045 見覚えのあるもの、再び
気配察知の範囲内に現れた、覚えのある気配に返しかけていた踵を戻す。
まだこの体に転生して間もないころ、ここに似た広い空間で一度だけ出会い、襲われた相手。
その気配はゆったりと、くつろぐように、死角となっていた柱の樹木から姿を現した。
───それは薄い、砂のような色を、金のまだら模様で覆った独特の鱗を持つヘビの魔物。
尻尾の先に槍のような鋭く尖った爪が付いていて、頭部には二対四個の赤い瞳。
遠目に見ても私の数倍はあるんじゃないかというその巨躯をぐねぐねと蛇行させて這い進むその姿は、いつぞやの時から、いや
………"コロージョンサーペント"……!!
『《コロージョンサーペント Lv.26
ステータス
名前:なし
魔力:156/763
体力:789/1818
基礎攻撃力:1347
基礎魔法力:223
基礎防御力:911
基礎抵抗力:801
基礎敏捷力:566
スキル
〈魔力感知Lv.4〉〈魔力操作Lv.3〉〈嗅覚強化Lv.6〉〈温度感知Lv.7〉〈暗視Lv.3〉〈気配抑制Lv.6〉〈気配感知Lv.2〉〈威圧Lv.10〉〈大蛇の威圧Lv.2〉〈思考加速Lv.3〉〈魔力循環Lv.1〉〈魔闘気Lv.1〉〈飽食Lv.4〉〈悪食Lv.2〉〈第六感Lv.4〉〈自動回復Lv.1〉〈体力回復Lv.4〉〈腐蝕吐息Lv.4〉〈腐蝕毒液Lv.3〉〈鋭牙Lv.3〉〈尖尾Lv.8〉〈毒魔法Lv.6〉〈腐蝕魔法Lv.2〉〈毒耐性Lv.4〉〈腐蝕耐性Lv.5〉〈痛覚耐性Lv.2〉〈虫殺し〉〈アラネア殺し〉〈アピス殺し〉〈ジェロモーファ殺し〉》』
うっわつっよ……。
前に私を襲ってきたやつと同じ個体かなぁ?
流石に違うかな?
前にあったときはあんなにデカくなかったような気がする。
………いや普通に成長したのか。
そりゃそうか。私だって強くなってるし。
となると、あの時襲ってきたヤツである可能性もあるかぁ。
というか、腐蝕魔法か。他の腐蝕云々は知らないけど、腐蝕魔法はアルカディア・オンラインにもあったな。……私が使ってた魔法じゃないから内容はうろ覚えだけど。
鑑定を使って見たコロージョンサーペントのステータスは、正直に言って想像の三倍は上をいっていた。
特にスキルが凄い。
魔法を持っている魔物はたまにいたが、だいたいレベルが低かったり、あるいはその逆で魔法とか関係ないじゃんってくらい強かったり。
他のスキルもレベルが高く、威圧とかレベル10もある。
……まぁこのスキル発動してるのかどうかよくわからないんだけど。私が威圧しても、相手魔物だし。足千切れても殺そうとしてくるから、ビビってるのかどうなのかよくわからない。
レベルがもっと上がれば、ひと睨みで周囲の魔物が一斉に逃げ出す、とかもできるようになるのかなぁ?
…まぁそれは今はいいとして、このごみ溜めみたいなゲジゲジたちの惨状を作り出したのは間違いなくコイツなので、それ相応に強いのだろうとは思っていたのだが、正直想像以上だった。
攻撃力とかボーンイーター超えてるし、腐蝕は生身の体では基本致命傷だし、そのくせ土魔法で壁を作る程度だったら即溶かされて無意味だし…。
今の私の状態でも、まともにやりあうのは危険だろう。
……と、思ったそこのあなた。
残念!!そんなことはないだなぁ~これが。
ゲーム時代、幾度となくあのヘビの首を絞め、胴を掻っ捌いて素材としてきた私には、アイツに対する圧倒的な知識がある。
そのうえ、腐蝕は火に弱い。
コロージョンサーペントの火への耐性は……まぁ生物として並程度だろうが、腐蝕の攻撃はとにかく火に弱い。だから、
この鼻の曲がるような臭いも火で消せるといいのだが、強いて言えばこの強烈かつ最悪の臭いが一番のダメージと言えるだろうか。
つまり、思ったより強いけど戦えないこともない!
