050 ジン!ジン!ジンギスカーン!

 相変わらずよく燃えるなぁ。


 シャドウヴァルプスちゃんとの邂逅からしばらく。

 私は、土魔法を使って一箇所に集めた死骸の山を、火魔法で盛大に燃やしていた。


 最初はただ死骸を退かすだけにしておこうかと思ったのだが、土魔法で上手いこと死骸を移動させてかき集めるのがなんとなく箒で落ち葉を集めるようで楽しくなってしまい、結局勢いのままに燃やしてしまった。


 地下空間で盛大なキャンプファイヤーである。

 見た目は派手だし暖かいし明るい。

 唯一の欠点は、かなり臭いことだけ。

 土魔法で固めた土を鼻に詰め込む荒業でもって、ようやくマシな臭いってくらいだ。


 それにしてもあれだな、これを見てると小学生の時に学校の行事かなんかでマイムマイム踊ったときのこと思い出すなぁ。

 なんて、ぼんやりと火を見つめながらこの姿ではもはや叶わない光景を思い出す

 頭の中に流れる無駄に陽気なbgmは、最後に聞いたのが数年以上前ということもあってかなりあやふやだった。


 ……それにしても、こうして集めてみると意外と少なかったなぁ。

 いやまぁ多いっちゃ多いんだけどさ。最初見た時の印象からすると、この倍くらいはあるように見えたんだけど。

 コロージョンサーペントとの戦闘の余波で減ったとしても限度があるだろうし……やっぱり散らばってるのと一箇所にまとめられてるのだと量が同じでもパッと見の印象は変わるもんなんだなぁ。

 片付け、大事。


 ちなみに、その片付けもとい死骸集めの最中に背後で横たわるシャドウヴァルプスちゃんが起きることは無かった。

 当然のように、現在もお眠り中である。

 ……このキャンプファイヤーの臭いで目覚めてくれたりしない?

 …しないか。


 いやしかし、この子を見てると私ってかなり運良かったって思うんだよなぁ。

 もしあの狭い空間で目覚めてなくて、こんないつ魔物が来てもおかしくないような場所でこの子みたいに生まれてたら、こうやって目覚めるまでの間に食われてそうだし。

 まぁ私もこんなふうに目覚めるまでに間があったのかは分からないけど。


 ………この地下樹海に獣が少ないのってこういうことなのかなぁ。

 考えても分からなかったし、もうなんか慣れちゃったからあんまり気にしてなかったけど、虫の魔物は巣とか作って繁殖してたのに対して私とかボーンイーターとかみたいな獣が全くいなかったのって、つまり生まれて直ぐに食われてたってことだったのかな。


 目覚めるのが遅かったか、目覚めても弱かったか。

 そう思うと本当に私って奇跡だな。よく生きてここまで来れたな。

 コロージョンサーペントに襲われた時然り、エンペラービートルの時然り、クモの巣然り。

 こんな状況で何度も死にかけてるけど、なんだかんだ死んでない。

 どれもこれも私の豪運と警戒心の高さゆえだな。


 うん、そう思うと、この子シャドウヴァルプスのことも私がしっかり守ってやらねば。

 せっかく見つけた同種だし。

 他の魔物の獲物にはさせん。


 盛大に燃え盛る死骸の山を背後に称えて未だ寝こけるシャドウヴァルプスを見つめ、私はそう誓う。

 と、同時に、ふと、なにか大事なことを忘れているような不安感に襲われて胸が痛くなる。


 なんだろう、なんだっけ。

 魔物…そう、魔物だ。魔物でなんか………死骸の見逃しとかあった?

 コロージョンサーペントの……は、ここにあるしな…。


 ……あっ。

 あ!!いやちげぇ!他の魔物!!!

 しまった〜っ!同種を見つけて浮かれてた〜!!

 そうじゃん、こんなことしてる場合じゃなかった。

 ここに留まってたらほかの魔物が来る可能性があるんだから、ちゃっちゃと休むか移動するかを考えてたんじゃん!!

 ………魔力使っちゃったじゃん!!


