第2話 小さな神様

ジリリリと部屋中に鳴り響く目覚まし音。閉ざしたカーテンの隙間から零れる朝日に目を顰め、あくびをした悠真をひょこっと覗き込む影がひとつ


「あ、おきましたですね」


「…夢じゃなかった」


「ユメじゃないです。ゆうべ、何回もいいました」


昨夜のゴミ…基、天界の子と名乗った少年の姿に悠真は深い息を吐いた


「はいはい…悪かったよ。昨日は夜遅くまで話聞いてたせいで寝不足だぜ」


「ぼくが悪いですか」


「うん、いや、違うな、理解力が乏しい俺のせいだな」


自身の言葉にぷくっと頬を膨らませる天界の子に苦笑を零し、悠真は「テン」と1つ名を呼んだ。名前が無いのは不便との事で、彼は昨夜少年にテンという名を授けたのだ。神様の子供に名前をつけるなんてバチが当たらないかと不安になったが、自身の与えた名前を嬉しそうに繰り返す姿を見てそんなことはどうでも良くなった


「なんだですか」


「なんですか、な。あのさ、俺は授業受けに行かねぇとなんだけど、お前はどうするの?ずっとここいる?」


「そのボッサボサのかみのけで行きやがりますか?みっともないです」


「ちゃんと朝飯食って身支度整えて行くっての!」


「ならよしです!…あとぼくも一緒にいきます」


「うん、そうだよな、そう言うと思った。でも絶対お前目立つから…リュックの中に詰め込んで行く事にするわ。だから一切音出すなよ」


「しんぱいないですよ。ぼくは姿けすことできます!」


「そしたら俺もお前の事見失っちゃうでしょうが!迷子になったらどーすんの!1人でここに帰って来れる!?」


「だいじょうぶです。ユーマがだっこしやがれ」


「お前その時々出る汚い言葉、どこで学んだの。抱っこって言ったって…抱っこしてるお前の姿見えないんだろ?傍から見たら変人だよ。抱っこのポーズしてる変な大学生だよ」


「じゃあおんぶで手をうちます。ぼくが首にぎゅっとしてるのでユーマは普通にしててだいじょうぶです。かんしゃしなさい」


「なんか上から目線だな…まぁそれならいいけど」


「あと、朝ごはんはなんでございますか?…ぼくは、昨日もらったミルクがいいです」


「はいはい、分かったわかった。とりあえず牛乳飲んで待っててくれ、ちゃちゃっとフレンチトーストでも作るから」


小さなコップに注いだ牛乳を机の上に置き悠真はキッチンへと向かう。慣れた手つきでフレンチトーストを作りながら、彼は座敷に座り牛乳を飲むテンへと視線を向けた。改めて見るとテンは外国に売っている人形ドールの様な美しい容姿をしている…話しさえしなければ良いのだが、ひとたびその口が開かれれば紡がれるのはぎこちなさすぎる日本語。時々理解し難い言い方をされるのでその言葉の意味を把握するのに時間を要する時がある



「ユーマ、ごちそうさまでしたです!おなかすきました、おかわり!」


「ご馳走様はおかわりの後に言うんだよ、テン。あと飲み物だけで腹膨らませようとすんな、もうちょいで出来るから待ってろ」


「おかわり!ごちそうさまでしたです!」


「うん、そういうことじゃない。待ってろって言ってんだろ。あと1分、その口で60秒数えてなさい!そしたら持って行くから!」


「むっ…しかたないですね。かぞえてやります」


いーち、にーい、と素直に数を数え始めたテンから視線を外し悠真は手早く盛り付ける。彼が50を数える頃には、細かく切られたフレンチトーストを乗せた皿は机に置かれ、60秒経ったと同時におかわりの牛乳もテンの前に用意された


「はいよ、フレンチトーストとおかわりの牛乳。小さく切ってあるから食べられるだろ?下界の食べ物を食べる際、味付けは薄めにだったよな…お前の分は味薄めに作ってあるから、ちゃんと噛みつつ早く食え。時間ないからな」


「ユーマは食べない?」


「俺はこのパン食いながら支度するんだよ。いいか、俺が風呂掃除と身支度終えるまでに食べ終えてなかったらリュックに詰め込んで行くからな」


「きゃー、らんぼー、ですよ。だいじょうぶ、ちゃんとたべるです」


頬いっぱいにフレンチトーストを頬張り再びテンが食事を始めた事を確認した悠真は、風呂掃除を終わらせてから身支度を整える。凡そ5分で支度を終え座敷へと戻るとテンは食事を済ませ早く行くぞと言わんばかりにリュックの傍に立っていた


「おそい!早く大学いくぞですよ。全く、ユーマはうすのろやろうですね」


悠真が来た事を認めたテンはまるでそこに階段があるかのように空中を歩き始め、悠真の背に体重を預け首に手を回した


「ユーマ、行ってきますしましょう!」


(…貯金下ろして日本語の勉強が出来る本買お…)


足をパタつかせ浮き足立つテンの声を聞きながら、悠真は1人そう決意した

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