037 骨喰い VS 狐 ②
私の右後ろ足を包み込む巨大な黒い手が視界に映る。
掴まれたっ!?
そう思うものの、時すでに遅し。
魔法を打ち込む余裕もなく、私の足が引っこ抜けそうな勢いで引っ張られる。
実際、私は引っこ抜かれたらしい。
バゴンッ!!という破砕音を耳元で捉えながら、一瞬全身が土と石の塊に強打され、気が付いたら空中にいた。
ぐらんぐらんと揺れる意識の中、このまま着地するのはマズいと必死に姿勢を整えようとするも、中々体が言うことを聞いてくれない。
「グアアアアアァァァァァァ────!!!!」
そんな中、響いた絶叫を聞いて咄嗟に意識が気配察知へと向く。
半ば反射的に発動した思考加速により僅かにゆっくりとなった周囲の景色の中、私はこちらに走ってくるボーンイーターの気配を捉える。
その後すぐに目視でも捉えた。どうやら、着地した瞬間を狙って追撃しようとしているらしい。
ぐぅぅ──!!ヤバい、ヤバいヤバい!!
こんな状態で追撃されれば、噛みつきでなくとも攻撃をもろに喰らって致命傷は確実。
それは絶対に避けないといけない。
思考加速で遅くなった視野の中、攻撃を避けることだけを考える。
姿勢の制御はやっている。やっているが、土塊に体が強く打ち付けられた衝撃がまだ残っていて上手く動かせない。
それに対して、思考加速のスキルによって意識が早くなっているためか、衝撃でぐわんぐわんと揺れる頭の痛みはだいぶ治まった。
私は前世で、画面越しとはいえボーンイーターと戦っている。
序盤のダンジョンのボス、あるいは中ボスとして頻出していた上に、素材も欲しかったから。
それはもう、何度も、何度も。
だから覚えている。コイツの攻撃モーション、予備動作、そして"弱点"。
流石にゲームのように決められたモーションとパターンに従うだけではないようだが、それでも弱点まで違うことはないだろう。
だから、咄嗟に、反射的に、まともな着地を諦めるという選択肢を選んだ。
私は着地を諦めて、目前に迫る黒い巨体に向けて魔法を放つ。
アイツの弱点は、火だ。火、特に爆炎魔法──アルカディアオンラインにおける火属性魔法──による攻撃によく怯む。
爆炎魔法ほどではなくとも、火であるなら同じ効果が期待できるはずだ。
少なくとも、追撃を防ぐくらいの効果は────
ぐえぁっ!?がっ、うぅっ!!
元々綺麗に着地など出来そうもなかったが、途中で着地を諦めて魔法を放つことに意識を向けたため、最低限の受け身すら取れなかった。
…ぅ…ぐぅっ!…ぁっ……っ!…ぁぁっ!はぁっ!はぁっ!
落ちた衝撃で肺の中の空気が全て吹き飛んだせいで、喘ぐように息をする。
立ち上がりたいものの、肺に十分な空気が入らないのか、体に力が入らない。
だが身体はパッと見では無事なようで、少なくとも足の骨が逝くといった致命傷は負っていなさそうだった。どうやら、地面に生い茂る草や苔が多少のクッションになったらしい。
気配察知でボーンイーターの気配を探ると、私から少し離れた位置でこらちの様子を伺っているのが感じられた。
先の
そのまま逃げてくれるともっとありがたいのだが……まぁ、それはないだろうなぁ。
ボーンイーターがこちらを警戒しているのをいいことに、慎重に呼吸をしつつ身体を起こしていく。
今の呼吸もままならない状態だと、まともな魔法も放てそうにない。とりあえず動けるまで回復しないと。
「グゥルルルルルル……」
立ち上がり、ボーンイーターを見ると、私の周りをゆっくりと回るようにしてこちらを見ていた。
先の
おそらくコイツにとって初めての火だったのではないだろうか。
警戒して襲い掛かってこないのは今はありがたいことこの上ないので、頭上に
ゆっくりと落ち着いて呼吸をしていったからか、すでに呼吸のほうは治ってきた。投げ飛ばされた痛みや墜落した衝撃は未だ体に残っているが、それは痛覚耐性で無視できるレベルだから問題はない。
魔力の残りは…600ないくらいか……。
よし。まだ、いける。
もう逃げるのは無理だ。あそこまで完膚なきまでに逃走を潰された以上、ここから逃げようとするのはむしろ危険だろう。
逃げるにしても、隙を作らないと。
だから、もう
ふぅ…。
大丈夫、大丈夫。
これまでに戦いを避けてきた魔物に比べれば、コイツはまだまだ弱い。
それに、私はこいつの攻撃パターンを知ってる。
思い出せ、全部覚えてるはずだ。
弱点も突ける。速度で劣ると言ったって、私の方がちょっと低いだけだ。
いける、大丈夫、勝てる。
「グルルルルルルル……グアアアアアァァァァ!!!」
勝てる!!
しびれを切らしたのか、大口を開けて突進してきたボーンイーターに、頭上に留めていた
ボーンイーターはそれを見て横に大きく跳んで避けるが、私はその隙にボーンイーターから距離をとるように走り出す。
ボーンイーターの攻撃は喰らっちゃいけない。
噛みつきは当然ながら、それ以外のどの攻撃でも致命傷クラスだと思ったほうがいいだろう。
そうなると、近づいて接近戦は論外。
そして私の得意な攻撃は魔法による遠距離攻撃。
なので、必然的に戦い方は一つに絞られる。
そう、引き撃ちだ。
それを避けようとしたボーンイーターの動きを読んで、避けた先にも
ボーンイーターはそれも避けようとして、無理に動いて走りに僅かにブレーキをかける。
走る速度は向こうがわずかに上だが、こちらの攻撃を避ける以上、どうしても多少の減速は発生する。
それが、私の勝利の鍵。
足元を狙った
その跳躍の勢いのまま、着地と同時にさらに強く踏み込んで加速する。後ろ足の力がよほど強かったのか、地面が抉れて草と土の混ざった大きな塊が跳ねた。
────だが、それは予想済み。
ボーンイーターは全力で加速するとき、跳躍する。
跳躍して、その勢いのまま、
跳躍したあと、ボーンイーターは真っすぐしか走れない。
そしてそれだけの勢いがあるなら………
急制動をかけても、容易には止まれない。
バカめぇ!!
火魔法Lv.5:
火魔法Lv.5:
それは、火に"質量"と"形状"を与え、刃状に形成して飛ばす魔法。
私が新しく習得した、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます