053 赤は戦隊モノではセンターだって相場が決まってる

 三日月形の炎の刃が、赤い軌跡を残しながら一匹のアピスに迫る。

 完全な不意打ちであるそれを回避できるほどの能力はそのアピスにはなく、迫るその鋭利な炎に僅かに視線を向け、次の瞬間、その身体は燃えながら引き裂かれた。


 あぁーっ!!


 しかし、私はそれを視界に捉えつつも失敗したとさらに焦る。

 その視線の先には、打ち出された一発の毒玉。

 そう、間に合わなかったのだ。

 火刃ファイアブレードによる一撃は僅かに間に合わず、直撃する直前に、毒玉は撃ち出されてしまった。


 シャドウヴァルプスちゃん避けてぇー!!


 速さには自信があるとはいえ、さすがにこの距離では間に合わない。

 それは魔法も同じで、ここから即座に発動して毒玉を正確に撃ち落とせる自信は私にはなかった。

 だから、迫る毒玉と、それを見返すシャドウヴァルプスをただ見るしかなかったのだが……


 うぉぉ!避けたァ!?


 なんと、シャドウヴァルプスは自らに迫る毒玉を見るなり横に跳躍し、それを回避した。

 自分のステータスを基準に考えていたためか、私はどうにもシャドウヴァルプスのステータスではあれに対処できないと勝手に思い込んでいたようだ。


 そういえば、ステータスなんて見れなかった最初の頃でもアピスとはやり合ってたし、思えばその時はシャドウヴァルプスよりもずっとステータスは低かっただろう。

 それで複数と戦えてたのだから、まぁ、そりゃああれくらい生まれたばかりでも躱せるか、と私は考えを改めた。


 ステータスを見れば、突出した足の速さはヴァルプスという魔物共通のものだと分かる。だからこそ、私はさすが同種だぁ〜!と心の中で絶賛した。


 そして、そうやって一撃凌いでくれたおかげで、こちらも接近することが叶った。


 全て狙い通りにはいかなかったとはいえ、最初の火刃ファイアブレードで一匹仕留めることができて残りは三匹。

 こちらは魔力も残り少なく、そう無闇には使えないため肉弾戦メインで戦う必要があるが、それでも十分にやり合える範囲内だろう。


 走りつつ、残る三匹のステータスを鑑定する。

 アーミーアピスが二匹に、ヴァンガードアピスが一匹。どれもそうレベルは高くなく、ステータスも私に比べればそこまでといったところ。


 よぉしいける!!


 シャドウヴァルプスに追撃を仕掛けようとしていたヴァンガードアピスが、迫る私に気が付いてこちらを向く。

 それに連れるようにして、残り二匹もこちらを向く。

 どうやら火刃ファイアブレードによって気を逸らすことにも成功したらしい。


 だがしかし、迎撃しようとこちらを向く三匹を見ても私が足を止めることはなかった。

 不意打ちは勢いが大事だ。それこそこういう、狙撃でたった一人を仕留めたら終わりなどとは違う、敵全員の殲滅が目的の場合は特に。


 だからこそ、地上にいるシャドウヴァルプスへと追撃を仕掛けるために飛ぶ高度を下げていた三匹に向かって、私は勢いそのままに突っ込んでいく。


 そして、跳躍。

 アーミーアピスの一匹がこちらに向かっておしりの棘を突き出してくるが、これを前足で弾いて向きを逸らしつつ、私はその首根っこに牙を突き立てた。


 勢いそのままに地面へと墜落した私と一匹は、そのままもみくちゃになりつつすぐ後ろにあった壁に激突。

 とはいえ、不意打ちを受けて噛み付かれたアーミーアピスとは違い、こうなると予想しつつ突っ込んだ私はしっかり着地してほぼ無傷だ。

 せいぜいが、着地したタイミングでトゲが掠った程度。毒耐性もあって、このくらいなら傷にも入らない。

 ボロボロなのは、アーミーアピスのみ。


 さらにトドメとばかりに羽根をもぎ取ろうと噛み付いたところで、第六感に従って私は口を離しつつ跳躍した。

 直後、そこにトゲを突き出しながら突っ込んでくるアピスが二匹。


 シャドウヴァルプスはというと、毒玉を回避したまま距離をとって、その後はこちらの様子を伺うようにしてこちらを見ていた。

 アピスの方に注目しているため直接は見ていないが、気配察知にて様子を感じる限り、突然の状況に困惑しつつ、割り込んできた私に興味津々といったように感じる。

 さながら私は、危機に颯爽と現れたヒーローだろうか。


 あ、そう思うとなんかテンション上がってきた。

 よぉ〜し見ててシャドウヴァルプスちゃん!!悪は私がやっつけちゃうぜぇ〜!!


