第12話 ちいさくてかわいい

「きゃっ」

 後ろから桜の悲鳴が聞こえた。

 俺と春は後ろを振り向いた。

 すると、桜の足元にしっぽを元気よく振った子犬の柴犬がいた。

「大丈夫か」

 見たところ大丈夫そうに見えたが、念のため確認した。

「うん。見ての通り大丈夫! ちょっとびっくりしただけ。可愛いね」

 桜は思わず声が出たのが恥ずかしかったのか、笑ってグッドポーズをした後、かがんで柴犬を撫でた。

 柴犬は桜に撫でられると、もっと元気よくしっぽを振った。

 周りをよく見ると、犬用の餌、ボールのおもちゃ、ゲージ等の犬が生活にするにあたって必要なものがあった。

「ここで誰かと一緒に住んでいたのか。学校は犬がいることを知っているのか。どのくらい放置されたんだろう。元気そうでよかった」

 犬が元気そうで安心した。


「兄ちゃん!! 首輪に名前が書いてあるけど漢字が分からなくて読めない!」

 春は、柴犬が付けている首輪の漢字を一生懸命に何と書かれているか読もうとしているが、その漢字は小学四年生で習う漢字であったため春には読めなかった。

「こまいかな? 兄ちゃんこれなんて読むの?」

 春は犬の名前がどんな名前なのか期待した目で兄の顔を見つめた。

「小梅(こうめ)って読むんだよ。可愛い名前だな。よろしくな」

 キラキラした目でこっちをみる春を見て答えて、優しく小梅の頭を撫でた。

 小梅は翔に撫でられて嬉しそうに飛び跳ねた。

「小梅、嬉しそうだね。よろしくね」

 春も小梅の頭を撫でた。

 小梅はもっと撫でられたいのか、その場を動かずにしっぽを振っていた。

「他の部屋も見に行こうか」

 念のため、杖を持ったまま部屋を出た。

 春は小梅を撫でるのをやめて翔の後を追った。

 桜は小梅を抱っこして翔と春の後を追った。

 一階は先程の部屋以外にトイレやお風呂、洗面所があった。どちらも綺麗で広かった。次は玄関近くの階段を上がった。

「こんなに広い部屋で過ごせるなんて僕たち贅沢だね」

 春は階段を上がりながら嬉しそうに言った。

「そうだな。他に誰かが住むなら普通だけどな」

 先に階段を上がり終えたところで立ち止まった。

 二階は五部屋に分かれており、それぞれの部屋に一から五のナンバープレートがついていた。

「兄ちゃん、どうしたの? ドアにナンバープレートあるね。なんだろう?」

 春も、階段を上がるとナンバープレートを見た。

 春に続いて、桜と小梅も上がってナンバープレートを見た。

「俺たち以外にも誰か住むみたいだぞ。ちゃんと住所に部屋番号が書いてある。俺の部屋番号は一番だけど春と桜は?」

住所を画面に表示して春と桜に見せた。

「本当だ。ちゃんと番号が書いてある。シェアハウスなんだね。私の部屋番号は三番だから、ここの部屋だね」

 桜は、三と書いてある部屋を指差した。

「僕の部屋番号は五番だ。ここだね!」

春は、五と書かれたナンバープレートの部屋を指差した。

「部屋の中も見てみようか。ここの部屋にも鍵がかかっているな」

 画面を表示して一番の部屋の鍵を開けて中に入った。

 部屋の中は、部屋の壁紙は白一色でテレビやベッド、机、椅子、エアコンといった生活に必要なものだけがあった。

「思ったより、シンプルだな」

「壁に写真や絵を飾りたいよね」

「そうだな。そういえば、俺たちって家族四人で写真を撮ったことがないな」

「そうだね。兄ちゃんとお母さんと写真を撮ったことはあるけど、お父さんと撮ったことがないな」

「だよな。お父さんと写真を撮りたいって言っても、お父さんは撮られるより撮る方が好きだって言って撮らなかったよな」

「うん。お父さんが生きていたら、いつか一緒に写真を撮ってくれたかな」

「きっと撮ってくれたと思う。写真を持ってこなかったから、お父さんとお母さんの顔が少しずつ思い出せなくなりそうだ」


「絶対にタイムマシンに乗って、みんなを助けようね」

 桜は、真剣な表情で言った。

「そうだな。なんか、しんみりさせて悪かったな。他の部屋も見にいこう」

 しんみりした空気を変えようと明るく話した。


 すると突然、ガチャっと、玄関のドアが開く音がした。

「誰かきた!?」

 春は驚き、翔の近くへ寄った。

 誰かが階段を上ってくる音が聞こえる。

 俺と春と桜は、誰が二階へ上がってくるのかを待った。

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