第22話 二時間目
早乙女先生が来て、二時間目の授業が始まった。
「起立、気をつけ、礼。では、AI についての説明をする。AI とはArtificial Intelligence の略で人工知能であり、人間が行う知能の高い技術や判断をコンピュータに行わせる技術のことをいう。AI には、自律性と適応性という二つの特徴がある。自律性とは、自分で考え、自分でより良い結果を出せることである。適応性とは、経験から学ぶことで状況や環境に応じて性質を変えていくことである。つまり、AI は経験から自分で考えて行動することができる」
早乙女先生は、AI について詳しく説明をした。
「それって、AI が勝手に行動してしまうということですよね。それが僕たちの身体に埋め込まれていて本当に大丈夫なんですか?」
真宙は、落ち着いた態度で話しているものの表情が硬かった。
「……AI は決して人間にとって良い判断はできない。何故ならAI には感情がないからだ。感情があれば、判断が揺らぐ。感情がある人間からしたら不正解であり、感情がないAI からしたら正解である。つまり、AIも人間もみんな自分が正しいと思っている。だから、衝突が生まれる。そのため、常に人間がAI を管理しなければいけない」
早乙女先生は少し考えてから話した。
「そして、その管理をしているのがゲネシスですよね」
「そうだ」
「では、ゲネシスで働いている人は正しい判断ができるのですか?」
「その時は、君たちがゲネシスで働けばいい」
早乙女先生は動じることなく答えた。
真宙は、驚いた顔で早乙女先生を見て黙り込んだ。
「ゲネシスで働くことができるのですか?」
燈子は、静かになった空気の中にも動じることなく堂々と聞いた。
「工藤科学者からは働くことができると聞いている。ここで働きたいという意欲と技術があれば、ゲネシスに認めてもらえるかもしれない」
早乙女先生は、クラスメイトたちを試しているかのように笑った。
「ありがとうございます」
燈子は、働くことができると知ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて早乙女先生を見た。
その後は、AIの誕生、AIの危険性、利便性、現在AIでどこまで出来るのかという授業の内容であった。
これで二時間目の授業を終了をする。
一〇分間休憩で、クラスメイトたちの雰囲気が一気に明るくなった。
「小学生がする勉強じゃなさすぎて、私たちの存在ってものすごく特別なんじゃないかって思うようになってきたわ」
「分かる! 俺たちこれからどんな授業を受けるのか楽しみになってきた!!」
クラスメイトたちが楽しそうに話していた。
「でも、俺らよりも神崎と真宙の方が優秀なんだよな」
クラスメイトたちの会話を少し離れたところから聞いていた翔は、燈子と真宙の才能には追い付かないと思い、落ち込んだ。
「なあ、真宙ってなんで頭がいいんだ? 勉強だけでなく、考え方も大人で、俺も真宙みたいに頭が良くなりたい」
翔は、前に座っている真宙に話しかけた。
「僕は、嫌でも勉強をしなくてはいけない運命だったから、嫌でも頭が良くなるしかなかったんだ。それに、僕は全然大人ではないさ、夢中になると感情的になってしまうし、一時間目の翔の発想力は僕にはなかったものだから、翔は何かを変えてくれそうな気がするんだ。だから、翔は自分の力を信じるべきだよ」
真宙は、翔のことを期待した目で、少し嬉しそうな顔をして話した。
「真宙からそう言われると嬉しいな。そういえば、何時に学校に着いたんだ?」
「朝七時に学校に着いたよ」
「えっ!? なんでそんなに早いんだ!?」
「早めに学校に着いて、化学室やゲネシスを見学してたんだ」
「そんなことができるのか。真宙は偉いな」
「早く過去に行って助けたい人がいるから」
真宙はまっすぐな真剣な瞳で翔を見た。
翔は、真宙の凄く真剣な気持ちに自分ももっと頑張らなければいけないと思った。
「そういえば、昨日、帆士さんのおばあちゃんに名前を付けてもらったって言ってたけど、どんな願いを込めて名前を付けたんだろうね」
「願い? そういえば、聞いたことなかったな」
「名前には必ず意味があるんだよ。名前って、こういう人に育ってほしいって願いだったり、その願いに向けての課題になっていたりするんだ。また、生きていくうちに、自分から名前の意味が分かるっていうこともあるみたいなんだ。だから、帆士さんの名前にもきっと意味があるはずだよ」
「真宙くんも?」
「うん。母が突然、真宙って名前にしなくちゃって言って決めたみたいだから何か意味があると思っているよ」
「そうなんだ。翔くんは、自分の名前の由来は知ってる?」
桜が、翔に顔を向けた。
「俺は聞いたことないな。父さんと母さん二人で決めたっていうのは聞いているけど」
「そうなんだ。神崎さんは自分の名前の由来は知ってる?」
桜は、何のためらいもなく燈子に話しかけた。
「知らない」
燈子は、またも振り返らずにじっと画面を操作しながら答えた。
「そっか。じゃあ、私たち同じだね!! 私たち、自分の名前の意味が分かるといいね」
桜は、四人全員が名前の意味を知らないということを知ると嬉しそうに微笑んでいた。
燈子は、振り返らずに無言のまま画面を操作していた。
「神崎は何時に学校に着いたんだ?」
翔は燈子にも聞いてみた。
「何でそこまで聞かれないといけないの? 関係ないでしょ」
燈子は、態度を変えずに画面を操作したまま答えた。
「翔くんは神崎さんと流川くんの分の朝ごはんを作ってたんだよ」
桜は必死になって言った。
おそらく、翔と春のご飯の量が多いことに気づいていたのだと翔は思った。
「別に作ってなんて頼んでいないわ」
燈子は、冷たい声で言い、態度は変わらないままだった。
桜は、その後、何も言わなかったが何か考えているように見えた。
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