第30話 ひそかなやり取り 8

 ジョセフの冬休みは、ほとんど大掃除の仕事をしていた。

 とはいえ、休みの日もある。そんな日は、ほとんどゲームか音楽を聴いているか、パソコンをいじっているか、食べているか、風呂入ってるか、寝ているかのどれかだった。

 友達もいるわけでもない。ただ、たまにジェームズから、今やっているテレビゲームの件で来てくれないかと電話で言われた。

 その時は、面倒くさそうに出歩いたが、ジェームズはどうせ、自分のゲームがクリアできないから、その部分を教えて欲しいという事なのだろう。

 実際、ジョセフは引きこもり不登校の時期もあったことから、ゲームにも熱中していた。その為、勉強には誇れるものではないが、ゲームに対してはみんなから褒められることも多かった。

 なので、ゲームのことで教えて欲しいといったことを、学校内で言われたことがある。

 そういったことなら、ジョセフは快く応じた。その話をすることで、敵に回せないようにできるからだ。

 ジョセフとしては、なるべく学校内では穏便に過ごしたかった。

 一方、ソフィアとのラインもやり取りはしていた。

 内容は、たわいのない話が多かった。ソフィアはもう一回、確か年末に「新年も迎えることだし、初詣一緒に行かない」と、誘われたが、ジョセフは、

「また、その時になったら」と、半ば断っていた。

 何故なら、やっぱり体型のことが気になってしまう。会うと、もしかしたらこの関係は終わってしまうのではないのか。それだと、せめてソフィアが描いている男性になりたい、そう思って、「どんな男性が好き?」

 と、話の流れから送ったのだ。

「うーん、あたし、あんまりこだわったことが無いからな。優しい人がいいかな」

 という答えに、本当はいろいろこだわってるくせに、と、ジョセフは思い込んでいた。

 その為、ジョセフは時間が空いている時があれば、ジョギングをした。

 ジャージ姿を見たマムは、目を疑った。

「ジョセフ、その学校のジャージ着てどこに行くの?」

「ちょっと、走ってくるよ」

 そう言い残して、ジョセフはその日から、毎日とはいかないけど、約三キロ走った。

 彼自身、走ることは好きではなかった。だから、結局冬休み終わりには、この方法は難しいなと思い、断念することになったのだが。

 三学期を迎え、ジョセフは学校で、大分打ち解けるほどになっていた。

 実社会を大分知っている人間に対して、半ば尊敬の面があることから、虐められることもなかったし、からかわれることもなかった。

 学校生活を桜花していたジョセフだったのだが、一つだけ、心に引っかかっていたことがあった。

 それは、ソフィアの返信が三学期の初めで止まってしまっていたことだった。

 正式には、一月十日。彼女に最後に送った内容は、三学期入って、一気に寒くなったという内容だった。

「お互い、風邪ひかないようにしようね」

 と、ソフィアが最後に残した言葉。

 もちろん、その後の挨拶は交わしたのだが、その翌日の昼間の長い休憩時間に、ジョセフは「やっぱり寒いな。体育も何で今日に限って外で走るんだか」といった言葉が、最後だった。

 最初は何かと受験シーズンだから、メッセージに気が付かないのかなと思っていたのだが、下校時間にスマートフォンを見ても、既読は付いていない。

 こうなると、ジョセフは気持ちがラインの既読でしか頭が回らない。

 今日は担任のサラから、冬休みの宿題を半分しかやっていないことに注意され、帰ってから一気に仕上げる事。と言われたのだ。

 仕方なく、ジョセフは家で仕上げようと決意したのだが、いざ家について、自分の部屋の勉強机に着くと、どうしてもスマートフォンを手に取り、ラインのアプリを立ち上げる。

「え、何で……」

 思わずつぶやく。既読は付いていない。

 スルーされているのか。

 その心の動揺を抑える為、ジョセフはパソコンを立ち上げて、既読スルーする女性の心理の記事を見てみる。

 どう返信したらいいか困っているとか、しつこい連絡に嫌気がさしていると書かれていたことに、ジョセフは半ば真に受けてしまい、本来宿題を終わらせなくてはいけないのに、頭を悩ませていた。

 自分に何かやましい文章を送ったのだろうか。と、ラインの過去のやり取りをスライドさせて、見てみるのだが、確実にこれだという決定的なものはない。

 一体どうしたのだろう。本来なら、十分も経てば返してくれるのに。

 いっそのことライン電話した方がいいのでは……。

 ともよぎったのだが、実のところ、ソフィアと電話をしたことが無い。

 いや、待てよ。今もしかしたら、嫌われているのであれば、しない方がいいのかも……。

 そんなことを考えていると、またアリ地獄のように、ぬかるみにはまってしまう。

 ジョセフは精神的に不安定なまま、宿題の方に取り掛かるのだが、時たまにラインを見てはため息を漏らしていた。

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