043 焼き加減はチャコール
ボゴゴゴゴゴガァッ!!!!
「キィィ────────!!!」
爆発とも断裂とも取れない爆音を響かせ、うじゃうじゃと積み重なったゲジゲジの山が盛大に燃え上がる。
ヒャッハァー!!!
汚ねぇ花火だぜぇ!!!
今の一撃だけで目前に折り重なっていた十数匹を一掃できたようで、悲鳴を上げるヤツはいてもそのほとんどは瀕死になっていた。特に直撃した数匹などは、体が両断されて燃え上がっている。
このまま
ここからは
おぉおぉ燃え上がってらぁ!
……も、燃えすぎじゃない?
魔法で生み出す炎だからか自然鎮火が異様に早かったため今まであまり気にせず使ってきた火魔法だったが、なんだか今回は様子が違う。
どうやら高威力広範囲で一気にダメージを与えたせいで、ゲジゲジの死骸を燃料にして燃え上がっているようだった。肉に脂分が多いのだろうか。燃えすぎでしょうよ。
こんな植物だらけの洞窟で火事とかシャレにならんぞ。
火は火耐性があるから問題はないだろうが、一酸化炭素中毒とか、火で焼ける以外の問題もある。
と思ったが、かといってどうやら鎮火している暇もなさそうだった。
今の一撃の衝撃と熱波は通路の奥まで届いたらしく、少なくとも私の気配察知で感じ取れる範囲内のゲジゲジが一斉に動き出した。
……私のほうに向かって。
っなんでやねん!!
今ので逃げ出したところを追いかけつつ
流石にこの数を相手取るのは無理っ!!
足に力を込め、後ろに跳ぶ。そのまま体を後ろに向けて走る。
すぐ動けるよう構えておいて良かったと思う。足は私の方が圧倒的に速いので、全速力で逃げれば追いつかれることはないだろう。
ちょっと想定とは立場が逆になったが、まぁ逃げつつ
……って、あれ?
あれ、なんか止まってる……?
というか……あっ、まさか燃え上がってる死骸と樹木を乗り越えてるから、それで体が燃えてるってか!?
振り返ってみてみると、まさに案の定といった感じだった。
ごうごうと燃え上がる炎の壁を大量のゲジゲジが続々と突っ切ってきては、体に燃え移った火にやられて倒れて行っている。
しかも倒れたゲジゲジがさらに燃え上がる山となって後続の動きを妨げている。
気配察知と魔力感知で探ってみるが、多分虫だから感情とかないのだろう。仲間が攻撃されてみんな反撃に行くから、自分も行く、みたいな感じなんだろう。
車の衝突試験の如く、一匹たりとも躊躇せずに火の中に突っ込んでいく。
火を見たことがなくて熱を感じるのも初めてだから本能的な危機感を覚えない、っていうのもあるのかなぁ…?
それにしても、なんというか、ここまでくるとちょっと可哀そうだな…。
うぞうぞと動き回る無数の足と節のある細長い体が、燃えながら痙攣して次々と動かなくなる様は爽快感も凄いが、気配察知と魔力感知で続々と炎の壁に突っ込んでは燃えていく様子も分かるので哀れにも思えてくる。
…あ、でも見事に火に耐えて私に近づいてきたお前は
だからといって近づいてきたらお祝いにやられてやるつもりもないが。
『《グレータージェロモーファ Lv.7
ステータス
名前:なし
魔力:19/32
体力:8/416
基礎攻撃力:168
基礎魔法力:7
基礎防御力:111
基礎抵抗力:95
基礎敏捷力:193
スキル
〈視覚強化Lv.2〉〈暗視Lv.4〉〈気配抑制Lv.1〉〈気配察知Lv.1〉〈悪食Lv.2〉〈体力回復Lv.3〉〈火耐性Lv.1〉》』
うぉっ!?
こいつ火耐性ゲットしてるじゃん!!
