第5話 セシルへの気持ち3

「ねえ、セシル。今度一緒に僕もライブに行っていい?」

「うん、いいよ」

 って、いう流れにならないかな。

 そう、ジョセフは休み時間、頬杖を突きながら、教団の前で数人とじゃれあうセシルを見ていた。

 “まだ、男たちには隙を与えてないんだからな”

 ジェームズの昨日言った言葉が引っ掛かっていた。

 まだ……。という事は、これから、何人かがセシルに告白をして、その内の一人がセシルと恋人同士になるというのだろうか。

 このクラスで一番顔がいい男子はオリバーだ。彼は彼女がいないとは思うが、勉強もスポーツもできる。ジョセフとは雲泥の差だ。

 ジョセフはオリバーを見た。オリバーは教室の端っこの窓の部分で、数人の男女に対してお茶らけながら笑いを誘っている。

 オリバーがセシルに好意を持っているのかは知らないが、彼が本当に告白して来たら、セシルはオッケーを出すのではないのか。

 そう考えると、先手を打つのが良いよなと考えていた。


 美術の授業の前、生徒たちは美術室に移動するのだが、その時に移動中のジョセフはまさかのセシルに声を掛けられた。

「ねえ、ジョセフ君の家って、あの大きい白い家の近く?」

 急に言われて、ジョセフは驚いた。セシルの方に振り向くと、そこには彼女の友達の二人も一緒だった、

「大きい白い家って、永細いところの?」

 ジョセフは言った。

「ああそう、かどっこの」

「そうだね。その近くだけど。どうして?」

「あたしの友達の家の近くだったから。この前、近くまで行ったら、ジョセフ君がいて。そうかなって……」

 そう言って、彼女は笑った。

「見られたら、嫌だなあ」

 ジョセフは頭を掻いて笑った。

 その後に、セシルはまた女子二人と話し出して、歩いていった。

 もしかして、セシルは自分に気があるのか……。

 ジョセフは思わずニヤついていて、心の中で舞い上がっていた。


 昼の授業の時に、ジョセフはセシルのことで頭がいっぱいだった。

 興味があるのだったら、こんな自分でも告白したらうまく行けるんじゃないか。

 しかし、どうやって告白しよう。セシルが一人の時を狙うしかない。

 ジョセフは告白したいけど、その勇気が難しかった。確かに自分には時間が無い。しかし、もし断られたら、自分はどのように振るまえればいいのだろうか。

 考えてみるが、やっぱりセシルの長く美しい髪、姿勢正しく座る姿。清楚な性格、そして優しさ。その全てが愛おしく思えて、ジョセフは授業が終わるころには告白してみようと心の中で決意した。


 一人の時間を狙って伝えればいい。

 ジョセフは、その日の下校時間で思案していて、今日じゃなくとも、そんな日が訪れればと思っていたのだが、ジョセフが一人で校舎を出ると、そこには、セシルが一人で歩いていた。

 絶好のチャンスにジョセフは声を掛けようか迷っていたが、美術の時間の前に話してくれたこともあって、声を掻けても問題ないだろうと思って、躊躇していたのだが勢いに任せて声を掛けてみた。

「セシルさん。一人かい?」

 ジョセフは今気づいたように後ろから、セシルの横に立った。

 セシルは驚いて振り向いたが、ジョセフが横に来たので、ジョセフの方に目線を向けた。

「うん」

「今日は、友達とは帰らないの?」

「今日は、ピアノのレッスンがあるんだ」

 そう言って、うつむき加減のセシル。本当にピアノを弾くのが楽しいのだろうか。

 自分が話しかけたのに、意外と反応が悪かったのが、少々気にかかったが、ジョセフはそのことは考えずに、告白をしようと周りを確認した。

 幸い、二十メートル後ろに男子生徒がいるが、一人でうつむきながら下校しているし、その少年は下級生だった。

 意を決して、ジョセフは言った。

「あのさ、今度、一緒にどこかで遊びに行かない?」

「え?」

 セシルは突然の発言に目を疑った。

「ほら、気分転換にさ。駅前のファストフードとか……」

 ジョセフは多少焦った。話しかけたのは良かったのだが、具体的な場所は何も考えていなかったからだ。

 セシルはまたうつむいて言った。

「ごめんなさい。あたしそんな気分じゃないの」

「じゃあ、一週間後は?」

「そういう意味じゃないの。じゃあね」

 と、そう言って、セシルは走ってジョセフの顔を見ずに、去っていった。

 残されたジョセフは、予想外の展開に、思わず立ち止まってしまった。

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