036 骨喰い VS 狐 ①
やっばっ!!
すぐに顔を伏せ、そのまま木の根に転がり落ちるような勢いで身を隠す。
が、ちょっとあれは手遅れな気がする。
…いや、私が勘違いしただけで、もしかしたら別の何かを見てただけなのかもしれない。
気配察知もレベル1だったし。
……あれ気配察知だったかな。字が違ったような………。
いや、気配察知レベル1だ。そうに決まってる。
私が実はバレていない可能性にかけて、もう一度そーっと覗き込んでみる。
うぉぉおああああこっち走ってきてるぅぅぅ!!!
今度は正真正銘木の根から転げ落ちつつ悲鳴を上げる。
ばっちりバレてました。ですよね。
サーベルタイガーを彷彿させる長く鋭い牙が下顎から生えたデカいクマが、悪鬼のような形相でこちらに迫っているのがチラリと見えた。
やっばいやっばい!!
速くどっかに隠れて…あぁ!土魔法!壁壁壁ぇ!!
戦いたくないので当然ながら隠れてやり過ごすという結論に至った私は、急いで通路の壁まで走り、土魔法で空間を作る。
地面を掘ってそこに隠れるという手段もあるが、それだと万が一攻撃されて埋めた土が壊れたときにそのまま生き埋めとなってしまう。
生き埋めになるだけならまだ土魔法で掘り返して脱出できるが、そのまま押しつぶされたりすればもう終わりだ。
土魔法で作った空間の中に入り、蓋をして壁に偽装して気配を殺す。
気配抑制全開である。
外からこの壁を見るとこの部分だけわずかに草木が無くなっているので不自然だろうが、その辺の魔物がこれに違和感を抱くことはないので特に問題はないはずだ。
そうやって隠れている間にもボーンイーターはぐんぐんとこちらに迫ってきていて、すでに気配察知や魔力感知で捉えられる範囲内にまで来ていた。
あの巨体で私よりも足が速いとだけあって、接近もあっという間だ。
ひぃぃ~、あっぶないなぁ。
あとちょっと隠れるのが遅れてたら隠れるところ見られてたかも。
……こういうフリーホラーゲームあったよな…。
………ガタガタガタガタ…。
見つかったとはいえ、壁の中に隠れることができたために心に若干の余裕が生まれる。
これまで、この方法で発見されて追撃を喰らったことはほとんどない。
見つかっていたとしても、その場合はさらに奥まで掘り進めればいいので、たいていの魔物は見失うか、見つけても諦めるかとなる。
今までこの方法で色々な魔物をやり過ごしてきた私には、この逃走方法にそれなりの自信があった。
え?
うるせー!!逃げるが勝ちなんだよぉ!!
…っと、結構近づいてきたな。
気配察知と魔力感知でボーンイーターの位置を探ると、ちょうどさっき私が顔を出した木の根を乗り越えた辺りにいた。
飛び越えたあと、辺りを見回してから、私のいる方向をじっと見つめて、そのままのそのそと歩き出した。迷いなく、まっすぐこっちに。
……あっ、これバレてる。バレてるわ。
気配抑制意味ないわこれ。
もっと深めに掘ろう。あと一応、壁を補強しとこ。
土魔法Lv.3:
触れている土か、土魔法で形成した土を補強し硬くする魔法である。
魔力を込めれば込めるだけ硬くなるのだが、現状の私の魔力量だと半分くらい注いで鉄くらい硬いかってところであり、この魔法一つにそこまでの魔力を込めることはできないのでそこまで硬くできない。
まぁ、掘られるのを防げればいいのだ。
多少硬ければそれでいい。
あ、ボーンイーターが走り出した。
こわ、突進で無理やり壁を壊すつもりかな。
ふはっ、そこまで硬くできないとはいえ、ただ突進するだけで壊れるほど柔じゃないんだなぁこれが。
ボーンイーターが、私のいる壁に近づくにつれて加速する。
木の根からすぐの壁なのでそれほど時間がかかるはずもなく、凄まじい勢いのままボーンイーターは私のいる壁に激突し────
私が隠れていた壁は、轟音を立てながらガラスのように砕け散った。
私は、突如反応した第六感に従い、ほぼ反射的に土魔法Lv.4:
同時に魔闘気と魔鎧も発動して身を守ったおかげで、粉砕された壁に押しつぶされることはなく無事だったのだが、そのあまりのあっけなさに絶句して硬直してしまった。
硬直が解けたのは、その後にガリガリと粉砕された土をボーンイーターが退かしていく音が聞こえたからである。
……っ!
