第28話 ひそかなやり取り 6

 家に帰ったジョセフは、食卓でもウィリアムとの話で、より、ソフィアのことが分からなって、頭を抱えていた。それを見かねたマムが言った。

「どうしたの? 元気ないじゃない?」

 そう言ったマムに対して、ジョセフは顔を上げた。

「いや、別に……」

「学校で、何かあったの?」

「そうじゃないよ」

 ジョセフはため息を漏らした。

「本当? ジョセフはあんまり私に悩み打ち明けてくれないから、学校のことだったら、心配で……」

「じゃあ、学校以外の悩みだったら聞いてくれるの?」

「もちろん、教えて」

 マムはナイフとフォークを置いて、目を輝かせた。

「いいよ。別に……」

「もう、じらさないで、教えてよ」

 ジョセフはもう一度ため息を漏らして、意を決して言った。

「僕がこの前言ってた、ラインで仲良くなった子がいるって言ったじゃない」

「そうね。覚えてるわよ。一年年上のことしてるってことでしょ」

 ジョセフはソフィアとラインをしているという話を、マムに話をしていた。

 その時は、ジョセフもそれをどソフィアに対して異性として意識をしていたわけではなかったし、たわいもない話の流れでその事を喋ったのだ

 マムはラインをしているわけでもなかったので、あまり詳しくは分からなかったが、ジョセフが気分転換になれるのであればと思って、それも含めて興味はあった。

「そうなんだ。でも、その子に会った方がいいのか悩んでるんだ」

 何だ、そんなことか。マムは肩の荷が下りたように、思わず笑った。

「何がおかしいの?」

 ジョセフは明らかな嫌悪感をさらけ出した。

「いや、そうね。ちょっとずつ仲良くなって、会ってみたらどう?」

「それ、本当に思ってる?」

「お、思ってるよ」

「気持ち入ってないんだけど……」

「失礼ね。確かにお母さんはあんまりそういったことはやらないから、詳しくは知らないけど、ジョセフがどうしても、その子に会いたいのであれば、会ったらいいんじゃない。ほら、二学期ももうすぐ終わるから、冬休みにお互いに会ってみたら?」

 冬休みね……。

 ジョセフはその考えも分かるのだが、どうしても考えがまとまらないまま、目の前のチキンライスにも食べることが進まなかった。


「次、ジョセフ君」

 そう言われて、ジョセフは立ち上がって、教壇に立っていた担任のサラに通知表を渡された。

「二学期は色々あったけど、三学期巻き返そうね」

 そう言われた。そう、学校では不思議とジョセフの体調は順調に良くなっているのだ。

 何も心配いらない。

 はずなのに……。


 通知表はお世辞にも、良いとは程遠いものだった。

 授業態度はいたって普通だが、テストの点数が悪いのと、やっぱり、休みがちなので、忖度なしの、それなりの評価だった、

 明日から冬休みに入るが、ジョセフのスケジュールはびっしり入っている、

 それは、清掃業務だった。特に、この時期は大掃除で忙しい人たちが、雇いたくなる時期なのだろう。ジョセフはスキルマーケットでは高評価をもらっていた。

 その理由は、朝から夕方までみっちり掃除してくれることと、トイレ掃除も嫌がらずにやってもらったという評価だった。

 また、一日、家を掃除してもらって五千円は安いという、ところがいい評価につながった。

 しかし、悪い点もあった。それは、ゴキブリがトイレにいた時に、対峙するのに一時間半も掛かって、予定の時間よりも長引いたというところだった。

 ジョセフはあれから、大嫌いな虫を克服できずにいた。ハエなどの小さい虫はそれほど気にはならないのだが、どうしてもゴキブリや、蛾などは怖くて、中々仕留められない。

 それに、ジョセフは動物にもどう接したらいいのか困惑した。一軒家の中も掃除しに行った時に、家の外に飼い主の大きい犬がいる。約束の訪問時に、ずっと吠えてきたのだ。ジョセフの家は今まで動物とは無縁の生活をしてきたので、恐怖だったのだ。

 その青ざめた表情を見て、主の男性が、「ごめんね」と、何度も謝ったのが、そのやり取りが更にジョセフの肩身を狭くした。もちろん、スキルマーケットのジョセフの登録には動物のいる家はお断りなんて書いていないから、我慢しなくてはいけない。

 とはいえ、そんな動物厳禁、なんてことは書くつもりはない。そこは何とか克服できるのではとジョセフは考えていたからだ。

 冬なので、虫も出てこないだろう。ジョセフはここで何とか色々なところを訪問して、今後の仕事に生かせればと思っていた。

 いつ、飽きるか分からない。それまではきっちり仕事をしてみようと、ジョセフは考えていたのだ。

 しかし、本当はソフィアのことも忘れてはいなかった。彼女とは相変わらず、ラインを続けていた。ジョセフは会うという事を打ち明けられずにいた。

 いや、もう、会わなくてもいいんじゃないのか。そんなことを思っていた時に、予想外のことが怒った。

 それは冬休みに入って、一週間も経たないことだった。どうやら、彼女も冬休みに入ったことで、ソフィアからのラインで、

「ねえ、今休みだから、会ってみない?」

 という、メッセージをもらったのだ。

 ジョセフはこの言葉に対して、困惑してしまっていた。願ってもいないチャンスだ。しかし、自分は容姿が良くない。この顔の大きさも、お腹の張りも、脂ぎった体質もそこにはセシルが言った不潔という言葉にふさわしいんじゃないかと閉口した。

 しかし、その問いに対して返事を返さなくてはいけない。ジョセフはその言葉をしばらく保留にして、二時間ほど考えてみて、ようやく送った。

「ごめん。明日から、しばらく仕事で忙しいんだ。時間があったら、また会おうよ」

 その返信から、約一時間でソフィアから返ってきた。

「そっか……。分かった。ごめんね、いきなりのこと言って」

「いいよ。ラインだったらいつでも話すよ」

 その言葉を送って、ジョセフは後悔したという気持ちを無理に心の中に閉じ込めて、これで良かったんだと納得した。

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