第9話 セシルへの気持ち 7

「ジョセフ、ちょっといい?」

 翌日、担任のサラに言われて、ジョセフは休み時間教室から出た。


職員室の中に入った時には、多分セシルのことだろうと思っていた。ジョセフは何故か逮捕された犯罪者のような気持ちを想像した。

 サラは自分の席の隣の椅子に、ジョセフに対して「座って」と、言って、彼を座らせた。

「セシルさんから聞いたけど、彼女から執拗以上に聞いたりしたんだってね」

 サラは自分の席に座り、腕組みをした。

「はい」

 ジョセフは自分の声がこんなに小さかったのかと思うくらい、かすれた声だった。

「何でそんなことしたの?」

 サラはジョセフの目を逸らさない。相当怒っているようだ。

 その問いにジョセフは困った。好きだからという回答しかないのだが、セシルがサラにどう相談したのかは分からないが、告白めいたことを言ってくると打ち明けたのであれば、こんな質問いるのだろうか。

 ジョセフは目線を逸らして言った。

「セシルのことが好きだからです」

 サラはふーんと鼻から息を漏らした。

「まあ、年頃だから気持ちは分からないことではないけど、そんなことしたら学校行きたくなくなるでしょ。お互いに」

「はい」

「セシルさんはジョセフ君には、連絡事項以外話をしたくないと言ってるから、これからは、そんな気持ちでセシルさんを見ちゃダメよ」

「はい」

「次やったら、みんなの前で発表させるからね」

「はい」


 職員室の扉を閉めた時には、ジョセフは何も感じなかった。

 昨日はあれほど泣いた。その上、風呂には自分にむち打ちして何とか入ったが、ご飯も一つも食べられなかった。本当に母親に対しては申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 しかし、夜も眠れなかった。何かと考えてしまう。悩み悩んで、明日学校を休もうと思っていたら。やっと知らずに眠りについた。その時刻、三時だった。

 朝に鏡をチェックしたのだが、ほのかに目の下にクマが出来ているような気がして、寝不足だと思われたくなかった。

 後は、気持ちに身が入らなかった。元々、勉強に集中するジョセフではなかったので、体調が悪くてもいいのだが、ただ、ノートはちゃんと取っていた。あまり字はキレイではないが。

 そのノートも部分的にでしかとっていない。何気にセシルの方を見る。彼女はいつもと同じように姿勢を正して、教科書とノートと黒板、そして先生の話に耳を傾けている。

 ――セシルは気が強い。

 その言葉をジェームズがしたのを思い出した。

 気持ちでは自分に対して嫌悪感がありつつも、自然体で保っていることが自分と違って強さを物語っていた。

「何か、先生に言われたのか?」

 教室に戻って自分の席についたジョセフに、ジェームズは好機の目を輝かせながら近づいてきた。

「いや、何も。最近成績が悪いよって言われた」

「ふーん」

 ジェームズは頭の上はハテナマークだった。「俺も、結構勉強できてないぜ。こないだのテストも見せただろう。点数一桁だったって」

「まあね。何でだろうね」

 ジョセフは頬杖をついて上の空だった。その光景を見たジェームズは首をかしげていたが、ジョセフの肩を叩いた。

「まあ、頑張れよ」

 それ以上言うことはなく、また、別の友達と楽しい話をしていた。

 ジョセフはそこに自分も混ぜて楽しい話ができるのであれば、そうしたいと思っていた。しかし、頭の中は絶望感でいっぱいだった。

 思わずジョセフは、大きなため息を漏らしていた。


 泣きっ面に蜂とは、誰が考えたのか分からないが、良く理にかなったものだ。

 ジョセフは翌日の朝、昨日よりも少しずつ、気持ちの整理が調いつつあったのだが、登校して、教室のドアを滑らせた後、ほぼ全員の生徒が自分に注目しているのが分かった。

 何事かとジョセフはおもむろに席をついてすぐに分かった。黒板には大きく相合傘が掛かれていた。そこには、ジョセフの名前と、セシルの名前が書かれてあった。

 慌ててジョセフは立ち上がった。セシルを見渡すのだが、彼女はまだ来ていないのか、それとも席を外しているのか、教室にはいなかった。

「何だよこれ!」

 そう独り言を言って、黒板消しで急いで消した。

 乱雑に消した後、生徒たちを見た。みんなはジョセフを見て、せせら笑うように、友達と小さい声で笑っている。

「誰だよ、こんなの書いた奴は!」

 ジョセフは真っ青な顔で叫ぶが、もちろん、誰も手を上げることはない。

「ジョセフ、お前、セシルに告白したんだってな」

 そう言ってきたのは、友達のジェームズだった。

「お前が書いたのか?」

 ジョセフは我を失っていた。

「違う違う、俺じゃないよ」

 ジェームズは両手を見せるように横に振った。

「じゃあ、誰なんだよ」

「分からねえ。でも、お前がセシルに商店街の書店前に告白していたって言った奴がいる。そいつの噂で俺は聞いた」

 ジョセフは怒りの矛先をどこに向けていいのかわからなかった。思わずジェームズに殴りかかりたかったくらいだけど、ジェームズが犯人かは分からない。

 みんなの目線に耐え切れなくなったジョセフは思わず教室を飛び出した。

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