あ、アイツ、壁を噛み砕きやがった!!
どんだけ顎が強いんだよ!!ボーンイーターじゃなくてストーンイーターとかに改名しろぉ!
や、やばい、咄嗟に発動した
こんなに簡単に壊されるんじゃむしろ袋のネズミならぬ袋のキツネなんですけど!!
このままここにいたらダメだ。
もっと深く掘らなきゃ……。
すぐにそう判断し、土魔法で奥へと掘り進めていく。
ただ、この魔法はそう早く掘れるものではない。
これまでずっと使ってきた魔法で、使い方のコツも分かってかなり早く掘れるようにはなっているが、それでも土を消失させているわけではない。
どんなに頑張っても、掘るには多少の時間がかかる。
ましてや、私が通れる程度の穴を掘りつつ、背後の穴を埋めて、
当然、少し広めに掘らねばならないとはいえただ掘るだけのボーンイーターのほうが、早い。
ボーンイーターが突然掘るのをやめ、穴から離れていく。
私はそれを気配察知で捉え、私を追うのを諦めたのかと掘る手を止めた。
だが、それは全くの勘違いだった。
……いや、違う、まだアイツ諦めてない!
クソッ!また突進で噛み砕くつもりか!
ヤバい、掘らなきゃ!!あぁぁもう!!
なんだよもぉぉ!!またかよぉぉ!!!
私が気が付いた時には、ボーンイーターはすでに助走を始めていた。
私は急いで穴を掘るのを再開するが、その速度は、ボーンイーターのそれに比べて、あまりにも遅かった。
───この光景は、知っている。
私はこれを、一度体験している。
小さな穴に隠れた私に向かって、私より遥かに大きなバケモノが、突進してくるこの光景。
あの時は突如だった。前触れもなく、いきなりそうなった。
でも今回は違う。強くなったスキルのおかげで、大口を開けて突っ込んでくる相手が良く分かる。
……
私がふとそれを自覚したとき、その光景を、衝撃を思い出したとき、私の全身は突如として恐怖に竦み、動けなくなった。
ただ、それでも咄嗟に
瞬間。
轟音が響き、全身を土塊が打ち付ける。
今度は咄嗟に展開した
私が通れる程度の穴しか掘っていないのに、どれだけの速度で突っ込んで壁を噛み砕けばここまで粉砕できるのか。
破壊されたとはいえ、一応
半身が粉砕された土に埋まってしまったとはいえ、逆に言えばこの程度で済んだ。今の衝撃で穴が崩落して、文字通りの生き埋めにはならなかったらしい。
……ボーンイーターは何を……いや、気配察知に集中する前に穴を掘るのを再開しないと…。
衝撃でか、それとも一瞬思い出した恐怖のせいか、私は気配察知や魔力感知による周囲の感知を切ってしまっていた。
より正確に言うと切れたわけではなく鈍くなっているだけなので、ボーンイーターがすぐ近くにいることくらいは朧気に感じられるのだが……正確な距離感がつかめない今の状態は、切ってしまったと言っても間違いではないだろう。
だからだろう、私は、ボーンイーターとの"距離感"を見誤った。
体に乗っかった土を土魔法で退かして、体に違和感がないかを確かめつつ急いで立ち上がる。
立ち上がろうとして、私は突如後ろ足に現れた巨大な違和感に動きを止める。
否。それは違和感ではない。
見なくともわかる。分かるが、ただそうだと認めたくないだけだ。
そうであってほしくないから。
だが、気持ちではそう思っていても、体はそうではない。
感じた違和感を確かめようと私は即座に体を捻って振り向き───
見た。
私の右後ろ脚をむんずと挟み込んで掴む、デカくて黒いボーンイーターの両手を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます