第4話 ゼノ
翔と春は、母親が亡くなってすぐに児童養護施設に入居することが決まった。荷物は、母親から誕生日プレゼントでもらったプラネタリウムと父親が事故の時に持っていたバースデーカードを持って行った。ボロボロになっていた望遠鏡は見るのが辛くて置いていった。児童養護施設は職員が一〇名、入居者は幼児から高校生まで合わせて二〇名で、職員も入居者も優しく、家族のように温かい場所だった。
翔は、これからはここで幸せを築いていくのだと強く生きることを決意した。
しかし、その決意はすぐに崩された。
同年七月二四日、母親が亡くなった六日後に、世界中に原因不明のウイルスが発生した。
ウイルスの感染経路は不明で、感染力は強く、症状は熱、咳、血痰、呼吸困難を起こし、食欲が低下し、体重が減少していく特徴があった。そして、感染すると必ず死ぬという残酷な結末しか迎えないウイルスであった。
その恐ろしいウイルスの名前は、”ゼノ“と名付けられた。
”ゼノ“によって、生活はがらりと変化した。対面の授業、仕事、娯楽はオンラインで行うようになり、買い物もネットショップで済ますようになった。テレビ番組もリモート出演になり、人々は外出をする必要がなくなった。また、オンラインに対応できない会社は経営ができずに倒産した。解雇された人々に失業手当を国から出せないほどであったため、支給されるまで時間がかかった。生活ができない人々が増えた。生活ができない人々はデモ活動をするようになった。
そして、感染はどんどん拡大していき、七日後には翔と春の元までやってきた。
翔と春を除いた施設の入居者、職員全員が感染して亡くなった。
「やっとここの生活に慣れて、みんなと楽しく過ごせるようになったのに、何で俺と春だけ生き残ったんだよ! なんで俺と春だけがこんなに失わなくちゃいけないんだよ!!」
翔はこれ以上悲しいことは起きないと思っていた。だからこそ、こんなにも辛く酷い現実が起きたことに嘆いた。
「こんなの酷すぎるよ……うわあぁぁぁん」
春は翔よりも大きな声で泣き喚いた。その声は、静かな施設全体に響き渡った。
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