 魔物という、自分で発した考えでつい先程まで考えていたことを思い出したものの、せっかく残っていた半分程度の魔力もこのキャンプファイヤーのためにかなり使ってしまったことに気が付いて私は悶絶する。


 何が私の豪運と警戒心ですかね。

 つい先程シャドウヴァルプスちゃんを見ながらドヤ顔で誓いを立てていた自分を思い出して自己嫌悪に至りそうになる。

 元々シングルタスクというか忘れっぽいというか、とにかく複数のことをあれこれ考えながら動くのが苦手な性格だったとはいえ、さすがにこの浮かれ具合は良くない。


 ……う〜ん、魔力はあと三割ってとこかぁ……。

 体力は余裕あるけど……魔力がなぁ。

 食い物は………いや、ないな。ない。ここのは食べたくない。こんな大自然の地下樹海にも最低限の衛生観念ってもんがあるだろう。

 これを食べてお腹を壊したりしたら、多分その時はア○サキスより酷い目に合いそうな不安がある。


 となると移動するしかないかぁ…??

 …うーん、でもなぁ〜………。


 未だに横たわるシャドウヴァルプスを見つつ、悩む。

 ただ移動するだけなら良いのだが、場所が場所だ。

 既に戦える余力が僅かなのに自分と同サイズの獣を引き摺りながら探索などできるはずもない。


 ……気配察知には…何もいないな…。

 魔力感知も異常なし。

 …う〜ん、もうここに来てからそれなりに経ってるから怖いけど……一旦休むか。

 魔力も体力も、時間を置けば自然回復するし…。というか正確には、体力が自然回復するから魔力も自然回復する、と言えばいいのか。

 もちろん食べた方が早く回復するが、この場合は仕方ない。


 全回復は望まずとも、とりあえず魔力半分までは回復したい。

 そこまで回復すれば、とりあえずこの子を運びつつ探索するくらいの余力は生まれるだろう。


 ……よし、そうと決まればさっさと動こう。

 とりあえず、万が一に備えて穴掘っとくか。避難用の。

 そこらの虫の魔物が来るくらいならいいけど、コロージョンサーペントみたいなバケモノが来たらどうしようもないからな。


 魔力に余裕はないものの、土魔法で簡易的な穴を掘るくらいなら問題はない。

 早速とばかりに横たわるシャドウヴァルプスの方へと駆け寄っていき、そのすぐ目の前、ヒビが入ったのとほぼ同じくらいの位置の壁にあたりをつける。

 位置的に、シャドウヴァルプスに最も近い壁なのだ。


 壁を覆う邪魔な草木をどかし、太い枝葉を牙や爪を使ってどかして隙間を開けていく。


 ある程度隙間が空いたら、今度は顔をのぞかせた岩肌に触れて土魔法を発動。

 穴を広げていく。

 ある程度広がったら、今度は手を突っ込んでさらに邪魔な草木をどかして入口を広げる。


 これを繰り返して、身体が入れるくらいの大きさにまで穴を広げたら、今度は穴を深くまで掘り進めていく。


 いつも作っている拠点ほど広く作ろうとするとさすがに魔力を使い過ぎるので、とりあえず私とこの子の二匹が入れて入口を塞げるだけの広さを確保だ。

 隠れられさえすれば、大抵の魔物はどうにかなるだろう。

 たまーにどうにかならないヤツ──エンペラービートルとかボーンイーターとか──はいるが、まぁ、その辺は来ないことを祈る他ない。


 よし。この調子でちゃっちゃと作るぞぉ〜!



 穴掘りを初めてから少し。

 あともう少し広げれば二匹で入れるか、というところまで掘り進めていたときだった。

 それなりに広がったということで、とりあえず穴の中にシャドウヴァルプスを運ぼうとその首根っこを咥えたところ、ついにを私は察知した。


 ……あぁ〜っ、とりあえずこの子は穴の中に入れとこう、よしそうしよう。


 位置はほど遠くなく、もうすぐこの空間にやってくるだろう。

 というか、気配を感じる場所からして、この魔物は私が辿ってきた道から来てるな。


 ……複数いるなぁ…。

 群れ、かな?壁越しだからぼんやりとしか分かんないなぁ〜……。


 う〜ん、仕方ない。

 私まで入ったら穴を塞げないし、ここは一旦この子だけ入れて塞いで、私は木の影とかに隠れよう。


 これは、穴を掘りつつ、もし今のタイミングで魔物が来たらどうしようかと考えていた際に思いついた案のひとつだ。


 私一匹なら、もし相手が物凄く強い魔物でもとりあえず逃げられる可能性はある。

 シャドウヴァルプスちゃんに関しては、逃げ切ったあとまたここに来て穴を掘り返せばいい。


 そうと決め、私は急いで穴の入口を埋めつつ、近付いてくる気配をより鮮明に感じようと、気配察知の感覚に集中した。

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