハルトは身の上について話す。予め、空に聞きたいことを芽瑠にも話しておきたかった、空だけでは受け止めることが出来ないと感じたから。
「端的に刻原さんに聞きたいことは俺のことをなんで知っているかってことなんです。芽瑠さんにも話しておきたいんですが、俺は『來海町』というA県にある町に住んでいました。」
「え? ハルト君って出身が空ちゃんと同じ町なの?それに來海町って……あの火事の場所ですよね……ということはこの時期に来たハルトくんは被害者ってこと?」
芽瑠は当然だが驚いてるだけじゃなく、あの火事でここに居る、そして空のことを何も知らない。こんなことが起きてるっていう悲しみ、全てを察してしまったような顔をしている。
「記憶が無いって事……?」
話を聞いていた空は目を覚まし、どこか悲しそうな顔をする。昔のハルトと違うのはそういうことか、という納得よりもう元のハルトが戻ってこない、その悲しみが空の心を覆い尽くす。
「ごめん芽瑠、私とハルト君で話がしたいから先に教室に戻って……。」
空にそう言われた芽瑠はどこか暗そうな顔で去っていった。
「ごめん。刻原さんが俺とどんな関係だったかは分からない。だけど、いつか刻原さんと俺で一緒に過去の話をしたい。思い出を共有したい、そう思ってる。」
ハルトのこの言葉を聞いて、空は泣きながらも口を開く。
「ねぇ、私も記憶探しを手伝ってもいいのかな?このまんまじゃ私もハルトも1番辛いはず。だからハルト君の支えになりたいって」
ハルトは無関係とは言えない他人である空を頼ることを恐れていた。魔法災害や『魔法』絡みのことに巻き込んでしまうかもしれない。それが一番怖いことだった。
「君や周りの人を巻き込むかもしれないけどそれでいいのか?」
「私はあなたがいてくれれば、生きててくれればそれでいいから。ハルトとみんなと、これから笑って、泣いて、笑顔で過ごしていきたい。たとえ記憶を失っても貴方は私の『友達』で『幼馴染』だから。」
その言葉はハルトにとって救いの言葉だった。記憶を失って1週間、成り行きで動いていた言葉に気づかされる。自分は
「そういえば、話変えるけど、調子崩しやすいってのは本当なのか?有咲が言ってたけど。」
空はこの言葉を聞いてうーん、と考える。
「名瀬さんはあなたを心配させないために嘘をついたんだよ。今日倒れたのはあなたに会えた、でも何か変わってしまった、その事がショックでそれで貧血に。でも私気づいたんだ、ハルト君はハルト君だって。『幼馴染』のハルトくんがそこにいるのが変わらないんだって」
ハルトにとって救いなのは空がハルトのことを理解してくれたこと。初めて会った魔法師以外の知り合い、そしてハルトの『記憶の鍵』を担う人だということ。そのふたつは心の中の雨が晴れるように感じられるようなそんな感覚だった。
「ご飯食べる時間無くなっちゃうから、クラスに戻ろ?」
そう言って2人は保健室から離れて行くのだった。
「あのさ、ハルト君。部活はどこにはいるの?私は生徒会の仕事で忙しいから帰宅部にしたんだけど……ハルト君と一緒に居たいなぁって……?」
廊下で空は質問した。
「放送部だな。」
「あー、桜先輩の部活。かなりやりがいあるよ。この前会長として取材で呼ばれたけど和気藹々で私も入りたいなぁって思ってたんだ。一緒にいた芽瑠もそんな感じだし、入るなら芽瑠も誘おうかなー。」
(優那先輩はテンション高め、いつも元気ハツラツな人だって印象だったから、まぁ納得だな。)
そう思いながら談笑していると、ようやく教室が見えてくるのだった。
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