第8話 宇燈逢籠《いぇひおうる》

 クラスメイトたちの自己紹介が終わり、早乙女先生が再び話を始めた。

「次は、ここの町での生活について説明する。ここの町の名前は“宇燈逢籠(いぇひおうる)”といい、これからはITとAIを生活に取り入れて暮らすことになる。買い物も、ドアの鍵を開けることも、この学校に入ることもすべてITとAI が必要になる。使い方は簡単だ。利き手の親指、人差し指、中指を水平に出して、そのまま上に挙げると目の前に画面が出る。こんな感じだ」

 早乙女先生は、説明した動きをした。すると、早乙女先生の目の前にプロジェクターのような画面が出てきた。

 クラスメイトたちは目玉が飛び出るくらいに驚いた。

 早乙女先生はそのまま説明を続けた。

「画面に表示されるメニューに従っていけば簡単に生活ができる。また、自分の好きなようにカスタマイズすることもできる」

 早乙女先生は簡単に説明しているがクラスメイトたちにとっては信じがたい内容だった。


 真っ先に早乙女先生が説明した通りに利き手である右手の親指、人差し指、中指を説明通りに動かしてみた。

「うわっ!」

 思わず声が出た。なんと、目の前に早乙女先生が表示したのと同じ画面が現れたのだ。

 それを見たクラスメイトたちは、次々と指示通りに指を動かし、画面を出しては驚き、目がキラキラと輝き出した。

「見て! これで電話もメールも送れるんだって!!」

「調べものもできるよ!」

 クラスメイトたちは画面を操作し始めては、発見したことを共有して楽しんだ。

「ここから買い物ができる! 残高六〇〇〇円? なんだろう?」

 桜は不思議そうに呟いた。

「それは、君たちの一日分の給料だ。君たちは、国からの命令で学校に通うことになるため、一時間授業を受けたら千円もらえることになる。今日は最初だから特別に先に振り込んである。残高はさっき教えた画面で確認することができる。それと、一万円札、五千円札、五〇〇円玉、一〇〇円玉といった紙幣と硬貨は使わなくなり、買い物は全て電子決済で行われる。したがって、君たちが今まで使っていた紙幣と硬貨はただの紙切れとコインでしかない」

 早乙女先生はとてもすごいことを淡々と、クラスメイトたちに理解できるように説明した。


「そういえば、なんで僕たちにそんなことができるのですか?」

 真宙が、真剣な顔をして質問した。

「それは、国民全員が受けたワクチンが関係している。あれは、ただのワクチンではなく、マイクロチップが搭載されたワクチンだ。国は一切説明しないで国民全員にワクチンを打たせたからな」

クラスメイトたちは驚き、ワクチンを打ったところを見つめた。

「ワクチンがマイクロチップ!? マイクロチップは集積回路…………電子部品ですよね。それがなぜワクチンになるのですか?」

 真宙は驚きながらも冷静に質問をした。

「マイクロチップにはAIが搭載されている。そのマイクロチップを作った研究所“ゲネシス”がゼノに対抗するワクチンをマイクロチップから作るようプログラムしたんだ」

「この時代はこんなにも医療が進んでいたんですね。ですが、国民に説明をしないで勝手にこんなことをしてしまってはいけないのではないでしょうか」

「それはそうだな。だが、それがなかったら君たちはここにはいないだろう」

 早乙女先生は、目線を下にして冷たい声で言い放った。

 その発言を聞いて、真宙を含むクラスメイトたちがこのようなことが実在するのだと言わんばかりに驚いた表情をして唾を飲んだ。


「そういえば、こんなに凄い技術があったのに何故使わなかったんですか?」

 疑問に思ったため質問をした。


「一〇年くらい前から研究をしていたそうだ。人体に影響はないか、正しく動作するのか等の実験して成功しないと使用できなかったそうだ」

「なるほど。俺たちはこんなにもすごいマイクロチップを作らなければいけないんだな」

 俺の言葉にクラスメイトたちが反応した。

 タイムマシンに乗るにはまずワクチンを作らなければいけない。つまり、子どもたちはマイクロチップを作らなければいけないのであった。



「こんなすごいの作れるわけないよ!」

 クラスメイトの日下部が嘆いた。

「それでも作れるようにしないといけない。たとえ無理だと思ってもやるしかないんだ」

 早乙女先生はクラスメイトたちにはっきりと言った。

 クラスメイトたちが静かになると、早乙女先生は話を続けた。

「次は学校の説明に入る。ここの学校の名前は“君が代高校”という。校歌は全員を知っている日本の国歌である“君が代”だ。それは、毎日歌うようにと指示が出ているから今から歌うぞ。全員立て」

 早乙女先生は、画面を表示して画面をタッチすると演奏が流れた。

 クラスメイトたちは国歌……校歌を歌った。


 歌い終わると、早乙女先生は席に座るよう指示をして、クラスメイトたちは座った。


「全員、しっかりと歌えていたな。ここまでで何か質問はあるか?」

「はい! この町の“宇燈逢籠”と“君が代高校”の名前ってどうやって付けたんですか? 俺たちは高校生じゃないのに高校って名前なのも気になります!」

 そのことが気になって、真っ先に手を挙げて聞いた。

「それはAIが付けたから理由は分からない」

「AIって喋るんですか?」

「ああ、喋るぞ。画面の右上にマイクのアイコンがあるだろ。それを押して話しかけると答えるぞ。こんな感じにな。宇燈逢籠と君が代高校の名前の由来はなんだ」

 早乙女先生は、画面を表示してマイクのアイコンを押して質問をした。


 すると、画面に文字が表示されるとともに、女性の声が画面からしてきた。

「はい。宇燈逢籠は、この街を守るために必要でしたので名付けました。君が代高校は君が代という言葉に深い意味があるので名付けました。また、以前この場所は高校であったため、そのまま高校にしました」

AIは、答えているような答えていないような内容で答えた。

「意味がわからないだろ。他に質問はあるか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 俺は、よく分からなかったがぺこりとお辞儀をした。

「場所の案内をする。二列に並べ」

 クラスメイトたちは急いで二列に並んだ。

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