そしてはじまりへ…

 どれくらい時間が経ったのだろう。何年、何十年、何千年、いや何億年…。

 ミノリとナオキを乗せたカプセルは宇宙空間を漂っている。

 今は大きな茶色い惑星へと一直線に向かっているが、ふいに赤いランプが点灯し、プログラムが働き出した。

 カプセルはスピードを上げながら、なおも茶色い惑星へと向かっているが、ごくわずかにエンジンをふかして軌道をずらすと、茶色い惑星の重力を利用して、その対角の方向にある、惑星系の中心の恒星へと進路を変えた。これは、プログラムのミスではなく、カプセルが恒星にごく近い場所にある惑星に大量の水があることを検知し、茶色い惑星よりも計画に適した場所であると判断した結果だった。


 恒星に近づくにつれ、白い点でしかなかった惑星が丸になり、うっすらと青い球になり、その姿がはっきりと見えてきた。

 表面のほとんどが水に覆われ、恒星の光を青く反射する、濃い瑠璃色の惑星だった。

 カプセルはその惑星の重力に導かれ、スピードを上げながらぐんぐんと吸い寄せられていった。

 想定外に大気の層は厚く、カプセルは摩擦熱で火の玉となって落ちていく。

 カプセルの外側を覆っていた花びら形の殻は熱と振動でひとつずつはがれ落ち、はらはらと舞った。

 この摩擦によってカプセルの落下スピードは落ち、恒星の光をギラリと反射させながら徐々に角度を変えていった。

 そして緩い角度を保ちながら水面をかすめるように飛び、長い距離を進んだあと、ようやくのことで砂の上へと不時着した。

 外側を覆う殻をすべて失ったカプセルの一部は熱で溶けかかっていたが、幸いなことに燃え尽きることはなかった。

 熱と衝撃のため、本来下から開くはずの後部のハッチは開かなかったが、その代わり花が開くように天頂から全体がばっくりと割れ、冬眠装置があらわになった。

 やがて、その中からミノリ、続けてナオキが出てきた。

 ふたりの目の前には広大な水たまりが広がっていた。


 その惑星は水だけではなく、緑の植物にも覆われていた。

 ふたりの背後にある丘の上には巨大な樹がそびえ立ち、その脇には蔦にびっしりと覆われた白い建物の残骸があった。

 壁や屋根などはほとんどが崩れ落ち、緑と同化しているが、墓碑のように残ったひとつの柱にはステンドグラスがはめ込まれていた。

 そこには草花の模様が描かれ、恒星の光で西日を透かして浮かび上がっていた。

 ステンドグラスを通った光はきらきらと輝き、地面を虹色に照らしていた。


 おわり


〈ペルセウス座流星群の日に〉

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希望の地〈改〉 蓮見庸 @hasumiyoh

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