第10話 おうちに帰ろう

「今日はここで解散する。明日は、朝八時半から授業を開始する。それと、画面にある家のマークを押すと指定された場所が表示されるだろう。そこが今日から君たちの家だ。みんな気を付けて帰るように」

「えっ、パパとママもここにいるの?」

 日下部は心配そうな顔をして聞いた。

「指定されたところに家族はいない。大人たちは違うところに住むことになった。君が代高校の生徒たちは決められた場所で生活をしてもらう。家族に会いに行ってもいいが、家族と一緒に住んではいけない。そして、この町から決して出てはいけない。これは国からの命令だから守るように、以上」

 早乙女先生は、仕事が終わるとスタスタと歩いて山を下りて行った。

 日下部は、家族と暮らせないことが悲しいのか声を上げて泣いていた。


「家族がいるのに一緒にいられないって悲しいね」

 桜は、泣いている日下部を見つめながら悲しそうに呟いた。

「桜の家族は?」

「……おばあちゃんとお母さんと一緒に住んでたの。でもゼノに感染して亡くなったの。だから私は一人なの。翔くんは?」

「そうだったんだ。一人は寂しいよな。俺は、父さんは事故で亡くなって、母さんは父さんが亡くなったショックで自殺したから俺と春の二人だけ。だから、俺は春を守らなくちゃいけないんだ」

 自分のせいで父親と母親が亡くなり、春に寂しい思いをさせて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。春までいなくなってしまうのではないかと、不安な気持ちで過ごしていた。

「翔くんも春くんも辛いよね」

「……うん。だから、絶対にお父さんとお母さんを助けるんだ。もちろん、桜のお母さんとおばあちゃんもみんな助けるから」

 自分の気持ちと向き合うと悲しくなり、ゆっくりと頷いた。そして、悲しい気持ちに囚われないために気持ちを切り替えて前向きな言葉を桜に言った。

「ありがとう」

 桜は俺のことを涙目で見て微笑んだ。

 クラスメイトたちは、次第にゆっくりと山を下りて行った。

「そういえば、早乙女先生ってスーツなのによくあんなにスタスタと歩いていけるよね」

「確かにそうだな。あの先生、実はとんでもんなくすごい先生なんじゃないのか」

「明日の授業が恐ろしい…………」

 俺と桜は、お互いの顔を見て同時に同じことを言った。

「被ったね」

 桜が少し頬を赤くして目をそらした。

 俺は桜の照れた横顔を見て微笑んだ。

「一緒に下りよう。下りは登りよりも危険だから俺の手に掴まって」

 桜に手を伸ばした。

 夕陽の明かりに照らされた翔の笑顔はとても輝いていた。

「うん」

 桜は頬を赤くしたまま、小さい手で翔の手を掴んだ。


 山を下りると、春が画面を開いて翔が下りてくるのを待っていた。

「春!」

「兄ちゃん!」

 春が俺の声に気づき、満面の笑みで駆け寄った。

「ねえねえ、兄ちゃん! タイムマシンすごかったね!!」

「春もタイムマシンを見たのか」

「うん! 僕のクラスが一番最初にタイムマシンを紹介されたんだって」

「そうなんだ。本当に今日はすごいものを見たな。春は画面で何を見ているんだ?」

「うん。僕と兄ちゃんのおうち!!」

 春は嬉しそうに俺と春の家の場所を見せた。

「そういえば、自分の家がどこか見てなかったな。学校から二〇分くらいかかるのか、ちょっと遠いな。桜はもう自分の家がどこか見た?」

「私もまだ見てないや。えっと……ここかな」

「どれどれ」

 桜の画面をのぞき込むと、どうやら見たことある場所が出てきた。

「春! ここって俺たちの家じゃないか」

「本当だ! 僕と兄ちゃんのおうちだ!!」

「ということは、他にも誰かいるんじゃないか?」

「そうかも! みんなと仲良くなれたらいいな。桜……お姉ちゃんも一緒に帰ろう!」

 春は、言いづらそうに桜のことを呼んだ。


「私のことは桜って呼んでね。よろしくね」

「分かった! 僕のことは春って呼んでね」

「うん。春くん、翔くん一緒に帰ろう」

 桜は嬉しそうな表情をして春と手を繋いで家の方へと向かった。


 二人が楽しそうに歩く後ろ姿を見て、明日も楽しい日になれると感じた。

「待って! 俺も!!」

 春の隣を歩き、手を繋いだ。

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