優那と有咲

 「優那だよ。」

 「有咲です。」

 ピンポンとなる中で2人の少女は声を響かせる。零士は急いでインターホンに向かう。


 「おはよう。2人とも? 元気だった? あー件の彼なら2階にいるから会っておいで。」

 2人共かなり黒い笑みを浮かべてる。内心怒っていそうなそんなピリついた雰囲気を醸し出している。

 「おはよ。」

 「おはようございます、零士さん。」

 2人はどこか嫌そうな感じで挨拶を済ませ、2階に向かっていった。


 ハルトは下に行こうとした時に少女2人と出会う。自分の顔を見て目を輝かせるピンク髪のロングヘアの翠色の目をした女の子とそこまで驚きを見せない、ただこの子がと言った目をしている金髪碧眼にボブヘアーの女の子がハルトの眼前にいた。


 「貴女達が?零士さんの言った先輩魔法師?」

 「そうだよー?私は桜優那。よろしくね!」

 「私は名瀬有咲です。よろしくお願いします。」

 そう言って2人は自己紹介を済ませハルトの部屋に入る。広々とした部屋に1人だけという歪な雰囲気ではあるのだがハルト含め3人いると狭く感じる。

 「ごめん、言い忘れてた俺の名前は久遠ハルト。2人ともよろしく。俺のことはハルトでいいよ。」

 ハルトはそんな雰囲気の中でも言い忘れていた自己紹介を済ませる。名前しか覚えてなかったハルトはようやく人としてどう生きるのか、見い出せそうなそんな気がした

 「あのね、久遠君? 私達がこれから貴方の【学校でのお世話役】として零士さんに呼ばれたの。」

 有咲は事の経緯をハルトに淡々と話した。

 (ああ、そういう経緯か。学校まで零士さんは対応できない。だからこそ愛弟子?2人が監視するってこと。)

 「ねぇそれでそれで、転入したら『放送部』に入って。男の子一人もいないからさー。」

 優那はどうやってもハルトを放送部に入部させたいらしい。ハルトにとっては何か困ってるわけでもなさそうだけど、とりあえず考えておこうと感じている。

 (そもそもお世話になる人だから、そのお返しとして入部はしておきたいし。)


 「聖マリアンヌ学園ってどんな学校?元々女子校だったことと教科書見るに進学校っぽいところくらいしか分からなかったけど。」

 「優那がラジオ番組作ってお昼に流すくらいには、すごい自由な学校だよ。」

 「私や優那先輩が裏で魔法師として活動してても何も言われないくらいには、って言っても授業中抜け出すとかはないし、したらまずいから基本やらないんだけどね。」

 2人からは自由な校風と言われた。同性が少なそうな事くらいしか懸念がないことを知るとハルトは少し安心した顔をする。


 その顔を見て2人はその場を離れる。

 「また明日、会おうねー!明日優那は待ってるから!」

 「同じクラスだったらいいね」

 そう言って2人は部屋から離れる。


 「優那、有咲。彼の様子はどう感じた。」

 零士は2人に聞く。魔法災害の被害者にしては生きているのがおかしい程の被害を受けたが、記憶喪失になる『程度』で済んだのが奇跡に思えるほどだった。だから第三者に聞きたい。

 「優那が思うに、記憶が消えたんじゃなくて、精神的ショックで大切な思い出が消えただけだと思うの。私も昔……」

 どこか思い出したくないような顔をする優那の姿に、零士や有咲は顔を背ける。その姿は普段太陽のようと言われる優那からは程遠い姿だった。

 「私はハルトを初めて見た時この子は記憶喪失と言うより心因性のショックで思い出せなくなってる、完全に失ったわけじゃないって思いました。ただ一つだけ心配なことがあります。元々私たちの学校は女子校で2年前にようやく共学校になったばかりです。なのでまだ少し同性の子が少ないから、私達に遠慮しちゃわないかなって」

 有咲は端的に、ハルトの今置かれている状況を理解して零士に話す。確かに同性なら話しやすいことも異性には話しづらい。ハルトは1年生、有咲は同学年だけれども話しづらくても仕方の無いことだろうということ。

 「放送部には絶対入れないとダメだと優那は思う。だって、孤立しちゃうし、ハルトがどんな子でもあの環境はちょっときついなって。私も男性ばっかの環境はちょっと辛いかなって。だからせめても優那達が理解者にならないと……。」

 (確かに、それは考えてなかった。共学だけど聖マリアンヌは人が少ないのか。馴染めるように優那達が奮闘してくれるなら安心だけど)


 そう思いながらも決まったことだとわかっているからなんともできないと言うことに3人は大丈夫だろうという思いも不安な気持ちもそれぞれ抱えながら別れたのだった。

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