042 強くなったなぁ
点在するヒカリゴケが放つ淡い光が、緑の洞窟に僅かな明るさを届ける。
生命の気配を感じない自然の迷路は、その僅かな光でもほの暗く輝き、自然の神秘を感じさせる。
そんな天然の神秘を、無遠慮な明かりと熱で台無しにする緋色のキツネが一匹。
私だ。
フハハハ!!!喰らえ四連
四つ連なって撃ち出された火の玉が、逃げ惑う八つ足の影を撃ち抜き、その身体を焼き焦がす。
痙攣しながら倒れ伏したソイツは、全身を黒い甲殻に覆われたアラネア。
私がよく知る相手だった。
『《アサシネイトアラネア Lv.15
ステータス
名前:なし
魔力:116/133
体力:29/795
基礎攻撃力:816
基礎魔法力:11
基礎防御力:160
基礎抵抗力:126
基礎敏捷力:954
スキル
〈暗視Lv.8〉〈気配抑制Lv.9〉〈気配察知Lv.6〉〈思考加速Lv.4〉〈武闘気Lv.2〉〈第六感Lv.7〉〈体力回復Lv.5〉〈鋭爪Lv.4〉〈蜘蛛糸Lv.10〉〈粘糸Lv.8〉》』
あまりにも特化型すぎる……。
倒れ伏した一匹を、死亡確認も兼ねて鑑定する。
死んでいるとステータスが表示されずに死骸と説明されるので、それを利用しているのだ。
しばらく鑑定し続けていると、あまり経たないうちにアサシネイトアラネアは動かなくなり、やがて鑑定の結果も死骸へと変わった。
ステータスを見て分かったが、このアラネアという魔物、揃いも揃って特化型だった。
ハイアラネアなどの白いアラネアは基礎敏捷力が高いもののまだバランス型と言えるステ振りだが、このアサシネイトアラネアを始めとする派生っぽい感じの個体は極振りとしか言いようがない超特化仕様だった。
アラネアの巣から生還したあとのこれまでの探索でアラネアとは何度も戦闘したが、見ての通りとにかく防御力がカス。どいつもこいつもカス。スーパー紙装甲。
ただでさえ火に弱いっぽいのに外骨格も紙過ぎて
細い足とか至近弾で重傷になってる。
でもその分速度と、自分の得意な攻撃手段に力を全振りしてるから私も戦闘に余裕は持てない。
どれだけ紙装甲でも一撃が重すぎるからボーンイーター以上に攻撃を受けられない。
その余りにも覚悟がキマりすぎたステ振りに元RPGゲーマーの私としては脱帽を禁じ得ないよ。
だがまぁ、結局のところ速度はほぼ互角だし、なんならアラネア次第では私が勝ってるし、しかもこっちが連打できる通常攻撃は相手にとって致命傷。
戦いに余裕が持てないとはいえ、もはや死を感じるほどの相手でもなくなってしまった。
実際、この一匹は私に襲い掛かってきた五匹のうちの一匹で、四匹焼き殺したら逃げ出したので追いかけていたのだ。
……私も強くなったなぁ。
ここまで強くなれたのは色々あるけど、やっぱりこの〈並列思考Lv.3〉のおかげかな。
このスキルの使い方が分からなかったときでも、アサシネイトアラネアと戦うことはできてた。
けど、ここまで軽くあしらえるようになったのは間違いなく並列思考の使い方が分かってからだ。
なんたって魔法を四つ同時に発動できるからな。
多分レベル1毎に一つづつ増えるっぽい?だから今は四つ同時が限界。
ちなみに一つとか二つしか発動しない場合は、その分余った思考を発動速度を速めることに使える。
このスキルのおかげで今まで以上に多彩な戦闘が可能になって、正直ステータスが近いだけの魔物だったら全く苦戦せず倒せるようになった。
前なら発動に少し時間が必要だった
なんというか、このスキル、並列思考とか言いながら思考を増やしてるわけじゃないんだよな。
思考というよりも、その思考の中の処理を増やしてると言えばいいのか…。
パソコンで言う、メモリとCPUが増設された感じかなぁ。
だから、思考自体は一つなんだけど、その中で全く別々の魔力操作やイメージの構築ができて……みたいな?
…………あれ?
