第20話 一時間目
一時間目の授業が開始した。
「起立、気をつけ、礼。では、全員、画面を開け。今からデータを送信する」
早乙女先生はまたも日直を設けずに授業を始め、クラスメイトたちは利き手の親指、人差し指、中指を水平に出して、そのまま上に挙げて画面を開いた。
メッセージが送られてきた。開くと教科書が表示された。
「これは教科書だ。ノートは、画面を開くとあるからそれを使うとよい。伝えておくが、ノート提出や宿題とかの提出はしないから自分の使いたいように使え。テストは三か月後にあるから、常に勉強をしておくように」
早乙女先生は、無表情のまま授業に必要なことを説明した。
「では、この問題を解け。解けたら、俺のところに答えをメッセージで送ってこい。答えが分かっても言わないように。それでは始め!」
画面に問題が表示された。そこには、化学計算式がズラリと書かれていた。
見るからに小学生が解くものではなかった。
「これは無理だろ……」
翔は、弱音を吐いた。
「こんなの解けるわけないよ」
日下部がみんなに聞こえる声で言うと、周りも次々と弱音を吐いた。
「こんなのも分からないなんてね」
燈子は、横目で翔を見て薄笑いを浮かべ、スラスラと問題を解き始め解答を送信した。
「神崎燈子、正解」
早乙女先生は、少し口角を上げた。
「僕も解けました」
真宙も燈子が解いてから間もなく、解答を送信した。
「流川真宙、正解」
早乙女先生は、また少し口角を上げた。
翔は授業が始まる前は少し勉強ができればついていけると思っていたが、大人でも解けないような問題に直面し頭を抱えた。
「私は証明したわ。あなたは証明してくれるのかしら?」
燈子は、翔の方を見ずに前を向いたまま冷たい声で言い放った。
翔は、このまま解けなかったら桜と友達ということが否定されてしまうのではないかと思うと怖気が全身を襲った。
「諦めちゃだめだよ。どんな時でも絶対に可能性は残っているから」
桜が真剣な表情をして言った。
翔は、暗闇から光が射したような感覚になった。
「そうだ。まだ諦めちゃだめだ。早乙女先生がめクラスメイトたちにこのような問題を出してくるのには何か考えがあるはずだ」
翔は、頭を全回転させて考えた。
「そうか! こういうことか!!」
翔は画面をひたすら操作し始めた。
「あった! これだ!!」
翔は解答を送信した。
「七瀬翔、正解」
早乙女先生は、口角を上げるだけでなく、嬉しそうな期待している目で翔を見た。
「よっしゃー!!」
翔はこれまでない喜びを感じ、大きくガッツポーズをした。そして、ニヤッとした表情を浮かべて燈子の顔をみた。
「これだけで満足しないで」
燈子は翔を睨んだ。
「翔くん! すごい!!」
桜は、自分のことのように喜んだ。
「桜のおかげで解くことができた。ありがとう」
翔は桜にお礼を言った。
「私は、何もしてないよ」
「桜が背中を押してくれなかったら、俺はずっと解けなかった。本当にありがとう」
翔は、照れる桜に精一杯、感謝の気持ちを伝えた。
「帆士、話さず問題を解きなさい」
「はい、すみません」
早乙女先生は、普段よりも優しい声で注意した。
このとき、翔は早乙女先生は優しいところもあると思った。今朝、春に早乙女先生のことを悪く言ってしまったことに対して申し訳ない気持ちになった。
それから、二〇分経ったが、翔の後に解けた人はいなかった。
「終了。全員操作を止めろ」
全員が操作を止めて、早乙女先生の方を見た。
「解けたのは神崎燈子、流川真宙、七瀬翔の三名だ。まず神崎はどうやって解いた?」
「はい、私は公式に当てはめて計算しました」
燈子は、途中式なしで解いたことを説明した。
「そうか、流川はどうやって解いた?」
「はい、僕も神崎さんと同じ解き方です」
流川は、途中式をしっかりと書いてなぜそうなるのかを丁寧に答えた。
「なるほど、七瀬はどうやって解いた?」
「はい、俺はAIを使って答えを調べました」
翔は堂々と調べて解いたことを話した。
「これってカンニングじゃないの?」
クラスの男子佐野が言うとクラスメイトたちが驚き、動揺した。
「だって、AIを使ってはいけないとは言われていないし、こんなに便利なものがあるのに使わないのは勿体ないだろう?」
翔はニヤリと笑った。
「そうだ。むしろ、今回の問題はこの解き方で解くのが狙いだった」
早乙女先生は、いじわるそうな笑みを浮かべた。
「では、一番早くに解いた私は間違いだったのでしょうか」
燈子が、早乙女先生に文句を言いたそうに不満そうな顔をした。
「間違いではない。正直、神崎と流川の解き方は普通の小学生ではできない解き方だったため、とても驚いた。だが、何も知識がない七瀬は別の視点から考えて解くことができた。その発想こそが普通の小学生でも世界を救う可能性があるということだ」
早乙女先生は、先の未来を想像しているか楽しそうに話した。
「まるで、自分の力で解いた私たちは可能性がないみたいじゃないですか」
燈子は、冷たい声で呟いた。
「可能性はある。神崎と流川が自分の力で問題を解くことができるなんて、俺たち大人は誰も予想もできなかったはずだ。神崎と流川がAIを駆使することできれば、誰も予想することができない新たな可能性を作ることができるはずだ。。では、これにて授業を終了とする。起立! 礼」
早乙女先生は、落ち着いた声で燈子と真宙の顔を見て答え、授業を終了させた。
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