第31話 早乙女先生

 翔の機嫌が悪いまま、六時間目の授業が終わり放課後になった。

「翔くん、今日、秘密基地に行く?」

 桜は、優しい声で翔に声を掛けた。

「あとで行く」

「分かった。じゃあ、先に待ってるね」

 桜は、駆け足で秘密基地へと向かった。


 秘密基地とは、五年前に桜が六道山で見つけた小屋のことだ。最初に見に行った時は、汚かったが翔と春、桜、燈子、真宙で綺麗に掃除をして、荷物を運んだりしてテーブルや椅子、ソファがある立派な秘密基地になっている。案外、落ち着ける場所で結構気に入っている。


 翔は、先程の自分の行動を振り返った。自分の誕生日に父親が亡くなっているため、自分の誕生日を迎えることで父親、母親を救える時間はもう一年もないのだと思うと、焦りや不安に襲われていた。それで、授業中に早乙女先生に八つ当たりをしてしまった。

「あとで、早乙女先生に謝らないとな」

 翔は頬杖をついて、教室の窓から雲一つない青く綺麗な空を眺めながら呟いた。


 翔は、自分の気持ちが落ち着いてから、職員室へ行った。

「先ほどは失礼な態度をとって申し訳ございません」

 頭を深く下げて早乙女先生に謝った。

「俺も感情的になって悪かった」

 相変わらず、無表情な早乙女先生の心は読めない。

「……七瀬も、早く助けたい誰かがいるのか?」

早乙女先生は、少し言いづらそうに聞いた。

「えっ……俺は、父さんと母さんを救いたいです。父さんは車に轢かれて亡くなりました。母さんは父さんの死をきっかけに薬の大量摂取で亡くなりました」

 今まで早乙女先生が生徒に授業以外の内容を聞くことがなかったため、驚いて一瞬言葉が出てこなかった。初めて、早乙女先生が真剣な表情をしていたので真剣に答えなければと思い、答えた。このことを話すのは、この町に来て初めてのことだ。

「……辛かったな。答えてくれてありがとう」

 少し沈黙した後、早乙女先生はいつもより優しい声で言った。

「いえ、早乙女先生にも助けたい誰かがいるんですか?」

「ああ、友人を助けたくてな」

「どんな友人だったんですか?」

「笑顔が眩しくて、どんな困難にでも冷静かつ迅速に動けて、前へと進んでいくような人だった」

 早乙女先生は、懐かしそうな、嬉しそうな、そして悲しそうな顔をして話した。

「素敵な友人がいたんですね」

 翔は早乙女先生にも、何か抱えているものがあるのだと思った。

「友人の話は誰にもしたことがないが、七瀬と同じ苗字だから七瀬に話せたのかもしれないな」

「そうなんですね。確かに、七瀬って苗字はこの町に俺と春しかいませんからね。任せてください! 俺、両親も早乙女先生も助けます!」

「ああ、頼んだぞ」

「はい!」

 翔は、自信満々にグットポーズをした。

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