第10話 お姉様、これ以上事件を起こしてはいけません。
応接間での話が終わり──
何時間も肺の底に溜まっていた空気を排出するかのごとく、長く深く息を吐き出すイーリス。
「なんですか今の話し合いは。肩が
「おっかない方々でしたわね。さすが大組織のトップですわ。不思議と肩が
「そりゃあれだけ紅茶風呂に浸かっていれば、肩凝りも腰痛も治るでしょう。さて、私は本来の仕事に戻ります。お二方は余計なことをせずここでじっとしていてくださいね。特にミズネさん、建物を爆破しないよう注意してください」
「承知した」
「承知ですわ」
「さてと、お姉様」
二人きりになると、
「な、ん、て、こ、と、を、してくれやがったのですの!?」
妹の凄まじい気迫に、さすがの
「えっと、さきほどももうしあげたとおりふかこうりょくですしわたしはわるくない」
「ええいっ! ブラックホールも怖気づくほどのド真っ黒なド犯人のくせに
「横浜市民は江戸っ子じゃないぞ」
「じゃあ横浜市民らしく
「やめてくれ、ドブ川とまでは言わないがそこまで綺麗なものでもないだろう……」
「嫌なら反省してくださいませ」
「だって、わざとじゃないし」
「そ、も、そ、も、トイレの窓から逃げ出した時点で過失100パーセントの
「うむ、そう言われると一理ある」
「一理どころか百でも千でも
「良かった、許された」
「許していませんし、どうしても反省しないというなら、お姉様が寝ているときにその鼻の穴にゴキブリの卵を詰め込みますわ?」
「…………」
「この
「やればできるじゃないですの……許しませんけど。ただ他に話さないといけないことがあるのでここまでにしておきましょう」
「うむ、話というのは飯をどうするかについてだな」
「違います……が、そういえばまだご飯を食べていないのですの?」
「いや、ダンジョンが壊れたあと、
「お姉様、古き良き刑事ドラマの定番イベントを犯人サイドで
何か間違っていることに気付きつつ、
「いや解決してないぞ。またお腹が減ってきた」
「自分の乳でも吸っていてくださいませ。そんなことよりも大事な話をがございます」
「飯より大事な話があるのか?」
「ある意味では飯の話なのですの。まずお姉様は
「分かるぞ。さっき紅茶を飲みすぎたせいだろう」
「それは冒険者失格というより人間失格なのですわ!?」
「だって美味しくて」
「遠慮という言葉を覚えてくださいませ。話を戻しますわ。さっきボルケノ様とクロザック様が話しておりましたが、お姉様は南ユニに所属しながら北ユニに加入しようといたしました。これは規約違反に該当し、除籍されることになります」
「そうなのか?」
「お姉様の頭の中にあるのは脳みそではなく
「うん、なるほど」
「
「うん? それは困るぞ」
「こっちはお姉様の百倍困っておりますわ! というかボルケノ様とクロザック様はお姉様の百万倍は困っておりますわ!」
「悪いとは思っているし、彼らにはちゃんと謝罪をしようと思う。そうすれば除籍を取り消してくれるかもしれない」
「痛いぞ!」
「このポンコツお姉様め! 教官を半殺しにしたりチュートリアルダンジョンを全壊させたりする爆発女と再契約する
「事務職採用も頼んでみる」
「二秒で採用不合格決定ですわ! このポンコツめポンコツめポンコツめポンコツめ!」
髪の毛を引っ張り続ける
***
幸い、
しかし前代未聞の問題を起こした張本人に対する扱いとしては、あまりにも厚遇すぎる。そのことに疑問を持った
「チュートリアルダンジョンを破壊するような危険人物を野放しにするほど、私たちも馬鹿ではないですよ。いやだって、たとえばここであなたたちを追い出したとして、そのまま行方不明になって、その一年後くらいにどこぞやの橋が爆破されましたとか、どこぞやの塔がへし折られましたとか、犯人はミズネという人物でしたとか、そんなニュースを聞くことになったら、切腹を検討するレベルで寝覚めが悪いですよね」
「イーリス、わたしはそんなことしないぞ」
「あなたがそんなことをしなくても、そんなことが起きるかもしれないでしょう。とにかく、私たちはあなたたちに余計なことをさせないよう全力を尽くします。これが
「なるほど。良く言えば三食昼寝付きのスローライフ、悪く言えば軟禁、ということですわね。まあ、餓死するよりかはマシですけど」
イーリスは
「ミズネさん──あなたの場合、働いてもらっては困るんですって。いいですか、あなたのようなトラブルメーカーは、なにもしないことが仕事みたいなものなんです。あなたがなにかをすれば誰かが不幸になるんです。あなたがなにもしないことで世界が救われるんです」
彼女はそう言ってから、「仕事があるので、私は行きますね。くれぐれも勝手な行動はしないように。まったくボルケノさんは都合良く私にミズネさん係押し付けて……」と愚痴りながら、その場を去っていった。
「なるほど、つまり」
そして
「わたしは今日から毎日、図書館に通いながら読書ライフを過ごすことが許されたわけだな」
「お姉様、イーリス様の話を聞いておりましたの? とりあえずなにもしないでくださいませ。重要な施設には行かないでくださいませ。もし図書館が火の海になったら、先人たちが泣きますわ?」
一方
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