第11話 掃除への取り組み

 ジョセフは部屋に戻ったが、この五日間、失恋、裏切り、虚無感が入り混じって、情緒不安定で涙を流す日々だった。その度に鼻を噛んでいた。

 部屋中、ティッシュだらけだった。ジョセフは流石に部屋が汚いと感じ、コンビニからもらった袋にティッシュ等、ゴミを詰め込んだ。

 小さい袋はたちまち、満杯になった。その為、また小さい袋を部屋の中で探し、入れるが、また溢れてきた。

 ジョセフはお腹が痛くなってきて、トイレに駆け込んだのと同時に、台所から大きな袋を取り、部屋に戻った。

 一階で掃除機を掛けていたマムは、その光景を見て、何をするんだろうと思った。

 一階でマムがリビングの掃除、二階ではジョセフが自分の部屋の掃除。二人とも同時に掃除をするのは初めてのことだった。

 しかし、ジョセフは大きな袋にティッシュを詰め込んだが、しばらくして飽きて、また、ネットサーフィンを見ながら、リビングから取ってきたチョコレートのお菓子を頬張っていた。

 ルナは本当に可愛くてスタイルも良くて、こんな彼女だったらいのになあ……。

 ジョセフは気持ちを高ぶらせていた。

 ルナの趣味は絵を描くことだ。マンガチックのようなものではなく、画家の作品のように、多彩な色を使い強いメッセージ性を残すのが好きだ。実際にピカソやゴッホの展覧会に足を運んだりしているらしい。

 だが、一人暮らしで、ワンエルディーケーなので、書いた作品を置くスペースがない。それに絵の具が部屋に飛び散ったりしやすいので、定期的に掃除をしているようだ。また、ルナは掃除することも好きだ。

 掃除か……。

 ジョセフは自分の部屋を見まわした。マムがいつも言っているように汚い。先程ゴミ袋にティッシュなどのゴミを入れたが、部屋中ゴミだらけだった。

 とはいっても片付けはな……。

 一階で掃除機の音が消えた、マムが掃除を終えたのだろう。すると、彼女の大きな声が聞こえてきた。

「ジョセフ、掃除してるの?」

「いや、してないよ」

 ジョセフは正直に答えた。

「自分の掃除をしてくれたら、しばらく不登校になっても許すっていうのはどう?」

 そのマムの話にジョセフは耳を疑った。

「何て?」

「逆に言うと、掃除しなかったら学校に行かせます」

 そう言われて、ジョセフはしばし思案していたが、

「それなら、片付けるよ」


 これまで一回も掃除をしてこなかったジョセフは、掃除をすると負けた気分にもなった。何故なら、掃除なんてしたって、どうせまた散らかるに決まってる。

 そう心の中では断固として思うが、学校に行かなくてはいけないことを考えると、手を動かすしか他はない。

 今のジョセフにとっては、とても学校に行くのはごめんだった。先生を筆頭に何を言われるのか分からない。それにセシルからの視線だ。本当に自分はとんでもないことをしたのだろうか。逆にとばっちりを食らっただけなんじゃないのか。

 そう考えに浸ると苛立ちが募ってきた。何か月前に学校からもらったプリントをくしゃくしゃに丸めて、思い切りゴミ袋の中に投げ捨てた。

 畜生、畜生、畜生!

 およそ二時間も続けざまにやった結果、部屋のゴミたちはゴミ袋の中へと化した。そして、パンパンに詰め込んだゴミ袋が三つ仕上がった。

 ジョセフは片手に一袋ずつ持って階段を下りた。

「お、やるじゃない」

 マムは感動していた。

「これでサーベルとは違うことが証明できたわね」

「あのおばちゃんとは元々違うよ。一緒にしないでよ」

 ゴミ屋敷、サーベルの家は、今ではある意味鑑賞物になっていた。近所の人たちだけでなく、小学生たちが十人ほど彼女のゴミ屋敷を見ていた。

 それに、少年たちは彼女の家の壁に落書きをしていた。何ともモラルに反した行為を植え付ける屋敷でしかない。

 その為、親からは市に苦情を入れている。市からも直接なり電話なりサーベルに言うが、本人は時たまに意味不明な言葉を叫んでは、この屋敷を頑なに守っている。

 ジョセフは何回かサーベルを見たことがある。年齢は五十代とマムから聞いたが、とても五十代には見えなかった。七十代のよぼよぼのお婆さんに見える。

 それに服装も肌色の伸びたシャツ一枚。下もパジャマのサイズの合わないダボダボのズボンを着ている。

 そして、屋敷全体からとてつもない臭いが充満している。小学生たちは笑いながら自分の鼻をつまんでいる。

 ジョセフはどんなに今が不幸だったとしても、サーベルのようなゴミ屋敷を作り、自分はその周りを徘徊し、ゴミを拾いあさるという日常を過ごしたくはなかった。

 ジョセフはゴミ袋を玄関に置くと、また階段を上っていった。

 学校に行きたくない力というのは相当なものだった。ジョセフはノートパソコンもテレビもエアコンでさえも掃除をして出来るだけ地理ひとつ無いようににした。

 マムが階段を上がってきた。

「へえ。キレイになったじゃない」

 彼女は腰に手を当てて、部屋の中を見ている。

「ちょっと、勝手に上がるなよ」

「お母さんが合格か不合格かつけるんだから、見ないと分からないでしょ」

 ジョセフはルナの水着姿のポスターを壁に貼っているのを恥ずかしがっていた。時計もマウスパッドもこないだルナのファンクラブ会員に入り、その記念の特典だった。

 しかし、マムはその部分をあえて見ていないように言った。

「やればできるじゃない。一応合格ね」

「一応って何だよ」

「明日は庭の手入れでもやってもらうわ」

 その言葉にジョセフは反抗した。

「何それ、聞いてなんだけど」

「じゃあ、学校に行く?」

 ジョセフは思い切り、マムを睨みつけた。

「分かったよ。やればいいんでしょ。やれば」

「じゃあ、決定ね。明日はお母さん仕事だから、その間によろしく」

 何だか、上手く乗せられたようだ。ジョセフは内心母親が嫌いになった。

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