第8話 セシルへの気持ち 6

 今日もセシルに告白が出来なかったと、落胆しながら家に帰っていった。

「あ、そういえば、今日、少年雑誌の発売日だった」

 家に帰ってジョセフは思わず一人で呟いていた。

 あまりにも、セシルのことを考えすぎて、楽しみしていたマンガを帰りの書店で買うのが日課だったのだが、それを通り過ぎていたのだ。

 ジョセフはカバンを玄関に置いて、またドアを開けた。


 商店街にある書店に向かおうとして走っていたのだが、いろんな人が行きかう中で、前から歩いていくセシルがいた。

 ジョセフの方が先に気づいたのだが、うつむき加減だったセシルも顔を上げて、驚愕して立ち止まった、

「あ、今帰り?」

 ジョセフは言葉に詰まりそうになりながら、出来るだけ自然体で接した。

「え、あ、うん」

 セシルはジョセフと目線の合わさずに、そのまま通り過ぎようとした。

「ねえ、この前のどこかに行こうって言った約束覚えてる?」

 ジョセフは心臓が爆発しそうなくらい、心拍数が上がっていたのを感じていた。しかし、ここを逃がしてしまうと、自分は後悔の念に押されてしまいそうだった。

 だが、ジョセフの問いにむなしく、返ってきたのはジョセフにとっては意外なものだった。

「もう、あたしに声を掛けないで」

 彼女は歩き出していく。ジョセフは追いかける。

「どうして? 君を誘ってるんだよ」

「それが嫌なの。あたし、不潔な人が嫌いなの!」

 そう叫んで、セシルは走り出した。

「ちょっ、おい」

 ジョセフも走って追いかけようとしたが、商店街の人波を潜り抜けたとしても、セシルに何を話せばいいのか分からなかった。

 その為、十メートルだけ走って止まった。

 完全に嫌われてる……。

 そう痛感したジョセフは、しばらく、動けなかった。


「ジョセフ、ご飯よ」

 そうマムは二階に上がってドアをノックするのだが、

「今日はいい」

 その言葉が聞こえなかったので、マムは言った。

「何て、ジョセフ?」

「今日はいらないって言ってんの!」

 半分叫ぶような言い方だったので、マムは驚いていた。

「大丈夫なの。熱でもあるんじゃない?」

「無いよ。放っといて!」

 マムはノブに手を掛けようとした。しかし、この前のようにジョセフに怒られるのは心が痛んだ。

「分かったわ。もし、お腹が空いたり、何か気分が悪くなったら、お母さんに言うのよ」

 それだけ告げて、マムは階段を降りていた。

 ジョセフは涙声だったので、それをマムに感づかれたのではないかと不安になっていた。しかし、それよりもセシルに完全に嫌われたことと、明日になったら全生徒に、そのことが噂で広まっているんじゃないのかという不安がジョセフには襲い掛かっていた。

 聞くんじゃなかった……。まるで螺旋階段を降りるように、ネガティブな気持ちがグルグルとかけ回っている。

 こんなに辛い体験は初めてだった。今まで、デブだのブサイクだの男子から言われたことはあったし、からかわれたこともあった。しかし、そのショックより度を越えている。

 失恋というものはこんなに辛いものなのか。

 ジョセフはティッシュペーパーを取り、思いっきり鼻をかんで、そのゴミを部屋に投げ捨てていた。

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