第21話 瞳の奥

 こうして、一時間目の授業が無事終了し一〇分間の休憩に入った。

「翔くん! すごいね。誰もそんな解き方思いつかなったよ」

 桜は、授業終了後すぐに翔に嬉しそうな顔をして話しかけた。

「そんなことないさ。あの時、桜が背中を押してくれなきゃ、解くことができなかった。ありがとう」

翔は、桜がいてよかったと思いながら感謝した。

「そんなことないよ。全部翔くんの力だよ」

 桜は、慌てて顔の前で手をパタパタと振って否定した。 「本当に桜がいてくれてよかった。なあ、燈子、やっぱり友達は大事だぜ」

 翔は、桜から視線を変えて、斜め前に座っている燈子に後ろから視線を送った。

「私には必要ないわ。あなたには友達が必要なのかもしれないけれど、私は自分の力だけで充分。あと、気安く名前を呼ばないで」

 燈子は、翔の方に振り返らずにまっすぐ黒板を見つめながら、休憩時間が終わるのを待った。

「悪かった。えっと、神崎は自分の力だけであの難しい問題を解けるなんてすごいな。何であんなに頭が良いんだ?」

 翔は、燈子の冷たい態度にめげずに話しかけた。

「勉強しただけ。それにあなたには関係のないことよ」

 燈子は素っ気なく答えた。

「そっか。あと、俺の名前は七瀬翔って言うんだ。よろしくな」

 翔は困った表情をせずに笑った。

「知ってるわ」

「じゃあ、あなたじゃなくて名前で呼んで」

「……七瀬くん、友達ごっこって言ったことは訂正するわ。けど、友達が必要だというのは人それぞれ違うと思うから、七瀬くんには必要だけど私には必要がないのよ」

 燈子は翔の目を見て言った。それは、決心が揺らぐことのないまっすぐで冷たく、瞳の奥がとても悲しそうであった。

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