052 ラッキーだったりそうでもなかったり
木陰から、元来た道を戻るように通路へと入っていくアピスの群れを見る。
先程のように、広間全体を見回るようにして探索するアピスの群れは他にもあったものの、私はそのどれもに見つからず何とかやり過ごすことができた。
そうしているうちに、ここにはもう他に何も無いと悟ったらしい。
潮が引くようにして、アピスの群れは元来た通路の出口へと入って戻り始めた。
……やっと満足したかぁ〜。
死骸集める時に広間見て回ったから、他にもなんにもないっての。
他にも魔物が来るかもと思ったけど、結局アイツらだけだったなぁ。ラッキーラッキー。
『条件を満たしました。スキル〈気配抑制Lv.6〉が〈気配抑制Lv.7〉になりました』
おぉっ!やった〜レベルアップ〜!
ホントにラッキー!
ここ最近隠れてばっかりだったし、気配抑制めっちゃ使ってたからそろそろレベルアップして欲しいなぁって思ってたんだよね〜。
……まぁ、できればもうちょっと早くレベルアップして欲しかったけど。
…アピスとの隠れんぼには勝ったし、結果オーライってことにしよう。
この隠れんぼで一番最悪の展開だったのは、死骸に釣られてやってきた魔物がアピスだけではなかった場合だった。
アピスの群れがここに来た時は、こういう風に隠れる他に選択肢がなかったとはいえ、こうして隠れたままやり過ごすことができたのは間違いなくアピスの群れ以外の魔物が来なかったからだろう。
もし他にも複数の魔物が来て、獲物を取り合うように戦い始めたら、それこそ隠れてなんていられないという話だ。
小規模な戦闘ならまだいいが、たった一つの死骸に複数種類の魔物が群がって乱闘しだしたり、めちゃめちゃ強いやつが来て圧だけで全員追っ払ったり、そういう場面はよく見てきた。
ちなみに私は追っ払われる側だ。
だから、こうやってアピスの群れしか来なかったのは本当に幸運と言えよう。
いや、ホントに良かった。魔物が乱闘してる間に一旦この場を離れるくらいのことを前提に考えてたから、こうやってなんとか隠れてやり過ごせて良かった。
再び、バレないように慎重に木の影から顔を出す。
気配察知で感じ取れてはいるが、やはりそこは元人間の性というか、なんとなく目視で確認できないと不安が残るんだよな。
気配察知オンリーで周りの全てを感じ取ってると、こう、玄関の鍵を閉めたことを覚えてるけど、覚えてる上でもう一回確認したくなる的な、ムズムズとする不安感がある。
目視で改めて確認してみると、気配察知で感じていたとおりに最後の数匹がちょうど通路の出口に戻っていくところだった。
元々目算で二十匹くらいの群れだったが、他のヤツらは少し前にもう通路から出ていっていた。
アイツらだけ何故か今の今まで残っていたのだが、まぁ、最終確認兼
つまり、アイツらさえ帰ればもう一安心ということだ。
通路の出口へ向かって飛んでいくアピスの群れを見つつ、この後のことを考える。
とりあえず、即移動だな。うん。
こんなところにいつまでもいられん。
魔力は心許ないけど、このままここにいたらいつ他の魔物が寄ってくるか分かったもんじゃない。
移動しても魔物と遭遇する可能性はあるだろうけど、大量の死骸がある場所で休憩するよりはずっとマシだろう。
最初に、ここで休もうかどうか悩んでいたのが本当にバカらしい。さっさとシャドウヴァルプスちゃん連れて移動すれば良かった。
そんなシャドウヴァルプスちゃんはというと、あいにくと壁の中に埋まってるのでまだ目覚めてないのかどうなのかは分からない。
掘り返して目が覚めてたら引きずっていく必要も無いから、出来れば目覚めてて欲しいなぁ〜。
………あ、っていうか、目覚めたとして私って会話できるのかな…?
