第34話 抱えていたもの

 翔は次第に落ち着きを取り戻し、桜と缶コーヒーを飲みながら待った。


 一五分経って、春と燈子、真宙が来た。

「お待たせ。友達と話してたら時間かかっちゃった。兄ちゃんと桜は何してたの?」

 春が何気なく聞いてきた。

 何を答えていいのか。すぐに出てこなかった。


「ゼノのことについて話してたの。今日の授業で、ゼノは宇宙から来たウイルスで、永久凍土から出てきた説があるって。私、よく分からなくて翔くんに聞いてたの」

 桜は、落ち着いた態度で話した。

 全くその話はしていないが、本当にその話をしたように思えてきた。

「そうなんだ。僕の授業でもやったよ。確かに、よく分からなかったなー」

 春は、難しいことは考えたくないというかのように目を逸らした。


「春くんの難しいから考えないっていうのやめた方がいいと思うわ。分からないというところが出てきて、ずっと分からないままだったら前は進めないわよ」

 燈子は、真剣な目をして春に言った。

「そうだね。僕も向き合わないとだね」

 春は、何か考えた表情をした。

「そうそう。偉いわ、春くん」

「燈子さんに言われると照れるな……僕、タイムマシンに乗るための勉強やトレーニングが辛くて、でもそれを難なくできる兄ちゃんには敵わないなって、兄ちゃんたちがやってくれるだろうって思って逃げてた。だから、僕、頑張る」

 春は、照れて笑ったかと思いきや、急に真剣な表情をして話した。


「春……聞いてたのか」

「うん……僕がタイムマシンに乗ることを諦めたから兄ちゃんに負担がかかってたんだね。兄ちゃんが頑張ってるのに、友達と遊んだらしてごめん。ごめんね、兄ちゃん」

 春はシクシクと涙を流した。

「春は悪いこと何もしてない。友達と遊ぶことは普通のことだ。俺は春が嫌々ながらやってるのを見る方が辛い。だから、春には笑っていてほしいんだ」

 ゼノがなければ、今頃、俺たちは友達と遊園地へ行ったり、ゲームセンターへ行ったりしていたのだろう。だから、友達と遊びたいと思うのは普通のことであると思った。

 翔は、泣いてる春の両手を優しく握って、春の目を見て笑った。

 春は静かに涙を流し、春の手は震えていた。


「そうと決まれば、私たちはタイムマシンに乗るために頑張りましょう」

 燈子は輝いた目をして、翔と春、桜、真宙の目を見て言った。

「そうだね。まずは、次のテストに向けて頑張ろう。みんな、苦手なところがあったら一緒に確認しよう」

 真宙は、落ち着いた声で言った。


「そうだよ! みんなで力を合わせて頑張ろう! みんなとなら、なんでも出来る気がする」

 桜は、明るい笑顔で言った。

「そうだな。みんなと力を合わせたらできる気がしてきた。今からテストに向けて勉強だ!!」

 翔は、大きな声で笑った。本当にみんなとならなんでも出来るそんな気がしてきた。


「僕もそう思う」

 春は笑って言った。春の手は震えが止まり、翔の手を優しく握り返した。

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