第7話 お姉様、異世界の重要システムを壊してはいけません。
ボルケノがクロザックに一通りの紹介まで終えたところで、クロザックが口を開く。
「よし、準備はいいな。じゃあそろそろこの新人冒険者ちゃんがなにをしでかしたのか、話そうじゃねえか」
「ああ、やっと始まるか。ここまで焦らしてくれたんだ、さぞかし楽しい話が聞けるのだろうね? もしつまらない話だった場合、お茶代はきっちり請求させてもらうから注意したまえ」
ボルケノが大袈裟に両手を広げる。その様子に冷ややかな視線を送るクロザック。
「おいボルケノ。こっちは焦らすつもりじゃねえし、てめえが妖精の嬢ちゃんたちの到着を待つように言ったから話が遅くなっただけだろうが。茶もてめえが勝手に出しただけだしよ。つーか、茶をガブガブ飲んでんのは俺じゃなくてミズネだし」
「はっはっは」
「面白くねえぞ……まあいいさ。これからその余裕ぶった表情をぶっ壊してやるからな。おいボルケノの旦那よお、ついでに金髪の嬢ちゃん。茶を口に含めや」
「…………?」
「え?」
「俺の話を聞いて、それを吐いたらてめえらの負けだからな」
「なるほど、そういう趣向か。理解した」
「えっと……承知しました」
ボルケノとイーリスは言われた通り、ティーカップの紅茶を一口だけ口に含む。テーブルの上で座っていた
「じゃあ、この新人冒険者ちゃんがやらかしたことを言う」
「
「────」
「おぶふぉ」
ボルケノはごくんと冷静にお茶を飲み込み(判定負け)、イーリスは派手にお茶を吹き出した(ノックアウト負け)。
「いや、お姉様! 悠々と茶を
「ミナモさん、落ち着きたまえ。騙されてはいけないよ。僕はミズネさんのような初期装備かつ初期レベル冒険者がチュートリアルダンジョンを壊すだなんて大それたことができるとは思わない。イーリス君もそう思うよね?」
クロザックの話に呑まれてはいけないと、叫んでいる妖精を
「けほっ! けほっ!」
「クロザック殿。貴殿もご理解していることと思うが、理論上、ダンジョン構造物はこの世界の最高の戦士や魔法使いが束になっても破壊できないことになっている。その道理が容易に曲がるなんてことはないと思うし、なんの力もないミズネさんにそんなことができるとも思わない」
「ああ、俺もそう思うぜ。しかしこいつは実際にそれをやってのけた。俺はその場にいなかったが、その手際は歴史的な爆弾魔も驚くようなものだったらしい。死者が出なかったことが奇跡みたいなもんだ。なんなんだこの女は、
「とても信じられないが、ミズネさん……クロザックの話は本当なのか?」
否定を求めて質問するボルケノ。なお
「おかわり」
「質問に答えてからだな……というかまだ飲む気か」
「うん。ああ、でも質問には答えるぞ。そのくらいの礼節はわきまえている」
「れいせつ……? ああ、礼節と言いたいのか。
「茶菓子?」
「そこに食いつくな、ただの皮肉だよ。ミズネさん、まずは僕の質問に答えてくれ。話が進まない」
これを聞いた黒髪のポンコツ女(横浜市出身20歳)は、謎解きを終えたあとの名探偵のごとく落ち着いた様子で、ゆっくりと頷いた。
「うむ。クロザック殿の言っていることは正しい。ただし──」
「ただし?」
「不可抗力だからわたしは悪くない」
「その
「俺が話すより、ミズネが直接話した方が面白いだろう。俺も途中経過までは知らねえしな。ミズネ、話せるか? まさかもう
「忘れてはいないよ。クロザック殿、あまりわたしを馬鹿にしないでくれ。記憶力には自信がある。今日ここでお茶を何杯飲んだのかだってちゃんと覚えているぞ」
「そもそも数えないといけないほど飲むんじゃない……。とりあえず了解したよ、ミズネさん。君がここから出ていってからの話を聞かせてくれ」
***
「お姉様。素直に『ボルケノ様に会いにいくのが怖くてトイレの窓から逃げました』と言ってくださいませ」
「
「いやだからその通りですし誤解でもなんでもなく……ああもう面倒ですわ。ボルケノ様もこのあたりの事情は知っておりますし、そのままお続けください」
案外、湯加減(?)が良かったのか──
「む、そう思われているのか。残念ながらわたしは逃げたわけではない。なんかこう──うん。とにかく逃げたのではなくて、街を歩いていた」
「はい」
妖精は無表情で相槌を打った。
「わたしはいろいろ考えて、
「お姉様。つまり南ユニを抜けて北ユニに鞍替えして、この場所に戻ってこなくて済むようにしようとしたのですわね……。そうすればボルケノ様に会う必要もなく、やらかしたことを謝る必要もなく、逃げたことを
「しかし
「どうせ道に迷ったとか、落とし物をしたとか、食い逃げをして捕まったとかなのでしょう」
「少しずつ惜しいな。わたしがやったのは、迷子の子供を助けたこと、盗まれた宝石を
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