ここであったのも何かの縁。
ただ身を隠しながら必死になって爪と牙を突き立てていたあの事と今の私は訳が違う!
ボーンイーターだってソロで倒したしね。
腐蝕魔法の内容を思い出せないのが少し怖いが、まぁレベル2なら大したことはできないだろう。確かレベル1…もとい腐蝕魔法の一つ目の魔法はただ腐蝕を操作できるようになるだけ、みたいな、例えるなら魔力操作みたいなものだったはずだ。
まぁ、この考えはレベルがイコールでゲームの時の覚える順番だったときの話なので、これが全てだとは思わないほうがいいだろう。
だが、腐蝕攻撃自体はある程度予想できるから、ボーンイーターの咆哮ほど危険でもないはず。
……はず、かな?
吐息とか毒液とか、名前から分かりやすいし……ヘビだから毒液は間違いなく牙だろうし……。
う〜ん………。
まぁとにかく!!
勝率は高いし!!前に襲われた恨みもあるし!!
戦うしかないよなぁっ!!?
────瞬間、まるでこちらの殺気につられでもしたかのように、それまで悠々と這っていた首が持ち上げられてグルんとこちらを向いた。
どうやらこちらの気が付いたらしい。二対四個の赤い目が、私のことを見返してくる。
おっ、おぉ~……こっち見んな……?
流石にいきなり見つめられると怖いな。
などと言っている間に、コロージョンサーペントの方は擦り切れるような、あるいは砂が弾けるような独特の声を出してこちらを威嚇しだす。
口に出すなら、シャアアアアア!!だろうか。
鋭利なしっぽの先端を地面にバチンバチンと叩きつけ、牙を見せつけるように口を開きつつ私の方へと徐々に近付いてくる。
尻尾が地面に叩き付けられる度に飛び散っている破片は、地面の土や草木ばかりではないだろう。
戦おうとは決めた。
いつぞやに襲われた時の復讐──蛇違いかもしれないが──でもあるし、単純に勝てる可能性の高い格上だと思ったからだ。
……ただ、ただなぁ。
………この下に降りるのかぁ………。
覗き込めば、そこには地面がほぼ見えなくなるほどに山と倒れた腐りかけのゲジゲジの死骸の山。
腐っているのは、まぁまず間違いなく自然なものではなくコロージョンサーペントのせいだろう。
足の踏み場もない、とはこのことか。
以前、某動画配信サービスで、山積みのゴミで床が見えないゴミ屋敷をひたすら片付ける動画を見た事があるが、あのゴミが全て腐りかけの生ゴミだったら恐らく今の目の前の惨状と似たような感じになるのではないだろうか。
地下だから良いものの、場所が場所なら
……うぅ……アイツの方がこっちに上がってきてくれないかな……。
…いや、それはダメだな。横幅があるとはいえそれでもこんな狭い通路でアイツと戦うのはさすがに危険だ…。
……うぅ…降りるしかないか…!!
覚悟を決めろ私…!!勝てる格上には勝つのが強さへの近道だぞぉ…!
ぅぅ……えいっ!!
ストン。
ぐじゅ。
ぐちゃ。
うぐああぁぁぁ………。
着地の瞬間、思わず目を閉じてしまったのは失敗だった。
足先から伝わる、何かを踏み潰した感触を存分に感じ取ってしまったから。
………ぐうぅ!!我慢、我慢だ。
くそ!これがただの死骸なら全然いいのになぁ!!なんでこう、ちょっとどろっと溶けてて形が崩れてて臭いが酷いんだ!
あぁもう全部アイツのせいだ!!
ぶっ○してやる!!
完全な私怨を込めて向けた目線の先、この色々と凄惨な状況の元凶たるコロージョンサーペントは、私から15メートル程の位置で止まってこちらの様子を伺っていた。
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