第19話 神崎燈子

 翔と春は、春と別れて三組の教室に入った。

 すでに、翔と桜以外のクラスメイトたちが来ていた。

「みんな来るの早いね」

「本当だ。みんな早乙女先生に怒られるのが怖いんじゃないか?」

 翔は、早乙女先生に怒られるのを想像したらぞっとした。桜も同じことを想像したのだろうか、青ざめた顔を浮かべていた。翔と桜は、お互いぞっとする顔を見て笑った。


「そんな甘い考えで、ここに来ていないわ」

 穏やかな空間を裂くように、翔の前の席に座っている燈子は、翔と桜の方を見ずに顔を前に向けたまま言った。

「いきなりなんだよ」

 翔は冷たい声で静かに怒りを向けた。

 燈子は、前を向き続きけながら話を始めた。

「真剣に来ている人ばかりよ。周りをよく見なさい」

 翔はクラスメイトたちの表情を見た。強い眼差しで教室の黒板を見つめ続けている者、ひたすらタイムマシンについて調べてる者、授業が始まるのを静かに待つ者、ほとんどのクラスメイトたちが授業に真剣に取り込もうとする気持ちが伝わった。

「あなたたちは友達ごっこをしに来ているの? 分かったなら、私の邪魔だけはしないで」

「俺たちも真剣に授業を受けに来ている。それに……友達ごっこじゃねえ! 神崎は友達がいないからそう思ってるだけだろ?」

 翔は、友達ごっこと馬鹿にされたことに声を上げて怒った。

「ふざけたこと言わないで!!」

 燈子も大きい声を出し、翔にガンを飛ばした。

「ふざけてなんかない。こんな時こそ友達が必要なんだろ!」

 翔は感情的になり、燈子に怒りをぶつけた。

「こんな時こそ一人で強くならないといけないの。そんなに言うんだったら、授業で結果を出しましょう」

「わかった。この授業を真剣に受けに来ていること、友達は大事だということを証明してやる!」

翔と燈子は、お互いの考えに答えを出すために勝負をすることとなった。


 ガラガラと、早乙女先生は勢いよくドアを開けて入ってきた。

「八時半だ、ホームルームを始める。起立、気をつけ、礼」

 早乙女先生は日直を設けずに自らホームルームを始めた。

「おはようございます」

 クラスメイトたちは慌てて号令に従った。

「欠席者はなし。今日の時間割は、一時間目化学、二時間目AI、三時間目IT、四時間目体育、五時間目医療、六時間目薬学だ。一時間目は八時五〇分からここで授業を行う。以上」

 早乙女先生の淡々としたホームルームは五分で終わった。

 待ち時間は翔と燈子がピリピリとした空気を放っていたため、クラスメイトたちは誰一人喋らなかった。

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