第15話 クリーンファイター
それから、ジョセフはインターネットで掃除に関することや、(掃除、お金を稼ぐ)と、検索画面に入力して、手あたり次第調べ回った。
そして、スキルマーケットがその該当に当てはまり、すぐにジョセフは自分の名前等を登録した。
“部屋の片づけ等、面倒くさい掃除など、頼めば細かいところまでキレイに掃除します!
キャッチコピーを入力して終止にやけながら登録し、早速、ダーナからもらった一万円で、一駅あるホームセンターに出かけて掃除用具を大量に買い込んだ。
また、インターネット通販でも、市販では売っていない、便利な掃除用具を買っていった。
その、日に日にコレクターのように掃除用具が溜まっていくのを見ていたマムは、驚きの表情を見せた。
「ジョセフ、どうしたの? また、誰かに草むしりを頼まれてるの?」
「いや、そうじゃないよ。僕、掃除してお金を稼ぐんだ」
「掃除をして、お金を稼ぐ……。清掃業務の会社でも勤めるつもりなの?」
「違う違う。自分のスキルを活かして、インターネットで雇ってもらうんだ」
「雇ってもらう……。仕事を?」
「ああ、そうだよ。お客さんから掃除を頼まれて、僕はその人の家や庭や、水回りなどを掃除するんだ」
「へえ……」
マムは喜んでいいのか分からなかった。確かに引きこもっていた時よりかは何倍も精力的な活動ではあるが、学校にも行かず、こういったことをするのは教育としてどうなのだろうか。
マムはどう返していいのかわからなかった。実際、ジョセフが不登校になってから、もう二週間が経っている。学校側から、「一度でいいので、三者面談をしてもらえませんか?」と言われているのだ。
その答えに対して、マムは保留にしている。実際、マムも平日は朝から晩まで仕事、その後は家事のことをやらなくてはいけないので、時間が無い。それに土日は學校が休みなので、平日しかできない。
なので、彼女自身も仕事を休まなくてはいけない。
「ジョセフ、その仕事というか、趣味でお小遣いを稼ぐのもいいのかもしれないけど、学校のこともこれからどうするのか考えましょう」
そうマムは言うが、ジョセフは険しい顔つきになった。
「お母さんは僕が自立を目指すことに対して反対してるの?」
「別に反対はしてないわ。だけども、それは中学、高校卒業してもできる事じゃない」
「何、カリカリしてるの。僕だって、このスキルマーケットが成功するかは分からないけど、学校は行く気にはなれない」
マムは軽くため息をついた。
「こないだ、学校から電話があって、ジョセフ君はいつ来るのかと聞かれたわ。お母さんとジョセフ君、そして先生と三人で一回話をしましょうと電話越しに言われた。学校では難しいのであれば、自宅にお邪魔する形でも構わないし、玄関前でもいいと言われたのよ。私も、どうしたらいいのかわからなくて……」
マムは今にも涙を流してしまいそうなくらい、感情的になっていた。
ジョセフはどうしたらいいのか考えてから言った。
「お母さん、先生が来てくれるんだったらそれでいいよ。三人で話そう。でも、僕は学校が行きたくないという信念は貫き通すよ。だって、行ったところで、他のクラスメートからは嫌な目で見られるし、虐められるのは確かだよ。しかも、先生のいないところで」
マムはそれを聞いて、更に困惑していた。先生の話からすると、ジョセフが女の子にしつこく告白したことで、噂が広まったと言っていた。それは、ある意味自業自得ではある。しかし、いっても自分の可愛い一人息子だ。それは誤解だと思うのが親の気持ちではある。
「……わかった。一回先生と、この家で話してみましょう。そこで先生がどういうのか分からないけど……」
「そうだね。でも、僕は譲れないよ」
ジョセフはそう言って、マムをじっと見ていた。
「結局、ジョセフ君は中学校をこれから登校しないということね」
担任のサラはマム宅の食卓で言葉にした。
「ああ、僕はそのつもりでいるよ。みんなと顔を合わせたくもないし……」
「それだったら、保健室登校は?」
「そんなのあるんですか?」
マムは驚いて聞く。
「ありますよ。いろんな問題を抱えていて、生徒たちと過ごせなくなった子が、保健室で自首勉強をして、学校に慣れてもらって、いつしか、教室に返っていく。そんな事例もあります」
「嫌だよ。だって、僕は別に病人じゃないし……」
不貞腐れながらジョセフは、机の上を指で弄ぶように何個も丸を描いていた。
「うーん……」サラはことが動くと思っていたのか、目を閉じて腕を組んだ。どうしたものかと考えているようだ。
「先生、ジョセフがここまで固いのであれば、一度、ジョセフの好きなことをさせた方がいいと思うんです。その方が、この子の為でもあると思うんです」
マムは言った。
「どうして、そう思うんですか?」
「先生は学校でしかジョセフのことを知らないかもしれないですけど、元々ジョセフは輪の中に入るような子ではなく、結構自分自身を貫いてきた子なんで、いずれ学校に登校する気持ちが湧くかもしれないので、一度そうさせた方がいいのかもしれません」
サラは顎に手を当てた。
「分かりました。ジョセフ君を一番知ってるのはお母さんですから、そのほうがいいのかもしれません。しかし、この時期というものは二度と戻れない貴重な経験なのよ。分かってるわね。ジョセフ?」
「もちろん、分かってるよ。その為に決断したんだし、僕もまた気が変わったら登校すると思うし……」
「是非、その時が来ることを願ってるわ」
そう言って、サラは立ち上がった。
「今日はわざわざありがとうございます」
マムは丁寧にお辞儀をして、サラは「いいんです。お母さんこそお仕事だったのに、休みを入れて下さって」と、サラも頭を下げて言った。
ジョセフはこの三者面談を行った反動からか、それから毎日スキルマーケットに意欲的になっていた。
ジョセフ自身も暇だったので、スキルマーケットのサイトを駆使して。いろんな指向を確かめてみた結果、何人もの人がジョセフの掲示板を見て依頼を頼んできた。
……結構遠いな。
ジョセフは依頼主の場所がここから電車で二時間や、他県などであり、これではお金を稼ぐどころか出費の方が多い。
一番近いところは電車で一時間だった。
取り合えず、ジョセフは三千円で手を打った。
手を打ったのは良かったのだが、相手は赤の他人。当然同じ年齢でもない。そんな人、または人たちの中でコミュニケーションを取りながら、掃除ができるのだろうか。
ジョセフは約束の前日まで、緊張していた。あまりの不安から眠りにつくのが遅かった。
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