 再び飛び上がりつつ毒玉を発動する二匹のアピスを見つつ、格好付けるようにニヤリと笑う。

 同時に、走り出す。


 さすがに飛び上がられては、さしもの私とて攻撃が届かない。

 魔法が使えれば良かったのだが、残り少ない魔力をこれ以上減らしたくはない。

 ではどうすればいいのかと言えば、それは簡単だ。

 なんてことはない。天井まで続く足場が、すぐ横に聳えたっているのだから。


 私は僅かに助走をつけると、生い茂る草木や蔓草によってデコボコとしている壁を走り出す。

 とはいえほぼ勢いのままに走っているので、少しでも減速したり足を踏み外せばすぐ墜落だろう。

 まだ魔法が使えなかった頃は、こうやって空を飛ぶアピスに迫っては跳躍が足りずに墜落していた。

 だが、基礎敏捷力が四桁にも迫る今の私は、もう昔とは違う。


 とうっ!!


 走る勢いそのままに、私は全力で跳躍する。

 直前で二発の毒玉が飛んでくるが、まさか跳躍するとは思っていなかったのか、その狙いは大きく外れ、ビシャリと音を立てて壁の植物に降りかかった。


「─────!!!」


 声にならない悲鳴を上げ、体を捩って悲鳴をあげるアーミーアピス。

 その胴体に牙を突き付けた私は、そのまま地面へと落ちる勢いを利用して、アーミーアピスを叩き付けるようにして着地のクッション代わりにしてやる。

 途端、体の節々や口などの穴から体液を吹き出すアーミーアピス。

 さらにトドメとばかりに頭に牙を突き立て、そのままブチブチと胴体から引っこ抜いていく。


 その途中でヴァンガードアピスから追撃のように毒玉が飛んできたため回避したが、それでもあの一匹は確実に死んだだろう。

 鑑定で改めて見てみて、絶命したことを確認する。

 残るは二匹。うち一匹は、未だに墜落した場所でピクピクすることしかできていないので、実質的には今目の前を飛んでいるヴァンガードアピスのみだ。


 フッフッフッ。

 お前はどう調理してやろうかな?


 などと、大物っぽいことを考えてみたりしつつ、滞空して私を見下ろすヴァンガードアピスを睨みつけていたとき。


 不意に、ヴァンガードアピスが動いた。

 ふわりと、まるで勢いをつけるかのように僅かに浮かび上がる。

 すわっ攻撃か!?と思ったのも束の間。それは確かに勢い付けであったが、その目的は全く別のものだった。


 ヴァンガードアピスは、浮かび上がったのも束の間、そのまま私に背を向けると、元来た道である通路の出口に向かって勢いよく飛んでいってしまったのだ。

 つまりは、逃げたのである。


 えぇーっ!!ちょぉ〜い!

 私のメシ〜!!じゃなくて!なんで逃げるのぉ!?


 いやまぁ状況的には逃げても全くおかしくはないのだが、今までにアピスが逃げるなどということは一度もなかったので、私はその事に困惑していた。

 十匹以上の群れを魔法で蹴散らしても、最後の一匹になるまで逃げることはなかったのだ。

 それが今回のこれである。困惑するなという方が無理だろう。

 それに、魔力を回復できる貴重なメシがいなくなったのも、困惑した大きな理由だった。


 ………はぁ。

 まぁ、いいか。仕方ない。とりあえずは、シャドウヴァルプスちゃんを無事に守れたことを喜ぼう。


 とはいえ、もう今から追って仕留めにいくのも面倒だし、何よりもこの戦闘の元々の目的はシャドウヴァルプスちゃんを守ることにあった。

 深追いしている間に……なんてことになっては元も子もない。


 シャドウヴァルプスちゃんの方はと言うと、未だに困惑しているのかどうなのか、イマイチ私では分からないながらも、こちらを見つつ立ち止まっていた。

 振り向いてそちらを見ると、ビクリとでもしたように立ち上がるのが見える。


 う〜ん…魔力が全然回復してないけど……これ以上ここにいて他の魔物が来てもあれだし、この子も目覚めたし、もう移動するしかないかなぁ……。

 はぁ…とりあえずコイツらアーミーアピス食べるかぁ。


 シャドウヴァルプスを一度見て、そう判断する。

 自業自得の側面も強く、それゆえに仕方がないとは思いつつも、それだけに確実に魔力を回復できる手段を逃したのは痛い。

 そうして私は肩を落としつつ仕留めたアーミーアピスの死骸へと向かおうとした。


 ………のだが。


 視界の先、壁際。

 それまでピクリピクリと僅かながらも息のあったアーミーアピスの一匹。

 最初に仕留めようとして瀕死に追い込むに留まったソイツの動きが、完全に停止した、その瞬間。


『条件を満たしました。〈フレアヴァルプスLv.12〉が〈フレアヴァルプスLv.13〉になりました』


 突如頭の中に響いたその声に。

 ───否。その、これ以上ないほどの朗報に。


 私は飛び跳ねながら歓喜した。




─────────────────────

後書き。

 予約投稿に設定していたはずが、何故かされていませんでした。

 で、今日は休みということに甘えまくって爆睡に爆睡を重ね、もはや何度寝直したかも分からないほど寝まくっていた私がこれに気がついたのは、日が暮れる直前くらいでした。

 ならもういっそのこといつも通りの時間に投稿してしまえ、ということで今に至ります。

 後悔はしていません。

 寝るの気持ちよかったです。

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