…あ、死んだ。
流石にレベル1じゃ耐えきれなかったみたいだけど、これだけ燃やされればまぁ取得もするか。
そうなると、ここからは私に届くヤツも増えてくるかもなぁ。
いつでも
結論から言うと、あの一匹以降、私に届くようなやつはいなかった。
みんな火の壁に突っ込んで、途中で力尽きて燃料になって、さらにそれで火の壁が増えて、そこにゲジゲジが突っ込んで……その繰り返し。
あの時火耐性を取得していた一匹が、ゲジゲジたちの最後のチャンスだったわけだ。
あまりにも儚く脆いチャンスだった。
こういうの、詰みっていうんだよ。
あと、結局心配していた二酸化炭素とか一酸化炭素とかは全然問題なかった。
ゲジゲジが死ぬたびに火の勢いはますます強まり、さらにそれが周囲の植物にも引火して洞窟内はとんでもないことになっていたのだが、火耐性のおかげかちょっと暑いくらいにしか感じず、息苦しくなることもなかった。
火はゲジゲジの死骸が増えるうちは、常に燃料が投入され続けていた状態だったからか勢いは増すばかりだったが、ゲジゲジが全滅してからは徐々に収まっていき、今は死骸や炭となった植物が多少燻ぶっている程度になった。
やはり火魔法産の火は自然鎮火が速くて助かる。
それにしても、凄い数の死骸だなぁ。
もれなく全部ウェルダン、なんならカーボンも多い。
というかカーボンの方が多い。
…あ、カーボンって炭素のことだっけ。
あれ、炭って英語でなんて言うんだっけ?
…………まぁいいや!!
さて。
あれだけの数だったし、正直かなりの魔力を消耗するかと覚悟していたのだが、結局消耗したのは最初の
魔力も体力もまだまだ残ってるし、正直これだけの数を他の魔物が来るより先に食べきれる気もしないから、せっかくだがここはスルー……に、しようと思った。
けど、実は私、火魔法を使えるくせにこれだけしっかり火の通った肉は、キツネになってからこれまでほぼ食べたことがない。
火を使うことで一酸化炭素中毒とかになって倒れるのが怖かったためだ。
拠点の中は狭いし、多分火魔法とか使ったらあっという間に中毒になると思っていた。
他にも戦闘後で魔力が少ないから、とかの理由もあるけど。
でも今回のことで、私が魔物だからか火魔法の原理のせいなのか、そういう中毒にはならないことが分かったし、何より目の前にこれだけ焼けた肉があるのだから多少は食べないと損というものだと思う。
なので、完全スルーはやめておく。
ひとまず拠点を作って、その後未だ熱が燻ぶる死骸の山を散策する。
殆ど炭か一部灰化している中から、どうにかちょうどよさそうな焼き加減の死骸を見繕う。
それを拠点内に持ってきて、並べる。
見つけた死骸は三つ。焼き加減は左からウェルダン、ベリーウェルダン、ベリーベリーウェルダン(一部炭化)である。
虫とはいえ、これだけデカければ肉だって立派なものになる。
それはこれまででよくわかっている。
どんだけ不味くても、ちゃんと火が通ってればおいしい可能性だってある。
よし。
おそらく前世以来の"焼いた肉"。
とりあえず一番マシな焼き加減だった左から。
いざ、実食────!!
………………お?
…………おぉ!?
…………おっ…………いしくはないな………。
なんだろう、なんていうか、なんだろうこれ。
あれだけ燃え上がったのだから脂分が多いのかと思ったら、パッサパサだこれ。
焼けてるせいか苦味が強く、その中に仄かな甘みがある。
甘みといっても甘味料とか砂糖のそれじゃなくて、野菜とか炭水化物に感じるような薄くて浅い甘み。
無味無臭のカ〇リーメイトに、ブラックコーヒーとひとつまみの砂糖を染み込ませてパッサパサに乾燥させたららこんな感じになるんじゃなかろうか。
…………いや、この例えはカ〇リーメイトとコーヒーと砂糖に失礼かもしれない。
ごめんなさい。
口の中に唾液が溢れ、それがパサパサの肉に欠片も染み込まず弾かれて口の端から零れていく最悪な触感を感じながら、お米の甘みって努力の結晶だったんだなぁ、と私はなんとなく思った。
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