第6話 希望

 タイムマシンがこの時代に作れるわけがない。希望なんてどこにもないと思っていた。


 そんなことを急に言われても動揺することなく、一人の少年が口を開いた。

「それはウイルスが広まる前の時代に行って、みんながワクチンを打てばいいということですか?」

 同い年くらいの少年が、落ち着いた態度で話した。


「そうだ。ただし、タイムマシンに乗るためにはいくつか条件がある。荷物はリュックの中に入る分だけしか持っていけないため、たくさんのワクチンを持っては過去へいけない。だから、君たちは過去へ行ってワクチンを作れるようにしないといけない。それと…………」

 工藤科学者はタイムマシンに乗ることにあたっての条件を話した。


 一つ目は、ワクチンを作れる技術があるほどの成績優秀者であること。

 二つ目は、タイムマシンに乗る際に規定の重量を超えてしまうとタイムマシンに影響が出るため、荷物はリュックに入るくらいのものであること。

 三つ目は、時間を光の速さで超えるため、それに耐えられる丈夫な身体であること。

四つ目は、大人になってしまうと乗れなくなってしまうため、丈夫な身体かつ身体が成長し過ぎていないこと。

 五つ目は、過去へ行けるのは一〇年前までである。そのため、あと八年以内に、二〇三二年までにタイムマシンに乗らないといけない。

 この五つの条件は俺ら子どもにとって厳しいものであった。

 けど、タイムマシンに乗って過去へ行けば父親と母親を救うことができると思うと、なんとしてでもタイムマシンに乗ると誓った。

「これから、君たちはタイムマシンに乗るために授業を受けてもらう。何か聞きたいことがあったら研究室まで来てくれ」

 工藤科学者は早歩きでグラウンドを後にした。


 その後、学校の先生と思われる人たちが来た。

「これからは私たちがここの学校の先生です。今からクラスを伝えるので、自分の教室に集まってください」

 先生が大きな紙を広げて説明した。

 クラス分けは次のようになっていた。小学生は、一年生から二年生は一組、三年生から四年生は二組、五年生から六年生は三組と二年ごとにクラスを分けられた。

 中学生・高校生は人数が少なかったため、中学生は一年生から三年生は四組、高校生は一年生から三年生は五組と分けられた。


「俺たちも教室へ行こう。桜は何年生なんだ?」

翔は春と桜に一緒に教室へ向かおうと声を掛けた。

「六年生だよ。手、繋いだままだったね。ありがとう」

 桜は落ち着きを取り戻すと、お礼を言って手を離した。

「よかった。俺も六年生! 春は四年生だから違うクラスになるけど、休みの時間になったら遊びに行くから大丈夫だ」

 春をチラッと見ると、黙っていた春の口が開いた。

「クラスは違うけど、一緒にタイムマシンに乗ってお父さんとお母さんを救おうね」

 真剣なまなざしで俺を見つめた。

「そうだな。頑張ろうな」

 春と桜の顔を見て真剣に応えた。

 春と桜は真剣な表情をしてうなずいた。


 春の教室は俺の教室の隣だった。

 近くでよかったと俺と春と桜は声を揃えて言った。俺と桜は、春が教室に入っていくのを見届けた後、自分のクラスである三組の教室に入った。教室に入ると、すでに四〇人くらいが席に着いていた。

 一番後ろの窓側の席が二つ空いていたため、教卓側から見て右に座り、桜は左に座った。

「よろしくね」

 桜はニコッと嬉しそうに笑った笑顔はとても眩しかった。約二年間、春以外の人と関わることがなかったからなのか、とてもドキドキした。

「よろしくな!」

 ドキドキする気持ちが何なのか分からないが、その気持ちがバレないように笑顔で返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る