第8話 お姉様、有名アニメの展開をパクってはいけません。
※本話は某有名小説の内容をネタにしている箇所がございます(その箇所は露骨に分かるようにしてあります)。知らない方も楽しめるよう、
***
殺し屋というキーワードに、
「まずは迷子の話だな。路上に青果店が並んでいる通りで、わたしは泣いている女の子を見つけた。五歳か六歳か、そのくらいの年頃の少女だ。わたしはその子に声をかけた。そして要領の得ない話の中で、どうやら母親とはぐれたということだけは理解した。わたしはその子から自身と母親の名前を聞き出して、周囲の青果店の店主たちに話を聞いて回った。しかし誰も母親らしき人物を見ていなかったことから、少女が別の場所から移動してきたと推測した。再度、近くの青果店の店主と話をして、最初に母娘が歩いたかもしれない地点を聞き出した。青果店の集まる区画はメインストリートから脇道に逸れてすぐの場所にあり、メインストリートを歩いていればその賑わいは目につく。そこでわたしは『母娘がメインストリートに
「お姉様。無駄に有能な推理の
「その転倒で騒ぎになったのと、おそらく声も聞こえていたのだろう。迷子の母親はすぐにわたしたちを見つけてくれた。その瞬間、何故か『ひぃっ!』と声を上げていたが」
「お姉様。感動の再会シーンの背景を
「ちゃんと感謝はしてくれたぞ。その母親に少女を引き渡すと、感謝の言葉とともにお礼にと『どらごんふれあぼむ』というものをくれた」
「ドラゴンフレアボム!?」
叫びながらティーカップから身を乗り出した
うつ伏せになっていた
「お姉様……。ほのぼの日常ライフを漫喫していそうな
「わたしに言うな」
「言い訳しないでくださいませ。とにかくお姉様がいけません。だいたいなんの目的でそのご婦人は爆弾なんてものを持ち歩いていたのですの?」
「
「まさかの和室!」
「ミナモさん、落ち着きたまえ。ツッコミのポイントがおかしくなっている。和室だろうが洋室だろうが
「いやいやツッコミだっておかしくなりますわボルケノ様。ドラゴンフレアボムって、
ドラゴンフレアボム。竜の印がシンボルで、
「迷子の件はそれで一件落着した」
「一件落着どころか文字通りの火種を抱えることになっているように思えますけど……とりあえず続きの話を聞きますわ」
「うむ」
「
「こやつわたくしのいないところで異世界ファンタジーの定番イベントを
「ハーフエルフという種族の銀髪の女性が、皇帝になる権利を主張するために必要な宝石を盗まれたと言っていた」
「そういうの聞いたことある! お姉様! 既出のファンタジー展開を丸々パクってはいけません!」
「わたしに言うな」
「てやんでえ! 物理的にも概念的にも危険なものを次々と並べやがって! こうなったら全裸で踊ってさらに危険な展開にしてやる──」
叫びながらティーカップから身を乗り出した
うつ伏せになっていた
「話を続けよう。わたしは銀髪の女性とともに盗難の犯人を
「事件?」
痙攣中の妖精の代わりに、ボルケノが合いの手を入れる。
「ああ、交渉に失敗した客が暴れていたんだ。その場には店主、偶然にも宝石を盗んだ泥棒もいた。わたしと銀髪の女性は彼らと協力して暴れていた客と戦った。皆、命は無事だったが、客には逃げられてしまった」
妖精の痙攣がぴたりと
「なおその客はよく知られた殺し屋であるらしい」
「やっぱり
「少し黙りたまえ」
叫びながら飛び起きた妖精をボルケノは掴み、別のティーカップ──熱々の紅茶の中に彼女を落とした。
「ぎゃあああああああああ!」
すぐにティーカップから飛び出してのたうち回る
「ボルケノの旦那。逆にうるさくしてどうする」
「何度か繰り返せば静かになるだろう」
「いやそれって死──ボルケノ様。静かにするのでお許しくださいませ。
「そのように頼むよ」
ボルケノの
「殺し屋を撃退したことに感謝して、泥棒も銀髪の女性に宝石を返してくれた」
「ふむふむ」
「さらに店主はお礼にと『じごくのかえん』という壺をわたしにくれたんだ」
「ふむふむぅふ!? 地獄の火炎!?」
地獄の火炎とは、持続的に膨大な炎を吐き出し続ける壺の形をした魔法アイテムである。瞬間的な火力はドラゴンフレアボムに劣るが、総合的な火力では勝るとも劣らない。狭い通路に置いておくと長時間冒険者たちの
「わたしはちょうど良いと思った。爆弾を
「まさか……壺に爆弾を入れたりなんかしてないですわよね」
熱湯から脱出した妖精が恐る恐る訊くも──
「いや入れていたらしいぞ」
クロザックにより、即座に肯定されてしまう。
「順調に伏線が積み上がっていきますわ……。お姉様のそういう分かりやすいところ、嫌いじゃありません……」
「続けるぞ。それからわたしは銀髪の女性と赤髪の騎士と一緒に殺し屋を追った」
「赤髪の騎士さんいつ現れた。お姉様のこういう平然とパクリ展開をねじ込んでくるところ、嫌いじゃありません……」
「そして金髪で目つきの悪い獣人の少年と一緒に殺し屋を倒して捕まえたんだ」
「獣人さんいつ現れた!? いやいや、いくらなんでもパクリ過ぎぃ!」
叫びながらまたもティーカップに放り込まれる
「解決した
熱湯から脱出した妖精は、巻き物という言葉にピクリと反応したが、さすがにもう叫ぶ気力がなかったのか、無言のまま制止している。
「その巻き物だが」
「クラスターフレイムの書かな?」
「よく分かったな」
「たぶん僕以外のみんなも分かっていたと思うよ。展開的にね……」
言うまでもなく──今回も
クラスターフレイムの書とは、クラスター爆弾のような効果のある魔法書である。呪文を唱えることで発動し、広範囲に小さな火の玉を撒き散らす。そして火の玉は着弾すると小規模な爆発を起こす。着弾せず地面に落ちたものはすぐに爆発せず地雷のような効果を発揮する。この世界ではどうだか知らないが、ゲームのプレイヤーとしての
「で、その巻き物も壺の中に入れておいたんだね」
「うむ」
ここまで話を聞いて、ボルケノは確信していた。爆発物をいくら揃えたところで、やはりダンジョンを破壊するなど不可能だと思う──が。
このミズネという女ならやる。
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