第25話 お昼のあたたかさ

 五分後に次々とクラスメイトたちが来て、その一五分後に真宙と桜が来た。

「桜、真宙、お疲れ」

 翔は泥だらけで桜と真宙に声を掛けた。

「翔くん、泥だらけでどうしたの!? それにケガをしているじゃない!」

 桜は、さっきまでヘトヘトになっていたことを忘れたのかのように急いで翔に駆け寄った。

「本当だ、血が出てる。気が抜けて転んだから気づかなかった」

 翔は笑って答えた。

「僕が手当てするよ。早乙女先生には伝えておくから保健室へ行こう」

 真宙は翔と一緒に保健室へ向かった。



 保健室に着くと、保健室の先生はいなかった。

「保健室の先生はいないのか?」

「この学校には、保健室の先生はいないって早乙女先生が言ってた。先にケガしているところだけ水で流すね」

 真宙は、ケガをしたところに水をかけて、血がひどく出ている所には手際よく包帯を巻いた。

「ありがとうな、真宙。疲れているのに悪いな」

「大丈夫だよ。さっき、自分で転んだと言っていたけど嘘だよね?」

「神崎が転ぶわけないだろう」

「何で神崎さんの名前がでるんだ」

 真宙から指摘されると翔は黙った。

 真宙は少し呆れた顔をして話し始めた。

「翔も神崎さんも嘘をつくのが下手だね」

「神崎が?」

「うん。さっき翔が嘘をついたとき、神崎さん、目を大きくして驚いていたからね」

「真宙って、よく周りを見ているんだな」

「周りをよく見ないと、気づいたら遅いってことがあるからね」

 真宙は少し悲しそうな顔をした後、クスっと笑った。

「もう大丈夫だよ。お昼の時間だ。着替えてから教室へ行こう」

 真宙は翔に手を伸ばした。

 翔はしっかりと真宙の手を掴んだ。

 翔と真宙は着替えた。シャワー室があったため、シャワーを浴びてから教室へ向かった。



 教室に着くと、桜と燈子が一緒に話をしていた。

 桜は、翔と真宙が戻ってきたことに気づくと慌てて駆け寄った。

「翔くん、大丈夫?」

 桜は、心配そうな目で見つめてきた。

「もう大丈夫! ありがとう」

 翔は、元気にグッドポーズをした。

「真宙くん、翔くんのこと見てくれてありがとう」

 桜は真宙にお礼を言った。

 真宙は、どういたしまして、とす桜に笑顔で返事をした。

「桜、真宙のこと、真宙くんって呼び方にしたのか」

 翔は、桜が真宙の呼び方を流川から真宙に変わっていることに気づき、いつの間に真宙と仲良くなったのか気になった。

「うん。お互い励まし合いながら走っていた時。呼び方は苗字よりも名前の方がいいってなったの」

 桜は真宙と目を合わせて楽しそうにしていた。

 翔は、何故か桜と真宙が仲良くしているのを見ると胸がざわついた。

「翔くん、神崎さんから聞いたよ! 神崎さんが転びそうになったのを翔くんが助けてくれたって」

「神崎」

 翔は神崎を見た。

「誤解されたままだと、私が嫌なの」

 燈子は翔の目を見て答えた。

「お昼ごはん、神崎さんとみんなの分買ってきたよ! みんなで食べよう!!」

 桜と燈子は、袋から二種類合わせて二〇個くらいのおにぎりとパンを出した。

「こんなにたくさん!? 買いすぎだぞ」

「だって、翔くんと真宙くんの好きなの分からなかったから」

 桜は下を向いて反省した。

「私は止めたのよ」

 燈子は少し困った表情をした。

「ありがとう。桜、真宙、神崎。それじゃあ、食べようか」

 翔は、真宙と桜と燈子の優しさが嬉しくて笑った。

「私は一人で食べるから」

 燈子はおにぎりとパンを一つずつ取り、その場を去ろうとした。

「一緒に食べようぜ」

 翔はとっさに燈子の腕をつかんだ。

「さっきはありがとう。助けてもらったお礼にご飯を買っただけ。だから私に構わないで」

 燈子は振り払った。


「私、神崎さんと仲良くなりたい!」

 桜は、燈子の手を両手を必死に掴み、まっすぐな目をして燈子を見つめ、今までよりも大きい声で言った。

「……………………何で私と仲良くなりたいの?」

「ただ神崎さんと仲良くなりたいって思ったの!」

「……………………分かった。一緒に食べるだけだから」

「うん! ありがとう!」

 桜は、今日一番嬉しそうに眩しい笑顔で燈子に手を差し伸べた。

 燈子は、嬉しそうだが少し困った顔をしていた。



 自分たちの机をくっつけてお昼ごはんを食べ始めた。

「いただきます」

 翔と桜は手を合わせて言った。

 それに続いて、真宙と燈子も手を合わせて言った。

「おいしい〜」

 桜は梅のおにぎりを頬張って食べた。

「桜、一口が大きすぎるから喉に詰まるぞ」

「お腹空いてて、思わず勢いよく食べちゃった」

 桜は、翔を見て嬉しそうに笑った。


 食べ終わると、桜は何か思い出したのか燈子を見た。

「そうだ。神崎さんのこと、燈子ちゃんって呼んでもいいかな?」

「別にいいけど」

 燈子はなんとも思っていないように振る舞っているが、翔には嬉しそうな表情をしているよう見えた。

「よかった。私は桜って呼んでね」

 桜は、安心したような、ホッとした表情を浮かべた。


「俺も燈子って呼んでもいいか」

「嫌よ」

「分かった。また聞く」

「しつこい」

 燈子は冷たく振る舞ったが、口角が少し上がっていた。

 翔と燈子のやりとりは、最初の時よりも和やかになっていた。


「そうだ。連絡先を交換しよう。確か、画面に連絡先のアイコンがあったはず……あった。ここから自分のアドレスを作るのか」

 翔は真剣に自分のアドレスを考えた。

「そうだね。交換しよう! えっと…………これかな。私のアドレス何にしようかな」

 桜も真剣そうに自分のアドレスを考えた。


「僕も作っていないから作らないと」

 真宙は少し考えると、翔と桜よりも早く作成した。


「作れたわ。送信できるように操作したから私の画面に触れてみて」

 燈子は自分のアドレスを画面に表示した。


「分かった。手で触れるだけでいいんだな」

 翔は、躊躇いもなく燈子が表示した画面に触れた。

「わっ! 俺の画面に燈子のアドレスが表示された。追加って表示を押したら登録完了ってことか。すごく簡単だな」

 翔は、連絡先交換が新しく便利になったことに感銘を受けた。

「楽しそう! 私もやりたい!!」

 桜は、まるで幼い子どもがおもちゃを触るかのように画面に触れた。

「わっ! 私の画面にも燈子ちゃんの連絡先が表示されたよ! 燈子ちゃん、私の連絡先も登録して!」

 桜は、アドレスを送信画面にして嬉しそうな表情をして燈子の顔をみた。


「よかった。登録するわね」

 燈子は、嬉しそうな表情をして画面に優しく触れた。

「どう? 私の連絡先追加できた?」

「追加できたわ。本当にとても便利な世の中になったわね」

 燈子の目は、キラキラと輝いていた。

 四人ともお互いに連絡先を交換し終え、お昼ごはんを食べ終え、時間ギリギリまで四人でどこから来たのか、好きな食べ物は何かなどたわいのない話をした。

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