第9話 ゲネシス

 早乙女先生にとっては普通なのだろう。早乙女先生は早歩きで学校の案内を始めた。

 クラスメイトたちは必死についていった。

「まずは四階の化学室。ここでは、医薬品づくりやAI人形に薬を投薬をすることができる教室だ」

 早乙女先生に案内された化学室は小学校にあるような化学室ではなく、実験台や数多くの薬、注射器などが置いてあり、まさに研究室そのものだった。

「凄い。まるで研究室みたいだね」

 桜は化学室を見ながら、隣にいる翔に囁いた。

「そうだな。これからどんなことを学んでいくんだろうな」

 化学室にあるAI人形や化学室に並んである薬、注射器などを見ながら言った。


「AI人形に薬を投薬するとはどういうことですか?」

 真宙が真剣な目をして質問をした。

「今までなら人間や動物に投薬していたが、人間の安全を守るためにゲネシスはAI人形という実験体を造った。投薬をすれば、どういう症状になるのか、子どもや高齢者に投薬しても人体に影響はないのかなどを答えてくれる優れものだ」

 早乙女先生は淡々と説明をした。

 その後も早乙女先生は、職員室や体育館、グラウンド、更衣室、トイレなどのどこの学校にもある場所と一組から五組までの教室を案内した。

 次の場所は、山の上にあると言い、早乙女先生とクラスメイトたちは外履きに履き替えて、山を登った。急な山であったため、翔と桜を含めたほとんどのクラスメイトたちは息が上がっていた。それでも早乙女先生の歩く速さは変わらなかった。


 二〇分ほど登った先に、真新しい大きな施設があった。外観はプラネタリウムのように球状で銀色に輝いていた。

「この山は六道山という。そして六道山の頂上にあるのは工藤科学者の研究室ゲネシスだ。みんなの体内に埋め込められているマイクロチップを開発した場所であり、タイムマシンがあるところだ」

 早乙女先生は疲れた表情を一切せずに息を切らさずに話した。

 建物の中に入ると、一〇名ほどの研究者がパソコンを操作していた。そして、目の前には人間が一人分入れるぐらいの大きな円柱型の機械があった。


「ここにいるのはゲネシスで働く研究者たちだ。そして、これがタイムマシン。君が代高校の誰かが乗ることになるだろう」

 工藤科学者が研究室の奥にある部屋から出てきた。

「タイムマシンって乗り物じゃないんですか?」

 翔が不思議に思い、質問をした。

「そうだね。物理的には乗り物とは言わないかもね。上を見てごらん」

 工藤博士は優しい声で答えた後、上を見上げた。

上を見ると、タイムマシンの上にはたくさんの茶色い石が積まれていた。

「あれは時間を操る石シャーマンストーン。これがタイムマシンの原動力なんだ。シャーマンストーンによって時空のエネルギーを身体に注ぐ。そうすることでエネルギー分の時空を操ることができる。光の速さに乗ることができる…………そういう意味で“乗る”ってことさ」

 工藤科学者はまるでこの質問がくることを想定していたかのように嬉しそうな顔をして説明した。

「土みたいな色の石にこんな力があるんだ」

俺は初めて見る光景にわくわくした。


「とても素敵」

 桜は頬に一滴の涙を流していた。涙を流すほど、桜の中ではタイムマシンは神秘的でとても感動しているようだった。


「ここでは、他にどんな研究をしているのですか?」

 燈子は白くて綺麗な手を挙げて質問をした。

「他には、AI、IT、プログラミング技術の向上と、タイムマシンに乗るために今と過去が繋がる時空の日の特定を研究している」

「今と過去が繋がる時空の日とはどういうことですか?」

「タイムマシンに乗るには、時空が今と過去が繋がる波動を見つけないといけないんだ。時空の流れは、その日によって違うから日々測定して見つけないといけないんだ」

「では、その期間が来たら誰がタイムマシンに乗るか分かるのですね」

「そうだな」

「分かりました。ありがとうございます」

 燈子は、興味津々に工藤科学者の説明を聞き、嬉しそうに微笑んでお礼を言った。


「質問があります。こんなにすごい施設を二年で作ったんですか?」

 ふと気になり、咄嗟に質問をした。

「ここは何十年も前からAI、IT、プログラミング、宇宙などについて研究している施設なんだ。一見、ここしか見る場所はないと思うけど、地下に降りると数多くの研究室があるんだ。私の研究室を案内する」

 工藤科学者は、地下へ降りるエレベーターへ案内した。

 エレベーターは六〇名まで乗れるようになっており、一度に全員エレベーター乗ることができた。地下六階まで行けるようになっており、工藤科学者は地下六階のボタンを押した。揺れもなく、静かに地下六階へ下がったのが翔はとても不気味に感じた。 クラスメイトたちも同じことを思ったのか誰も喋らなかった。そんなことを思っているとあっという間に地下六階に着いた。エレベーターを降りると、大きな長方形の機械がずらりと並んでいた。

「これは何ですか?」

 またまた気になり、工藤科学者に質問をした。

「これはスーパーコンピューターといって、パソコンの数十万倍の速度で計算処理を可能とする優秀なコンピューターのことだ。例えば、人間が一日以上かけて計算する問題をスーパーコンピューターは一秒で答えることができるんだ。スーパーコンピューターは、気候の変動予測や地震や水害などの災害予測したり、ウイルスを含めた生物学における高度な計算による新しい医学的知見の発見などで役立っている。もちろん、タイムマシンに乗るための時空の日を特定するのにもね」

「こんな凄いコンピューターがあるんですね」

 大きなコンピューターで人間が一日以上かかる計算をたったの一秒で計算してしまうということに感心するとともに、知らない間に凄いものがたくさんできていることを少し怖く思った。


 五分ほどまっすぐに進むと頑丈な扉があり、工藤科学者はピタリと立ち止まった。

「ここが私の研究室だ。ここで研究をしている。もし、何か聞きたいことがあれば、ここへ来るように。それでは、私が研究があるのでここで失礼する」

 工藤科学者は微笑み、お辞儀をして研究室へ入って行った。

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