第2話 ジョセフという少年2
「ちょっと、ジョセフ。ご飯こぼしてるじゃない」
マムが腹に指を差して、ジョセフは目線を下にやった。制服にご飯ひとかけら落ちている。
「あ、ごめん」
ジョセフは謝罪の言葉を言ったが、表情からは悪びれる様子はなく、それを手に取り、口に入れた。
「まあ、汚い子ね。テレビ見ながら食べるからよ」
木材の丸い食卓があり、二人で向かい合わせになって朝飯を食べていた。食卓にはサラダ、みそ汁、目玉焼き、それから茶碗には山盛りの白米をジョセフは一口食べていた。
いつも二人で七時半ごろに朝食をとっている。今日も時刻は七時半なので、変わらぬルーティンを過ごしていた。
ジョセフはテレビを観ていた。朝のニュースが終わって、ロケ番組でお笑い芸人が地方の美味しい熱々のカキを頬張って感想を述べている。
マムは言いたいことがあったのだが、食事中だったので、ジョセフと同じようにテレビを観ながら食べていた。
ジョセフは食べるのが早い。これだけの料理が並べられているのに、十分もすればあっという間に平らげる。小学生から食べるのが早かったが、成長期だからなのか、食べ物は出された分だけ残さず食べる。
ただ、食べ方はキレイな方ではない。
がっつくような食べ方だし、咀嚼も少なく、喉に流し込む。
その為、端でつかんだ食べ物もポロッと落ちるし、醤油なども良くこぼす。
すべて食べ終わったジョセフを見てマムは言った。
「あんまり汚い食べ方してたら、サーベルの家みたいに、ゴミ屋敷になっちゃうわよ」
“サーベル”という言葉に、ジョセフはご立腹な表情でマムを見た。
「サーベルみたいにはならないよ。だって、もう十年以上前から、あんな感じなんでしょ」
「私たちが引越ししたくらいから、ゴミ屋敷だったからね。サーベルはゴミ屋敷がお気に入りなのかもしれないけど、臭いし、前通るだけで気分が悪くなるわ」
「それって、お母さんだけじゃない?」
「そうじゃないわ。彼女の隣の家もさんざん苦情言った挙句、聞いてもらえなくて、結局出て行って今は空き家じゃない。あの家にはきっとネズミもたくさんいるわよ。ジョセフだってネズミが出るような汚い部屋にはなりたくないでしょ」
「ネズミ?」
「そう、ネズミ」
そう言って、マムは唇を尖らせて、チュウチュウと、言ってみせた。
「ネズミくらいどうってことないよ。寧ろ可愛いもんじゃない。小っちゃくて」
「じゃあ、ゴキブリは?」
マムは勝ち誇ったように腕組みをした。
ジョセフが、虫が大の苦手なのを知っているのだ。
「ゴキブリが家にいるのは嫌だけど……」
「それなら、ジョセフもゴキブリが出ないようにキレイに掃除しないといけないわね」
「はい」
と、ジョセフはマム見ながら、湯呑に入っているお茶を啜った。彼女はニンマリと口角を上げている。
こんな話は一カ月に一回は言われる。そして、ジョセフはその日に、五分くらい部屋の片づけをして、飽きて終わるのだ。
毎回同じことだ。マムはキレイ好きほどではないが、いつも家の中は掃除している。
ジョセフが好き勝手に汚していくので、苛立って口出しするのだろう。
しかし、優しいマムは中々ジョセフにそのことは、あまり注意できない。本当は毎日のように厳しく言いたいのだが、一人息子の前、どうしても切り出すのには勇気がいる。
「そう言えば、学校は順調なの?」
マムは話を変えた。
「うん、順調だよ。友達もいるし……」
ジョセフは薬缶を持って、湯呑にお茶を注いでごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
「好きな子でもできた?」
そう言われて、ジョセフは思わず器官に入って、慌てて湯呑を食卓の上に置いて、思い切りむせた。
「……い、いないよ。男友達と話をするのが楽しいんだ」
「そう?」
「そうだよ」
ジョセフはマムの顔を見る。彼女は感づくこともなく、ドレッシングが掛かってあるサラダを口に運ぶ。
ジョセフは胸を撫でおろしながら、お茶を全て飲み干した。
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