第2話 耳をすませば

 父親が亡くなって一週間が経った。翔と春は父親が亡くなったショックで外に出られなくなっていた。翔と春は仏壇に飾ってある父親の遺影写真を見るのが辛くて、仏壇のある和室に入れなくなっていた。

 母親は父親が亡くなってから泣かなくなった。翔と春とは違って毎朝仏壇の前で手を合わせている。そして、今は翔と春の心配をするようになり、旅行に誘うようになった。

「翔と春は、どこか行きたいところある?」

「ない」

 翔と春は抑揚のない声で答えた。

 翔はそっけない態度で朝ごはんを食べ終えると、すぐに二階の自分の部屋に戻った。

 春は黙り込んだまま、翔に続いて部屋に戻った。

 翔は、何でお母さんにもあんな冷たい態度をとってしまうのだろう、こんなことしたくないのに、この気持ちをどこにぶつけていいのか分からなくなっていた。苦しくもがいていると、静かな部屋にインターホンが鳴り響いた。

 翔と春は階段を途中まで下りて、誰が来たのか覗いた。


 母親がドアを開けると、引き締まった身体をした二人の男性がいた。

「朝から突然すみません。以前、前の職場で七瀬暁さんと一緒に仕事をしていた松岡と橘と申します。早く伺いたかったのですが、遅くなりすみません」

 松岡は深々とお辞儀をした。橘も松岡の動きに合わせて深々とお辞儀をした。


「来てくださってありがとうございます。天国にいる主人も喜ぶと思います。ぜひ、お茶でも飲んでください」

 母親は、笑顔で家の中へ案内した。

 翔は驚き、ただ茫然と立ち尽くした。

 母親は翔と春が覗いていることに気づき、翔と春を呼んで紹介した。

「息子の翔と春です」

「君たちが暁さんの息子さんか、暁さんはいつも幸せそうに奥さんと息子さんたちの話をしていましたよ」

 松岡は父親のことを優しい声で話した。橘は、翔と春を懐かしそうに泣きそうな目で見た。


 翔は、父親が前の職場の人に慕われていることを知って嬉しくなった。前の職場では父親はどんな仕事をしてきたのかさらに気になった。また、なぜ今の職場の人は来てくれないのか疑問に思った。


「翔と春は二階のお部屋で待っていてね」

 母親は笑って言っていたが、翔には辛そうに笑っているように感じた。

 翔は、一緒に話を聞きたかったが母親を困らせたくなかったため、春の手を繋いで二階へと向かった。


「兄ちゃん、お父さんってどんな仕事していたのかな」

 春は、椅子に座わると翔に聞いてきた。

「実は俺も気になっているんだ。今度お母さんに聞いてみよう」

「うん。そういえばお腹すいてきたなー」

「じゃあ、兄ちゃんがお菓子を取りに行ってくるよ」

「でも、二階で待っていてってお母さんに言われてるから行っちゃダメだよ」

「大丈夫! 取りに行くだけだから」

 翔はちょっとだけなら平気だと思い、母親と松岡と橘のいるリビングへ向かった。

 一階のリビングにはお菓子ボックスというお菓子がたくさん詰まっている箱がある。そこからお菓子を取るため、翔はドアを開けようとドアノブを握った。その時、母親の声がドア越しから聞こえた。


 それは耳を疑う話だった。

「…………暁は…………事故ではなく殺されたのですか?」

 母親の声は震えていた。

 聞き間違いだろうか。翔は少しだけドアを開けて耳を澄ませた。

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