第3話 セシルへの気持ち

 ジョセフは学校の授業中、集中できなかった。

 それは、朝にマムに言った“好きな人はいない”という言葉に対しては、思わず嘘をついた。

 その理由は、単に恥ずかしかったからだ。

 ジョセフはセシルという女性が好きだった。彼女は背が高く華奢で品性があった。とはいえ、身長百七十センチで大柄のジョセフよりも背は五センチほど低い。

 ジョセフがセシルに惹かれた理由は、先月席替えがあって、三十センチ離れた隣の席に彼女が座っていたのだが、ジョセフが消しゴムを落としたり、国語の先生に回答を求められて困惑してると、合いの手を差し伸べてくれたり、さりげない気配りから彼はセシルに惹かれた。

 セシルは女性として容姿端麗であり、以前から男子生徒らは注目を浴びていたのだが、その時のジョセフは異性よりも今日の弁当は何かなと食欲の方に意識を向けていた。

 それの感情を動かした初恋の女性であった。

 今月席替えをしたので、彼女とは少し離れてしまったけど、左斜め二席前の彼女をどうしても目で追ってしまう。

 国語の授業で、セシルは立ち上がって音読をしていた。一つもつっかえずに、スラスラと三行ほど読み終えると、先生は次の後ろの生徒の名前を呼び立ち上がらせた。それと同時にセシルは席に着くのだが、ジョセフの視線に気づいたのか、右斜め後ろを振り返った。

 目が合ったジョセフは、慌てて自分が持っていた教科書に目を移し、国語の文章を辿っていった。


 休み時間、ジョセフは三階の男子トイレから出ると、そこには友達のジェームズが、手にポケットに入れながら話しかけてきた。

「なあ、ジョセフ。あのマンガ読んだ?」

「あのマンガって?」

「ほら、先月貸したマンガだよ。今一番学校中で人気なんだ」

 ジェームズから貸してもらったマンガ三巻は、その日のうちに読んだ。ジョセフもそのマンガは借りる前から知っていた。もうすぐアニメ化になる予定でもある。

「読んだよ。やっぱり、ジェームズが言ってた通り、一気に読んじゃった」

「主人公が、色んな能力を持っていて、悪い人間を倒していくところが面白いだろう?」

「ああ、三巻目なんて、フルボッコだからな」

 ジョセフは白い歯を見せて笑った。

 ジェームズとは一緒のクラス唯一の友達だ。中学一年生の時に席順が前後だったので、そこで話をしたら、意気投合し、仲良くなった。

 お互い、家に遊びに行く友達だが、気さくなジェームズは友達が多く、どちらかというと内気で人見知りなジョセフにとっては羨ましい限りだ。

 二人は談笑しながら、生徒たちがたくさんいる廊下に溶け込むように歩いていたのだが、同じように、前方から三人で話をしている女子にジョセフは気が付いた。

 そこには長髪で茶色を帯びたセシルがいた。彼女は後の二人に向かって楽しそうに話をしている。

 ジョセフの目線に気が付いたジェームズは言った。

「彼女は男子から人気があるぜ。俺もその一人なんだ」

「へえ、そうなんだ」

 ジョセフは何となく心が痛んだ。このジェームズと恋のライバルになる。複雑な心境だ。

「まあ、いろんな男子から遊びに誘われてるらしいぜ」

「ふーん、それで?」

 ジョセフは出来るだけ興味が無さそうに、ジェームズに視線を向けずに歩きながら素っ気なく言った。

「まあ、彼女はピアノの稽古をやってるらしくて、それが忙しくてたまに休んでるらしいぜ。でも、帰り際に女子と一緒に遊んだりしてるけどな」

「まあ、そんなもんじゃない」

 ジェームズは不貞腐れたように、ジョセフを見た。

「お前は女子に興味が無いのかよ」

「まあ、別に興味が無いわけじゃないけど……」

「セシルはいいぞ。まだ、男たちには隙を与えてないんだからな」

 そう、ジェームズはジョゼフの肩を叩いた。

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