046 腐蝕ヘビ VS 狐 ①
体を包む火の影響で足元に転がる死骸がチリチリと燻ぶりだしているが、それを気にしている暇は今はない。
……やっぱり前に襲ってきたヤツよりもデカい…。
仮にあの時のヤツだったとしても間違いなくレベル上がってるだろうし、同じかどうかはもう判断できないなぁ。
…よし、観察してたら落ち着いてきたかも。
あんまりにも臭いから思わず酷い言葉使いをしちゃったけど、落ち着けばこんなもんだ。
大丈夫大丈夫。
……まぁ殺すことに変わりはないんだけどさ。
コロージョンサーペントっておいしいのかなぁ。食べようとしたら口の周りが腐蝕したりとか、しないよね……?
心底からじわじわと湧き出してくる恐怖を紛らわすように適当なことを考えつつも、コロージョンサーペントに対する観察は続ける。
ステータスを見ていてまず分かるのは、魔力と体力が極端に減っているということ。
恐らく、ここのゲジゲジを掃討してからそう長く経ってないのだろう。体力はまだしも、魔力のほうはほぼすっからかんと言ってもいいほどだった。
……あれだけ魔力がギリギリなら、魔法はそうそう使ってこないだろうし、警戒すべきはブレス攻撃、噛みつき、尻尾や体を使った攻撃、とかその辺りかな?
ブレスとかはそのままだろうけど、尻尾の薙ぎ払い攻撃の予備動作もそのままかなぁ。
流石にそこまで同じではないか……?普通に動いてる流れのまま尻尾の薙ぎ払いしそう…。
いや、ボーンイーターは突進噛みつきに決定的な予備動作があったし、案外コイツにもあるかな。
そこまで考えたところで、互いの距離が十数メートルもないほどにまで近づいてきたコロージョンサーペントが動き出した。
ぐっと首を持ち上げて、威圧するようにこちらを睥睨する。
同時に、それまで軽く打ち付ける程度だった尻尾をひときわ強くベシンッと地面に叩きつける。
おぉ…?…………っ!?
────瞬間。
全身を、底冷えするような悪寒が包み込む。
背筋が凍るなどという生易しい言葉では表せないほどの寒気とともに体が硬直し、心臓が縮こまってしまうようなひどい息苦しさに意識が支配される。
まだ少し距離があるコロージョンサーペントが、あり得ないほどに大きく、絶望的なまでに強く感じて、思わず悲鳴が漏れそうになる。
その感情は、気色の悪さは、良く知っているものだった。
知っているからこそ、こうも唐突に全身を駆け巡ったことに驚愕した。
それは、恐怖だ。
心底からの、圧倒的な恐怖。
それまで僅かにしか感じていなかった、死ぬかもしれない、という可能性に対する小さな恐怖を悉く塗りつぶして、
私が恐怖で硬直したのを見て、コロージョンサーペントは満足げに舌を出しつつこちらへの歩みを再開した。
…………はっ……ぁっ……!!
………違うっ………これは……違うっ!!
威圧だ………っ………………威圧のスキル………!!
レベルが高いとこんなに強力だったなんて……………クソっ!!
体が動かない………!強く、気を強く持て、私………!!
………大丈夫………………大丈夫っ!
唐突に湧き出た恐怖にパニックになりかけた思考を、その恐怖の湧き方に対して感じた違和感に意識を向けてどうにか落ち着かせる。
おそらくこの恐怖はスキルによるものだ。私自身がそう感じているわけではないはず。
コロージョンサーペントの威圧のレベルは10、さらに〈大蛇の威圧Lv.2〉などという威圧の上位互換っぽそうなスキルまで持っていた。
おそらくそれらによって引き起こされた、疑似的な恐怖だろう。
あるいは、心の奥底にある恐怖を増幅する効果、とかか。
大丈夫………よし、大丈夫……。
戦える、勝てる………ふぅ、はぁ、はぁ………。
………よし……。
苦労しつつも、一度冷静さを取り戻したことで徐々に体の感覚も元に戻ってくる。
ただ、凍り付くような悪寒は中々消えてくれなかった。
しかし、体が動くようになればそれで十分だ。
恐怖に支配されかけて、それを落ち着かせるためにかなり苦労してしまった。
その分、時間もかかった。
時間がかかれば当然、接近してきているコロージョンサーペントには有利なわけで…。
瞬間、第六感が猛烈な勢いで反応する。
私は未だ震える体を無理やり動かして、横っ飛びに回避する。
第六感が反応するまでもなく、感覚の戻ってきていた気配察知と魔力感知によって捉えることができていたそれは、接近してきていたコロージョンサーペントによる腐蝕ブレス攻撃だった。
ブシュウゥゥ!!と不快な音を立てながら、一瞬前まで私が立っていた地面とその周りの死骸がぐずぐずと溶け出す。
硫酸にトイレットペーパーを入れる実験動画とかこんな感じの溶け方をしていたな、などとどうでもいい思考が一瞬頭をよぎり、すぐに掻き消える。
…はぁっ!?
コロージョンサーペントは、私が恐怖で動けないことを前提にブレス攻撃をしてきたと思っていた。
実際私は、最初のほうは恐怖で動けなくなっていた。
だから恐怖から回復して、前世で飽きるほどに見てきたブレス攻撃の予備動作を捉えたとき、これをギリギリで回避すれば相手の予想外になって一瞬でも隙を作れるのではないかと思っていた。
だが、そんなことは全くなかった。
まるで想定通りと言わんばかりに、コロージョンサーペントは体をくねらせ、遠心力を乗せた尻尾を私に向かって振り払ってきた。
足の速さが優っていたことが幸いし連続して跳躍することで回避できたが、コロージョンサーペントはそこにさらに重ねるように、顔をこちらに向けて二発目の腐蝕ブレスを放ってくる。
くっそッ!!
私は未だに跳躍中、尻尾の薙ぎ払いは回避できたが、目の前で放たれたこのブレスは空中を踏むくらいのことができなければ回避のしようがない。
即座に回避不可と判断し、
ぐあっ!…ぐぅ!
咄嗟に魔法の発動に意識を裂いたせいで着地に失敗するも、私はそのおかげでどうにか腐蝕ブレスの直撃は回避できた。
腐蝕ブレスのかかった部分が痛むが、痛覚耐性もあり無視できる範疇。
大きな問題はなかった。
………このやろっ!!
私は更なる追撃から逃れるため、起き上がるのと同時に
並列思考と思考加速を総動員して、全力の一発をコロージョンサーペントへと撃ち放つ。
「クシャァァァ────!!」
至近距離から、即座に放たれた攻撃はさすがに回避できなかったようで、コロージョンサーペントは
その隙に、私は大きく距離をとる。
………あ、あっぶねぇ〜!!
ちょ、いや、マジで危なかった…。
なんだコイツ、戦うの上手くない??
予想外の反応をして、できた隙をつこうと思ったら私の方が予想外の反応に翻弄されたんだが??
…ふぅ。
でももうこれっきりだこのやろう。
ここからはもう、油断はしないぞ。
起き上がり、ベシンとしっぽで地面を叩くコロージョンサーペントを睨みつける。
向こうもこちらを睨んでくるが、もはや私の心に恐怖は生まれない。
威圧は気持ち次第で無効化されると書いてあったが、思った以上に気持ち次第らしい。
……次は私の番だ。
気合を入れるようにそう思い、私は
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