うわっ、できなかったらどうしよ。身体はキツネだけど頭は私だしな……キツネ語とか分かんないよ?
意思の疎通ができないのはキツイなぁ〜!念話とか、そんな感じのスキルってないのかな。
……あったとしてどうやって取得するんだ?それ。
『キーワード〈念話〉でジャンル〈スキル〉を検索────検索結果:1件
検索結果を表示しますか?』
ふぁっ!?
……けん、えっ??
なんて?検索??なに、なんの機能!?
……あっ、鑑定か??お前なのか!?
唐突に頭に響いた聞き馴染みのある声に、しかしその今までに聞いたことがない内容に混乱する。
驚いて、危うく木の影から顔を出すところだった。
アピスの群れの様子に注意しつつ、一旦木の影に戻ってから改めて今の声について考える。
鑑定によるものだと思ったが、思い当たる節が鑑定のスキル以外にないだけで、実際はもっと別のなにかである可能性もある。
いきなりのことに戸惑いつつも、とりあえず検索結果は表示してもらおうと私はその問いに頷こうとして。
そのとき、不意に視界の端に捉えた光景に、意識の全てが持っていかれた。
ぼこ、というような効果音がつきそうな勢いでもって、
飛び出したのは真っ黒な手。それは穴を広げるようにして、さらにもぞもぞと動いていく。
やがて出てくるのは、予想通りに黒い顔、そして身体。
あっ!……あぁーっ!!
そう、シャドウヴァルプスが、穴から出てきていたのだ。
どうやら、目覚めた後に自分で塞いだ土を掘って出てきたらしい。余裕がなかったせいでかなり薄かったので、簡単に出れたのだろう。
遠目から見ても今の状況に戸惑っていることが分かるくらいに、辺りをキョロキョロと見回している。
だが私はその様子を見て、嬉しくも戸惑うこともなく、ただひたすらに焦った。
何故かと言えば、あそこは壁の近く故にこの柱の木のような背が高く身を隠しやすい障害物がほぼない。
故に、ほど近い通路の出口へと向かうアピスの群れからは、その姿が
案の定というかなんというか、壁から這い出てくるシャドウヴァルプスの姿を捉えるや否や、新たな獲物発見とばかりに殺到するアピスの群れを、私は気配察知で捉えていた。
その気配を捉えると同時に、私は木の影から飛び出す。
一瞬でもこちらに注意が引ければいいなと思ったが、どうやらアピスたちにはシャドウヴァルプスしか映っていないらしい。そんなに飯が欲しいかコノヤロウ。
ある程度近い場所の柱の木に隠れていたことと敏捷力の高さが幸いし、殺到するアピスよりも私の方が速い。
と思ったのも束の間。先頭を行くアーミーアピスが、飛ぶ勢いのままにおしりの棘を突き出した。
毒か!
まだそれなりに距離があるにもかかわらずそのような行動を取るということは……
私の予想は的中した。突き出したトゲの先端に、紫色の液体が集まりだしたかと思えば、あっという間に見覚えのある毒の塊が生み出される。
まずいっ!このままじゃ間に合わない…!!
ただ毒針を刺しに行くだけであれば、その前に私が割って入って一撃入れられただろう。
ただ、あのように遠距離攻撃で先制されてしまうとさすがの私の足でも間に合わない。
しかしだからといって、攻撃を許してやるつもりも毛頭ない。
……あーっもう魔力ないって言ってんのに、さぁ!!
思考加速と並列思考を総動員して、即座に
さすがに、打ち出された毒玉を撃ち落とすなんて芸当はできない。なのでアピスの方を落とすわけだが、速度的に
だからこその
なけなしの魔力を使った一撃である。
威力以上にただ速さだけを意識して作ったそれは、私が思っていた以上の速度で飛び出していく。
ぐんぐんとアピスに迫る炎の刃。
それを見やり、私は心から間に合えと祈った。
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