第13話 掃除への取り組み 3

「何なんだよ」

 ジョセフは家に帰ってから、思わず暴言を吐いた。

 ダーナは二年前に夫を亡くしている。何人か子供はいたのだが、みんなそれぞれの家庭を持っていて、帰省するのは夏頃だろう。

 実際に毎年八月の半ばに帰ってきて、庭でバーベキューをしている。

 その会話がうるさくて、毎年、ジョセフはテレビの音量をわざと上げるのだ。

 ――しかし、ダーナに見られていたとは。どれだけヒマな婆さんなんだ。

 ジョセフは心の中でそう憤りを感じながら、マムが作り置きしてくれていた昼食を食べながら思っていた。

 テレビも観ていた。この時間帯はワイドショーや今日の特集をやっている。家庭で使える収納グッズの紹介だった。

 ジョセフは何気に観ていたが、部屋の掃除に使えるんじゃないのかと、突如浮かんできて、それからそのコーナーは食い入るように見ていた。

 掃除好きと宣言するルナの部屋はいつもキレイにしている。生配信を家の部屋で録っているので、散らかっている様子などサラサラない。

 自分もあれほどキレイにしていたら、良いことがあるのだろうか。

 流れていたテレビはその後、部屋を掃除したら運気が上がりますと、若い女性コメンテーターが豪語していた。

 ――本当だろうか。

 ジョセフは部屋をキレイにしたら幸せになれると、インターネットのコラムを見たことがある。その時は、大して気にも留めていなかったのだが、そういった風水の本も出ているし、ある意味証明されたものなのだろう。

 ジョセフはそう思いながら、モチベーションを上げて、草むしりに取り掛かった。


「こんなにも、やってくれたの?」

 マムは帰ってくるなり、目を輝かせていた。

「そうだよ。僕も本気を見せたらこんなもんさ」

 ジョセフは汚くなった軍手を最後にゴミ袋に入れた。

 庭はすっかりキレイになった。あれからジョセフは時間を割いて行い雑草一つもない庭を完成させた。

 それはマムを驚かせたい気持ちと、運気が上がると信じてだ。

 しかも、ジョセフはそのついでに勢いに任せて皿洗いもしていた。それからシンクの汚れも気になっていたので、台所の棚から使えそうなものでキレイに磨き上げた。

「これも、へえー、あんたそういった才能があるんじゃない?」

 マムはすっかり感嘆している。

ジョセフは照れながら鼻を掻いた。「まあね。しかも、明日には隣のダーナの草むしりもやることになってるんだ」

「ダーナって隣の?」

「そうだよ。今日僕が庭の手入れしていたのを見ていたんだって」

「凄いじゃないジョセフ」

 マムは思わずジョセフにハグをしようと思ったのだが、すんでのところで止めた。この子は今反抗期なんだと、頭の中でよぎったからだ。

「これで、僕は半年くらい学校休んで良いよね」

 そうジョセフは笑う。

「半年は言い過ぎよ」

 マムも笑い返した。

 ジョセフと笑い合えるなんて、しばらくなかった。掃除をする昨日の朝までは、もう、彼は部屋から出ることが無いんじゃないのか。そう思い詰めていたのだ。

 それが、部屋をキレイにしただけで、ジョセフは笑ってくれる。ジョセフが本来の才能を発揮したのだ。

 もしかしたら、本当にこの子は部屋をキレイにする才能があるんじゃないか。マムはそう思い始めていた。何故なら、この一週間自分の子育てに関しての反省。

そして、これから息子と接していくのに、親戚も五年前にいろんな人が天国に旅立ってしまい、誰もおらず、どうしていいのかわからなかった。彼の長所も探してみたが、何も思い浮かばなかった。勉強も運動もどんくさい子だと学校からは懇談に言われ、通知表を開けてみたが、“取り組めば何事にも頑張る子なので、色々学ばせてあげてください”といった、当時の先生からのメッセージ。

 しかし、何を学ばせることが出来るのか。マム自身もそれほど趣味もないのに……。と考えていた矢先にこの出来事だ。

 マムは涙を溜めていたのに気づいて、拭った。

「今日は、美味しいものを作るからね」

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