なんか、改めて言葉にしてみるとちゃんと並列思考できてる感じがする…。
私の思考に対する認識が間違ってたのかな…。
なんか、ごめん。並列思考ちゃん…。
っと、そうだ。
こんなことしてる場合じゃなかった。
最近分かったんだけど、魔物の死骸を洞窟の中に放置すると、普通に魔物来るわ。
これまでは拠点を作ってその中に入れたり、その場ですぐ食べたりしてたからあんまり分からなかったけど。
魔物の死骸があるとどこからともなく魔物が現われて、その場で食べたり持ってったりする。
お前らハチなんだから花の蜜でも吸いなさいよ。
だから、魔物の死骸の近くにはあんまり長居しないほうがいい。
まだまだ魔力も体力もあるし、もっと探索しよう。
え?アサシネイトアラネアを食べれば魔物の心配もないって?
あんなもん食えるかぁっ!!!
…………ん?
アサシネイトアラネアを蹴散らしてからしばらく。
探索を続けていると、私は気配察知で魔物の気配を察知した。
通路の先……太い木が生えてるせいで葉とか蔓が茂ってよく見えないけど、魔物がいる…。
しかも結構な数がいる…。
巣なのかな?ぜんっぜん動かないけど。
…ちょっと覗いてみるか。
気配抑制を発動。
少しでも動く気配があったらすぐ距離を取れるように、気配察知と魔力感知で様子を伺いつつ接近する。
視界を遮る葉や蔓を退け、慎重に向こう側を覗き込む。
うっわっ!!
覗き込んだ私が最初に感じたのは、生理的嫌悪と全身を駆け巡るゾワゾワという不快感だった。
その光景ははっきり言って、大量のクモが迫り来る光景よりも気色が悪かった。
そこには、ひたすら足があった。
節足動物特有の細いチューブのような足。
それが、緩く湾曲した深緑の洞窟の中、カーブで見えなくなる地点までびっしりと隙間なく地面と壁の下半分を覆っていた。
『《グレータージェロモーファ Lv.8
ステータス
名前:なし
魔力:37/37
体力:448/450
基礎攻撃力:202
基礎魔法力:8
基礎防御力:145
基礎抵抗力:117
基礎敏捷力:218
スキル
〈視覚強化Lv.2〉〈暗視Lv.4〉〈気配抑制Lv.2〉〈気配察知Lv.1〉〈飽食Lv.1〉〈悪食Lv.2〉〈体力回復Lv.3〉》』
ジェロ…ん??
いや…っていうかこれ、コイツらアレだろ。
さすがに分かるぞ私でも。
これ
ゲジゲジ。
益虫とか言われてるくせに見た目が欠片も益にならないので総合的にはマイナスに振り切ってる害虫。
ゴ○ブリを素手で掴めるタイプの私だが、それでもこいつの見た目は流石に引く。
こう、生物的に嫌悪を抱かざるを得ない見た目してるよね。
蓮コラが集合体恐怖症の人じゃなくても気持ち悪く感じるのと一緒。
そんなものの、さらに私より二回りくらいデカい感じのグレーターなバージョンが隙間なくびっしりと通路の奥まで寝そべっているのだから、悲鳴のひとつも出るというものである。
あ、でもステータスはそんなに高くないなぁ。
こいつも…こいつも。
………あ〜………はいはい……。
おーまじか。光景は本当に気色悪いけど、コイツら一匹一匹はそんなに強くない。
少なくとも鑑定で確認できる範囲で強いヤツはいなさそう。
……火魔法で蹴散らすか?
……うーん…でもこの数か……。
何匹いるんだろうこれ。綺麗に並んでるわけじゃないから数えられないなぁ。重なってたりもするし。
とにかくいっぱい!!
最悪だなっ!!!
よし、やるか。足は圧倒的に私の方が速いし、やばそうなら逃げればいいでしょ。
せっかくまだバレてないんだし、最初の一撃は盛大に行こう。
魔力を練り上げ、私の左右に並ぶように二つずつ
極力横に長く、ただ火の刃をぶつけるのではなく、燃やしながら切り裂いていくようなイメージで。
横に長く、薄く、しかしいつも以上に魔力を込めて威力は高めて。
フッフッフッ…。
そんなびっしりと固まって寝そべるとか、一掃してくださいって言ってるようなもんなんだよなぁ!!
喰らえ即興!
名付けて────
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